顧問弁護士物語vol.2 -クレーマーとは、物わかりでなく物わかれを目指しましょう-

「クレームにはどう対応するのが正しいの?」

クレーム対応。
多くの経営者が一度は悩んだことのあるトラブルではないでしょうか。

私が顧問を務めているセミナー会社様も、どのようにクレームに対処すればいいのか、悩んでおられました。
このケースで企業はどのようにクレームに立ち向かったのか、小説仕立てでお伝えします。
※本ブログでは、不当なクレームのことを「クレーム」と表現します。

食い違う主張、もしかしてクレーマー?

このセミナー会社では、「内容に満足できなければセミナー料金を返金します」とパンフレットに謳っていました。と同時に「講座終了後1か月以内にお申し出頂くことが必要です」という適用条件も明記していました。

しかし、講座を受け終わり半年たってから返金を要求する受講生が現れました。
この受講生いわく、「スタッフからはそんな説明を受けていない」とのこと。
しかし、パンフレットと契約書には明記してありますし、説明会ではスタッフが社内のマニュアルに従って説明を行っていました。

ですが、この受講生はなかなか引き下がりません。
「教材を返すので、御社は返金に応じるべきです」
と言い、使い古した教材を会社に送りつけて、その後も返金要請の電話やメールを何度も送り続けてくる有様でした。

受講生を大切なお客様と考えるスタッフは、何とか分かってもらおうと丁寧に電話やメールに対応しますが、その都度、何倍もの量で言い返されたり、長文メールが返ってくる状態で、現場はすっかり疲弊気味となってしまいました。
届いた教材の取り扱いもどうしたものかとストレスと悩みは募るばかりです。

クレーム対応はクレーマーを知るところから始まる

そんなタイミングで、会社から私のもとへ相談が寄せられました。

「実は、こういうわけで現場スタッフも役員の皆もほとほと困っているんです」

「それは大変です。会社としてはどう対応したいとお考えですか?」

「相手はクレーマーだと思うので、返金要求には応じず排除したいです。これに応じてしまえば向こうの思う壺ですし、ほかの受講生に説明がつきません。…ただ、こういう対応に踏み切った場合、法的に問題ないかが不安なんですよね。返金ルールがあるとはいえ、それを根拠に強気に出ても法的に問題ないのか、自信がない面もあるんです」

クレーマーを排除したい一方で、法的に問題ないかをかなり気にしているようでした。もっともなことです。ただ私はもう少し違う視点からこのクレーム問題を考えました。

「なるほど。法的に問題ないかは当然気になりますよね。それについてですが、本件の返金ルールは問題ないと考えます。ただ、法的に問題ないからといって強気で押し切ればいいという話でもありません。適切なクレーム対応を実現するには、クレーマーと向き合うことも重要なんです

「…『クレーマーと向き合う』というのは?」

「クレームは、会社側の対応一つで、穏便に済ませることもできれば、かえって大きな問題に発展することもあります。とくに、法的には問題なくても相手の神経を逆なでする対応を行ってしまうと、そこから厄介な揉め事に発展してしまうリスクがあるんです」

「確かに相手は話が通じる人じゃなさそうです…。法的に正しい対応かどうかを気にするだけでは、不十分ってことですね?」

「そうなんです。そこで私が知りたいのはクレーマーの人物像です。どんな人物なのかが分かると、こちらも手立てを講じることができるので、教えてくれませんか?」

クレーム問題を考える時に何よりも大事になるのは、相手の人物像をしっかりと把握することです。というのも、クレーマーにはいくつかのタイプがあって、タイプごとに適切な対応が変わってくるからです。例としては、
・大きな声で威嚇するが、警察や警備員に弱い「粗暴型」
・一見丁寧な態度だが、細かな難癖をつけ続ける「粘着型」
・ご年配者に多く、俺様っぷりを振りかざしてくる「説教型」
などです。

こういうタイプの中で、今回はどのタイプなのかを知ることはクレーマー対応の第一歩になります。
そのうえで、年齢や性別、声を張り上げるタイプかどうか、どのような物言いをしてくるのか、会社に送り付けたテキストの使用状況はどうだったのか…。
私はこれらの要素を一つ一つヒアリングしました。

すると、今回のクレーマーはかなりの粘着質タイプだと判明しました。
メールや電話を頻繁にかけてきており、スタッフの負担も相当大きく、テキストにもかなりの書き込みがなされており、この人は確信犯的に返金制度を利用しようとしているのではないかと考えられました。

「相手は粘着型と呼ばれるクレーマーです。おそらく彼は『このまま言い続ければ返金に応じてくれるだろう』と見込んでいると思います。ここからは、会社としてクレーマーにどう対応していくかの方針をしっかり決めて、作戦を練っていきましょう」

理解してもらうのではなく、もういいと思ってもらう

私はまず、クレーマーに対して手紙を出すよう提言しました。
「あなたの教材が届いていますが、当社でお預かりすることはできません。お返ししますので受け取りに来てください」という旨にし、あくまで受け取った形にはしないよう伝えました。

また、メールや電話に懇切丁寧に対応するやりかたも変えていただきました。

「今まで電話やメールで丁寧に対応されていたと思いますが、まずはその対応を変えましょう。電話口では『会社としてのスタンスはこうです』というメッセージを端的に伝えるだけにしてください」

「なぜその対応がよいんですか?」

「粘着型のクレーマーは、使う言葉の言い回しや表現など、こちらの細かく些細な部分であっても、そこに反論の糸口をみつけて言い返してこようとします。そのため、たくさんのことを伝えるとそれだけ反論の機会を与えることにもなります。
ただ、だからといって返信もしないとなると、こんどは『対応の悪さ』に対してクレームをつけられてしまいます。ですので、丁寧に対応はするけれど、反論のとっかかりがないくらい、シンプルで端的なメッセージを伝えるのが効果的です

「丁寧ではあってもその場しのぎの対応は逆効果になることもあるんですね。…自分だけでは絶対思いつかなかったです」

「そうなんです。それと、電話対応される社員さんの負担が大きいとお聞きしているので、電話がかかってきたときに使うフォーマットもある程度決めておきましょう。どのように返答すればいいのか分かっていれば、精神をすり減らさずに話を進めることができますしね

「それは非常にありがたいです。対応している社員からもどのような対応が効果的なのか分からない、対応時に気をつけるべきポイントが知りたいと相談を受けていたのでそのフォーマットを共有しようと思います」

「それから、対応時に気をつけるべきポイントとして、もう一つ大事なことがあります。それは、『相手に対して、私が間違っていました、すみませんでしたと言わせたい』とか『こちらが正しいということを分かってもらいたい』という気持ちを一切捨てることです

「えっ、そうなのですか。」

私がこのようなアドバイスをするのには理由があります。
クレーム対応をしていると、どうしても『こちら側の言い分が正当で、クレーマーは間違っているということを分かってほしい。分からせたい』という気持ちが募ってきます。

しかし、世の中には、「話せば分かる人」もいれば、「話しても分からない人 /分かろうとしない人」も残念ながらいらっしゃいます。

そんなときは、相手に理解してもらう「物分かり」を目指すことではなく、もういいと思わせる「物別れ」を目指すことがクレーム対応のゴールになります。

「物別れ」を軸にした姿勢を貫くことで、「押せばこちらの主張が通る」と思っている相手が、次第に「あれ、この相手はいくら言っても動かないな」と思うようになります。動かない相手にどれだけ言っても無駄だと分かると、クレーマーはそれ以上のクレームを諦めます。

このようにして、その後の私たちの対応は功を奏し、最終的にはクレーマーからの捨て台詞を最後に、もう電話が鳴ることはなくなり、メールもやみました。

さいごに

以上、いかがでしたでしょうか。
自分たちの方針に納得して相手に臨むことができれば、相手がどう出てきてもハラが決まっているので対応が揺らぐこともありません。勇気も出てきます。

大事なことは「私たちの対応、これでいいのかな?大丈夫かな?」という不安感を持たずに対応にあたることです。
そのときに弁護士である私が「この方針でいきましょう。大丈夫です」と後押しすることは、クライアントの勇気につながると思います。

だからこそ、まずは相手の人物像と会社の方針をしっかりヒアリングして、自分たちのスタンスを決めてからトラブルの対処に当たることが大切です。

これが、私が顧問先の会社に起こるクレームトラブルへの対処法です。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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