「事業譲渡契約書」でチェックするべき項目とは?

事業を譲り受ける際は要注意!
波戸岡弁護士のコメント

会社そのものを売却するのがM&Aなら、会社の持つ事業を売却・買収するのが事業譲渡。
今や大企業に限らず中小企業でも頻繁に行われており、そういう話を持ち掛けられることも珍しくはありません。けれど、M&Aも事業譲渡も自社にとっては一世一代の出来事であり、経験や知識のなさゆえに悔いを残すような取引であってはなりません。
そこで今回は、事業譲渡におけるリスクやトラブル、契約締結前に注意したいことをお伝えします。

事業譲渡契約書のチェックポイント

事業を譲り受けた後に、「思っていた状況と違う」ということになっても後の祭りです。
そうならないために、事業譲渡契約書をしっかりとした内容に仕上げてから契約締結に至りたいです。

01:譲渡対象となるモノを明確に定める

売却・買収対象となる「事業」とは、どの範囲の事業を指すのかを明確に定めましょう。
そして、その事業を譲渡するにあたって、どの範囲の「財産」、どの範囲の「契約」、どの範囲の「ノウハウや知的財産」を売却し、引き継がせるのかも定めましょう。
一般的には、「目録」を作って、譲渡対象となるモノが明確に一覧できるようにしておきます。
逆に言えば、これは何を譲渡しないのかを明確にする作業でもあります。

02:譲渡日と譲渡価額を明確に定める

契約書の中で、譲渡実行日はいつとするのか、また、譲渡価額をいくらとするのか、その支払時期はいつとするのかを明確に定めましょう。
契約日と譲渡日、譲渡価額の支払日とを同じ日にする必要はありませんが、これらの日があまり離れると、契約締結した後になって、やはり思いとどまりたいという話が出てくる余地が高くなり、その場合の対処を考えておく必要が高くなります。
逆にこれらの日を近くする場合には、後日、表明保証条項違反が万一発覚した場合の対処を考えておく必要性が高くなります。

03:譲渡後の経営者を定める

事業を譲渡したとしても、実際にビジネスを動かしていくのは人ですし、これまでの経営者に引き続きコミットし続けてもらう必要が高い場合も多いです。
ですので、事業譲渡した後も、従来の経営者に一定期間コミットし続けてもらう場合には、どういう契約形態にするのか(役員か顧問かなど)、契約期間やフィーはどうするのかなどを、取り決めておきましょう。

04:雇用契約の行方を定める

事業譲渡によって当然に従業員の地位が引き継がれるわけではないので、雇用関係をどのように引き継ぐのか、従業員の同意をどのように得るのかを定めておきましょう。

05:表明保証条項を理解する

事業譲渡契約にあたって、内部の手続きが適法適正に行われていることや、開示情報や調査事項に嘘偽りがなく正確であることなどを、相手方に対して表明して保証することを表明保証条項といいます。
後日、これらの情報に誤りや偽りがあったことが判明した場合には、損害賠償責任を負うと定められますので、自らが何を表明し保証したのかを理解しておくようにしましょう。

事業譲渡をめぐってトラブルとなったケース

トラブルなく、つつがなく事業譲渡が進めばそれにこしたことはありませんが、事業譲渡では、意思疎通の行き違いから生まれるトラブルもつきものといえます。
ここでは事業譲渡で実際に発生したトラブルについて、3つのケースとその原因について解説します。

シェアオフィス事業の賃貸借契約・名義変更漏れ

これは、シェアオフィス事業を買収したものの、その物件の賃貸借契約の引継ぎに漏れがあったトラブルです。この物件の不動産屋のオーナーは、賃借人の変更も転貸借も認めていませんでした。

原因・対策

このケースは、事業譲渡契約を結ぶ際に、事業譲渡に伴って引き継いだり変更すべき契約関係を明確に取り決めていなかったことが原因となって起きたトラブルでした。
「事業譲渡」と一言で言っても、物、人材、ビジネスに加えて、契約関係をどう引き継ぐのかについては、契約相手もあることですので、慎重かつ丁寧な取り扱いが必要です。このケースの場合、顧客をはじめ机・椅子などの備品、人材などの考慮だけでは足りず、「賃貸借契約」についての認識が漏れていました。
事業譲渡に伴って、どのような事柄を具備しなければならないかについては、弁護士などの専門家のアドバイスが大変重要です。

事業譲渡が起こったことによる取引先の離脱

有名な取引先を持っていたことが魅力で事業譲渡を受けましたが、いざ譲渡されてみたところ、その取引先から「経営母体が変わるなら、取引継続は難しい」という渋い連絡をもらってしまい、譲渡後間もなくから苦境に立たされることになったケースです。

原因・対策

有名企業との取引コードを持っていることが魅力となり、事業譲渡を受けるということは多く見られます。特に建設業や運輸業などで多く、熱望していたゼネコンとの取引を期待して事業譲渡が行われることがあります。
もしその事業譲渡が、取引先を受け継ぎたいということを主眼とするならば、その取引先から、あらかじめ内諾を取っておく必要があります。
確かに事業譲渡は内々に進めるものという側面もあるので、全ての取引先に事前確認することは難しいかもしれません。しかし、失っては困るような大型の重要取引先に関しては、ご挨拶も兼ねて承諾を得ておくべきでしょう。

事業譲渡後に従業員が辞めてしまった

このケースでは、事業に関わる人材ごと譲渡してもらうという話で進んでいたものの、事業譲渡後、従業員が次々と辞めてしまって事業継続が難しくなってしまったというトラブルです。

原因・対策

従業員も一緒に事業譲渡を受ける場合には、より注意が必要になります。
M&Aとは違い、事業譲渡では従業員との雇用契約が当然に引き継がれるわけではありません。新たな雇用契約の締結は、従業員にとっては「勤める会社が変わる」ことになります。ちなみにM&Aでは、株式譲渡が行われるだけで、従業員にとって勤める会社が変わることにはなりません。
この場合は従業員に対して雇用条件の擦り合わせ、雇用契約書の内容確認をはじめとした事前の面談や丁寧な説明が必要です。もし退職意思を示す従業員が出てくる場合には、それも含めて事業譲渡を引き受けられるのか検討しておくとよいでしょう。

事業譲渡で変化することとは?

「事業譲渡契約書」のリーガルチェックを!
事業譲渡の前には弁護士に相談しましょう

「事業」と一言でいっても目に見えない要素が多くあります。
事業譲渡前に何を買い取るのかという範囲を明確にする必要性は前述しましたが、事業を構成する要素や取り巻く環境が譲渡後にどう変化する可能性があるのかまで考えておく必要があります。

波戸岡弁護士のコメント

事業自体が変わらなくても、賛同してくれる従業員や取引先は、事業主が変われば変化するかもしれません。
事業譲渡前には一度、弁護士に相談されると安心です。
事業譲渡においてどのようなことに気を付けるべきか、それをどのように契約書に盛り込むのか、どのように相手と交渉するのか、様々な事例を参考にしながら、アドバイスさせていただきます。
もちろん、事業を譲り渡す場合のご相談も承っています。事業譲渡に関するご相談やリーガルチェックのご依頼は下記フォームからお問い合わせください。

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