無自覚パワハラ上司を気づかせ、行動を改めさせる方法

無自覚なパワハラ上司にパワハラを意識させるには?
波戸岡弁護士のコメント

パワハラ気質の社員を直接指導してもあまり上手くいかなかった、というご相談をよく頂きます。本人がパワハラに無自覚だと、正面からパワハラに当たる行為を指摘してみたところで、「パワハラはしていない」「これは指導だ」という話で平行線になり、自分の行為を反省することがないためです。

どうして無自覚パワハラ上司が生まれるのか

意外にも、無自覚にパワハラまがいの振る舞いをしてしまう上司は多いです。
このご時世に、なぜこんなにもパワハラに無自覚なのかとも思いますが、当人はむしろ「自分は正しいことをしている」という認識がとても強いです。

もちろん当人にも、一般論としてパワハラはいけないという意識はあります。
しかし、自分がパワハラを起こす当事者だという意識はなく、周り、とくに部下にきつく当たったとしても、それは「教育」に変換され、自分の中で正当化されてしまうのです。このタイプの上司に、周りが注意してパワハラをやめさせることは容易ではありません。

再現VTR!パワハラNG行為に要注意

無自覚上司がとりがちなパワハラ行動を動画にしてみました。

パワハラ上司を生み出すアンコンシャスバイアスとは?

パワハラが起きる原因の1つに、「アンコンシャス・バイアス(自覚のない思い込み)」というものがあります。アンコンシャス・バイアスとは、過去の経験や価値観、知識などから起こる認知の歪みや思い込みのことです。

アンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものです。例えば「看護師」と聞くと白衣を着た優しそうな女性を思い浮かべたり、モデルと聞くと背が高くスタイルの良い男女を思い浮かべたりしませんか?脳は大量の情報を処理するために、物事を無意識に結び付けて、いわばショートカットして理解しようとします。
誰もが持っている認知の歪みですが、それを自覚して、思い込みや偏りがないか修正することが大切です。

職場においても「厳しい指導は部下の成長に必要」「残業や休日出勤する人のほうが仕事に対してやる気がある」「自分だって怒られて成長してきた」というふうに、自身の経験を基準に部下に接することがパワハラに繋がることがあります。

自身が受けた厳しい指導を「当たり前」と考え、それを模倣することで部下に対しても同様の振る舞いをとってしまうのです。アンコンシャス・バイアスは、日々の言動にあらわれます。上司の立場である人が、このような言動を繰り返しているとパワハラを起こす可能性が高くなります。

しかし、本人がその行動の背後にあるアンコンシャス・バイアスに気づくことは簡単ではありません。それゆえにパワハラの予防と解決は難しいのです。

パワハラが生まれにくい組織の成功循環モデルとは

パワハラを防ぐには、上司と部下のコミュニケーションを積極的に行い、良好な関係を築くことが不可欠です。
マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム元教授は「まずは関係の質を高めることが、組織としての結果の質を高めることになる」という「組織の成功循環モデル」を提唱しています。

組織の成功循環モデル

この循環モデルでは、まず「関係の質」の向上が重要とされています。上司と部下、そして同僚同士が互いを尊重し、オープンで活発なコミュニケーションを行うことで「思考の質」が向上します。関係の良好さは、異なる意見やアイデアを受け入れる環境を促進するからです。従業員が自由に意見を交換し、それによって新たなアイデアや解決策が生まれます。

そして「思考の質」が高まると、従業員は自ら率先して仕事に取り組み、問題解決に積極的に取り組みます。これによって「行動の質」が向上し、組織全体のパフォーマンスが向上し「結果の質」も向上するのです。結果が出るようになると、良い組織にいるのだと感じて職場の関係の質も良くなります。

しかし、会社では常に業績を上げることが求められます。最初に売上などの「結果の質」に目を向けて追い求めてしまうとメンバーは疲弊して「思考の質」が低下してしまいます。するとモチベーションが低下して「行動の質」が低下して「結果の質」までも低下してしまいます。そして成果が思うように出ないのを他のメンバーのせいにして職場の「関係の質」までも悪化してしまうのです。

先に結果に目を向けるのではなく、まずは関係の質から改善し、活発なコミュニケーションを取ることが、パワハラが起こりにくい職場作りに繋がります。

組織の成功循環モデル

パワハラしない上司を作るPM理論

関係の質を改善することは、パワハラ防止だけでなく組織の成果向上にも繋がります。関係の質を高める役割を果たすのは、部長や課長、係長などの上司の立場に当たる人たちです。
パワハラをしない上司を育成するために重要な理論の一つが、社会心理学者の三隅二不二氏が提唱した「PM理論」です。

PM理論

この理論は、リーダーシップをPerformance(成果を上げる力)とMaintenance(人間関係を築く力)の2つの要素で評価します。PM理論において、リーダーシップの質は単なる成果の有無だけではなく、人間関係を築く力も含まれます。良いリーダーは、その両軸がバランス良く高いレベルで発揮されるPM型です。

成果だけでなく、良い関係性を築くことが良いリーダーになるためには必要なのです。結果だけに固執することなく、良い関係性を築くことにも注力することがパワハラの起きにくい環境をつくります。

無自覚パワハラ上司を自覚させるために、
第三者がパワハラセミナーを開く意義

社内でパワハラセミナーを開催する
たとえ自分の中で正当化していても、パワハラとして違法になるケースがあることを知ってもらう
特定の個人に照準が向いていない状況でパワハラの知識を与えることで、「自分はパワハラを行っていたかもしれない」と認識してもらう

パワハラ上司に共通することは、自分の経験値だけで話していることが多い点です。
自分の経験があったから、今この地位にある。自分の経験が間違っていたら、今この地位にはいないはず。
その結果として「自分の経験は正しい」という認識が強くなっているのです。

このタイプの人に、いきなりパワハラの6類型をレクチャーしても、こちらのメッセージは届きません。そもそも自分がパワハラを行っているとは思っていないためです。
そんな無自覚パワハラ上司をハッとさせるためには、自分の行動に近い行動を”パワハラ未満”の行為として取り上げることも効果的です。
自分の行為がパワハラだと言われると反発しますが、パワハラに近いと言われると受け入れやすくなるものです。

間接的に気付かせるだけでも効果があります。まともに本人に質問して話をさせる必要などもありません。
①第三者がとあるケース事例を話していて、②それが自分の状況に近いということが大事です。

波戸岡弁護士のコメント

パワハラセミナーを開催する前に、事前に問題社員の言動や起きがちな問題をヒアリングいたします。
そしてセミナー中に、講師(私)が「こういった行動はパワハラとなるおそれがあります」と話します。すると、問題社員にとっても、第三者がしている話であるし、自身が非難されている訳ではないので、「そういうものなのか」と受け入れやすくなります。
先日、パワハラセミナーを行った際も、私が具体的な話を始めると、無自覚パワハラ上司の聞く姿勢が変わり、苦笑いしていたのが印象的でした。

パワハラに該当するかどうかが本質ではない

パワハラ問題は、その行為が「パワハラかどうか」だけに関心が行きがちですが、パワハラになったところですぐに裁判沙汰になるわけでもなく、逆にパワハラでないからといって、問題が解決されるわけでもありません。
もちろんパワハラ自体は撲滅されるべきですが、パワハラ気味な行為が積み重なることで組織のパフォーマンスが下がることも同じく大きな問題です。

波戸岡弁護士のコメント

どうにも当たりが強い上司がいて若手が疲弊しているという会社様は、ぜひ一度ご相談ください。
セミナーや個別相談など、どのようなアプローチが効果的か検討いたします。
多くの中小企業の顧問弁護士を務めてきた経験から、社内のパワハラ問題に適切に対応させていただきます。

⇒『パワハラ対策セミナー』のご案内

会社員イメージ画像