契約書の文言の変更申し入れ、どう伝えたらカドが立たない?

契約を結ぶ予定の取引相手から契約書が届いた。
内容を読むと、一部不利益な条項が見つかったので変更の申し入れをしたい。
けれど、これから良好な関係を築いていきたいので、これが元で関係がこじれるようなことは避けたい。。。

そんなご経験はありませんか?
契約書は有利にしたいけれども、取引相手との関係も大事にしたい。
中小企業では頻繁におきる悩みの種のひとつです。
そこで今回は、「契約書の条項や文言の変更を申し入れたいときに、どのように相手方に伝えたらいいのか」について解説します。

どう変えるかだけではなく、どう伝えるか。

私は、日ごろから契約書のリーガルチェックのご相談を頂いていますが、同時に、
「これを相手にどう伝えたらいいですか?」というご質問をいただくことがあります。

契約書の条項変更を求める場合は、修正文言だけではなく、それを「どう相手に伝えるか」が非常に重要です。

当然ではありますが、契約書の文言の修正は、先方が承諾して初めて実現するものです。
ですので、伝え方を誤ったばかりに承諾を得ることができなければ、互いの主張は並行線をたどり、いずれ破談になってしまうことも起こり得ます。

ですので、私は、リーガルチェックを行うだけでなく、自社の要望をどのように相手に伝えるかというところまでアドバイスしています。
以下の事例は、リーガルチェック後に、その変更要望をどう伝えるかについて工夫をしたケースです。

事例①

会社員のAさんは会社を退職する際の契約で、会社から競業避止義務の取り交わしを求められました。
Aさんは退職後独立する予定で、すぐに競業する事業を始めるという訳ではありませんでしたが、先のことまでは分かりません。
いつかは競業する事業を行う可能性もあったため、競業避止義務は避けたい、という希望がありました。

しかし、「競業避止義務は削除してください。」とだけ伝えてしまうと、いかにも競業するつもりで辞めるような悪い印象を与えてしまいますし、それはお世話になった会社に恩を感じているAさんとしても不本意なものでした。

そこで、会社には、「決して迷惑をかけるつもりはない」ことと、「競合避止義務の趣旨は理解している」と伝えた上で、その文言を削除変更してほしいとお願いしたところ、会社側も理解してくれ、穏便に契約内容の修正を行うことができました。

事例②

次は、企業がサプリメント事業を立ち上げたケースです。
サプリ商品の開発・販売を2社で共同して行うことになり、パッケージデザインなどの商品企画をA社が行い、成分配合などサプリの開発はB社が担当しました。

業務委託契約を結ぶ際に、B社から「知的財産権はB社のもの」という旨が記載された契約書が届きました。

A社は「知的財産権は我が社のものにしておきたい」と考えて、単に「B社」を「A社」と修正しただけの回答をしました。
しかし、サプリそのものを開発したB社が自社のノウハウの流出を許すはずもなく、あっさりと拒否されてしまいました。

A社から相談を受けた私は、A社が知的財産権で守りたいものは何か、という点を詳しくヒアリングしました。
するとA社は商品そのものではなく、パッケージデザインや食品の形状など、自分たちが関わった領域の知的財産権を守りたかっただけ、ということが分かりました。
そして、その部分の知的財産権については、B社も関心がないことが明らかになりました。

そうするとこの場合、契約書上に「納品物の知的財産権はB社である」と記載されていたとしても、「『納品物』の解釈にパッケージは含まない」という共通認識を2社が持てていれば、「知的財産権はどちらのものか」ということをめぐって無用な駆け引きや綱引きは必要とはなりません。
そこで、A社は、B社にメールで「『納品物』にパッケージや食品の形状は含まれないですよね?」と確認したところ、「もちろんです」という回答を得られることができたので、A社も安心して商品販売に進むことができました。

まとめ

このように、「お互い何を大事にしたいのか」を明確にすると、契約書の文言にこだわらなくても問題が解決する場合があります。

こんな有名な話があります。
姉妹が1つしかないオレンジンをめぐってケンカをしていました。
母親は「半分ずつにすれば?」と提案しますが、どちらも譲りません。
困った母親は姉妹の話をよくよく聞いてみると、姉はオレンジジュースを作るために中の実が欲しくて、妹はマーマレードを作るために皮が欲しいということが分かりました。
そこで、姉には中身を全部、妹には皮を全部上げることにしたら、二人とも満足したという話です。

このように、一見対立しているように見える問題でも、それぞれの本当の利害を把握できると、お互いの要求を同時に満たす答えが見つかるかもしれず、私はいつもこれを模索しています。
契約書の内容変更もこれに通ずるケースが多々あるのです。

契約書を結ぶ際に、これからのビジネスパートナーとケンカをしたい、という人はいませんよね。
良好な関係を構築しつつ、しっかり自社の利益もガードしていく。
そのためには「どう伝えるか」というコミュニケーションの取り方にもスキルが必要です。
相手の意図を汲み取りつつ、こちらの真意を伝え、よりよきゴールを目指していく、私はそんなアドバイスを心がけています。
契約書締結時のコミュニケーションに不安を抱える方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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