はじめての株式譲渡契約、抜け漏れはない? 株式譲渡契約書のリーガルチェックポイント

M&Aで株式譲渡を行う際に、契約の話が進むにつれて、「このまま株式譲渡を進めてしまって大丈夫だろうか、見落としていることはないだろうか」と不安になってご相談をいただくことがあります。

多くの場合、株式譲渡人と譲受人の間に仲介会社が入っていて、何か不安や疑問点が生じた場合は、仲介会社に質問をすることですむことも多いでしょう。

ですが、「こんなことを確認したら相手の心証を悪くしないだろうか」と考えて、ためらってしまう経営者の方もいらっしゃいます。
それでも、疑問に思ったことは全て株式譲渡契約を締結する前に確認しておくべきです。
なぜなら、放っておいたところで「時間が解決する」わけはなく、むしろモヤモヤが膨らみ、不安はつよくなっていくばかりだからです。
仲介会社としても、株主譲渡契約を成立させることをゴールとしていますから、よっぽどな問題でもない限り、契約が破談にならないように配慮しながら進めてくれるともいえます。
ですので、懸念事項がある場合は自分から積極的に働きかけることをおすすめします。

ここでは、あとになって後悔しないためにも、株式譲渡契約書にサインをする前に確認しておくべきことを解説します。

弁護士が教える株式譲渡前のチェックリスト

□ 引継業務に関わる期間は決まっていますか?

→引継業務に携わる期間は、ケースによっては数ヶ月間ほどかかることがあります。
この場合、予想以上に時間と手間が掛かって手離れできなくなると、いつまでも無償で働かざるを得ない事態も起こりかねません。
そこで、契約完了後の一定期間は無償で引継業務にコミットするけれど、それ以降は有償契約の締結を必要とするなど、明確な期間設定をしておく必要があります。

□ 引継業務で行う業務は決まっていますか?

→引継業務に従事する期間を決めたとしても、いざ業務が始まったら、想定以上の煩雑な業務が発生する場合があります。
そのため、事前に今後とり行うべき業務について洗い出して、譲渡金額の中で対応する範囲について線引きをつけておくべきでしょう。

□ 連帯保証を外す段取りはできていますか?

→代表者として連帯保証をしている場合、株式を譲渡して会社を離れても、自動的に借り入れや賃貸借契約の連帯保証が外れるわけではありません。連帯保証はあくまでも金融機関や賃貸人との契約なので、連帯保証人を譲受人側に切り替える手続きを踏んでおくことを忘れないようにしましょう。

□ 代金を数回に分けて支払われる場合のスケジュールは決まっていますか?

→譲渡代金の支払が一回払いで完了する契約もあれば、数回に分けて支払われる場合もあります。
数回に分ける場合は支払の期日をあらかじめ決めておかないと、支払いまでの間、無用なストレスを抱えることにもなりかねません。

□ 株主構成や組織の変更が契約の解除事由になっている場合のケアはできていますか?

→取引先と結んでいる契約書の条項中に、株主構成や組織変更が契約の解除事由として盛り込まれていることは珍しくないので、契約の相手方に対して、譲渡後も問題なく契約関係が続くことの意思確認を予めしておきましょう。

□ 表明保証条項に不安な内容はありませんか?

→表明保証条項とは、株式譲渡契約に際して譲渡人が「事実として開⽰した内容が真実であり、かつ、正確であること」を表明し、譲受人に対して保証することです。譲渡後、表明保証した内容が事実ではなかった場合、譲受人が被った経済的損失を譲渡人が賠償する責任を負うこととなります。
従業員から退職に伴うトラブル、残業代の未払請求がされるなど、譲渡後にトラブルが発覚すると、譲渡代金を返還しなくてはいけなくなったり、賠償問題にも発展しかねないため、不安要素がある場合は予め解決しておく必要があるでしょう。

株式譲渡のトラブル(失敗)事例

・株式譲渡の経緯を役員に詳しく説明しなかったため、組織が分裂してしまったケース

とあるIT企業は、以前からの大口の取引先から、システム開発部門を内製化したいという理由でM&Aの提案を受けていました。
社長は20年以上経営を続けてきましたが、取引先の傘下に入った方が安定して社員を長く守っていけると判断し、売却することに決め、着々と話を進めていきました。
ところが、です。
役員の一人には話が大方決まるまで話をしていませんでした。
社長はこの役員がM&Aに反対する気がしていたので、事前の説明を控えていたのです。
予想は悪い方向で的中しました。
「秘密裏に進めるなんて許せない。社長だけお金をもらって逃げるようなものだ」
社長のM&Aの意図は全く伝わっていませんでした。
役員は一旦は株式譲渡を受け入れ、半年ほど新体制下で働いていましたが、結局、社員を引き連れて独立する騒動に発展してしまいました。

→株式譲渡は、会社にとってメリットになるから行う、つまり社員のためでもあることを理解してもらう必要があります。
なにも社長の利益のためだけに選択している訳ではないということを、会社の主要メンバーや従業員に適切に伝えることで、コミュニケーション不足による問題を解消する必要があります。
もちろん、交渉段階では、契約内容はもちろん、交渉していること自体、口外できない取り決めになっていることがほとんどです。
ですので、告知をするタイミングで、なぜ株式譲渡が必要なのか、社員にとってどのようなプラスがあるのかをしっかり説明することが、円滑に譲渡を進めて完遂させるために必要です。

まとめ

ここまで、株式譲渡契約におけるチェックリストについてまとめました。
株式譲渡に関連して起こるトラブルの多くは、懸念点を先延ばしにしたり、コミュニケーションミスから起きる問題です。
上述のような問題やトラブルを起こさないためには、逐一、株式譲渡契約書を確認検討しながら進めていきましょう。

お互いにとって円満な株式譲渡を完了させるためには、細かいことでも確認し、譲受人や譲渡人ともに、意図を明確に伝えることが重要です。
「細かすぎると思われないかな」
「譲渡の話が破談にならないかな」
という不必要な心配が、後々大きなトラブルの火種につながりかねないことを知っておいていただきたいです。

波戸岡にご相談いただけたら、まずは不安に感じている部分をすべて洗い出してもらって整理し、仲介会社や他役員、社員とのコミュニケーション方法を一緒に考え伴走します。

私は弁護士であると同時に、ビジネスコーチングスキルを備えており、中小企業経営者のために、事業承継やM&A、株式譲渡などの法的アドバイスや対外交渉、リーガルチェックを行ってまいりました。
株式譲渡で適切な契約を完了させられるのか不安な方やはじめての譲渡契約でトラブルに巻き込まれるのではないかという方は数多くいらっしゃるかと思います。
納得のいく将来に向けて真摯にサポートする弁護士をお探しの方は、ぜひご連絡ください。
(2023.11.12 更新)

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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