パワハラゼロを目指して-新聞連載vol.1-

パワハラ、セクハラ、マタハラ、モラハラ……。今、さまざまなハラスメントが問題になっています。

Job総研が実施した2022年3月の調査では、ハラスメントの中で最も多いのはパワハラで、64%。2019年にパワハラ防止法が成立してやや減少したものの、まだまだ高い割合です。2022年4月には、それまで大企業だけだったパワハラ防止対策が、中小企業にも義務化されました。それほどまでに、企業内でのパワハラは社会問題になっています。

このシリーズでは、ハラスメントの中で、最もわかりにくいパワハラ問題を取り上げ、原因と対策をお伝えしていきます。ぜひ、パワハラの判断基準を抑えて、「パワハラ上司」と言われないよう、日々の部下への指導に役立てていただければと思います。

あいまいで、わかりにくいパワハラ

パワハラがなかなか減らない原因の一つに、あいまいでわかりにくいことが挙げられます。
例えば、セクハラやマタハラは、「相手がどう思うか」でハラスメントかどうかが決まってしまう側面があります。性的な言動に対して相手が不快に思えば、それでアウト。

ところが、それだけでハラスメントかどうかを決められないのが「パワハラ」です。なぜなら、上司は部下を育成する立場にあり、たとえ部下が不快に思っても、必要な指導をすることが求められる場合があるからです。

はたしてその指導が、適正なものだったのか否か。そこが論点になるのですが、その判断は関係性や職場の状況によって変わってくるのが難しいところです。

組織のパフォーマンスを高めるグッドサイクル

パワハラを防ぐには、関係の質を上げ、良好な関係を築くことが重要です。厚労省の調査によると、パワハラが多い職場では「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」割合が高いという特徴があるそうです。

ところで、関係の質について、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム元教授は、「先ずは関係の質を高めることが、組織としての結果の質を高めることになる」という「組織の成功循環モデル」を提唱しています。

「関係の質」の向上は、互いの尊重や活発な意見交換を促し、「思考の質」を高めます。すると、自発的に動くなど「行動の質」が高まり、良い結果へとつながります。「結果の質」が高まると「私はいい組織にいる」と感じ、さらに関係の質が高くなるという、グッドサイクルが生まれます。

ところが、常に業績を上げることが求められる現代において、私たちは最初に売上などの「結果」に目を向けがちです。しかし、結果ばかり求めるとメンバーは疲弊し、「思考の質」が低下。やる気がなくなり「行動の質」が低下する結果、成果が上がらず「結果の質」も低下します。そして、「成果が出ないのは他メンバーのせいだ」として「関係の質」がさらに悪くなる、というバッドサイクルに陥ってしまいます。

より良い組織のためのPM理論

関係の質を良くすることは、パワハラ防止にも、組織のパフォーマンス向上にもつながります。
では、関係の質を高める役割は誰が担うのでしょうか。それは、部長や課長、係長といったリーダーです。

ここで紹介したいのが、社会心理学者の三隅二不二氏が提唱した「PM理論」です。これはリーダーシップをPerformance(成果を上げる力)の軸とMaintenance(人間関係をつくる力)の2軸で評価します。ビジネスでは、片方ではなく両方が高いレベルにあるPM型が理想的なリーダーとされています。

結果だけでなく、関係性を築くことも良いリーダーに必要なスキルです。結果にばかり固執すると、指導が行き過ぎてパワハラにつながることもあるので、注意したいところです。

風通しの良い組織がパワハラを防ぐ

関係の質が低下し、信頼関係が崩れた先に待ち構えているのがパワハラです。信頼関係が築けていれば、上司は部下のための適切な指導ができるでしょうし、部下は上司の指導に納得感を抱くでしょう。メンバーとコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことがパワハラ防止の第一歩です

次回からは、多くの企業の顧問弁護士としてパワハラ問題に対応してきた私の目線で、パワハラを深く掘り下げます。パワハラを無くすだけでなく、関係性の向上や人材育成、組織のパフォーマンスアップを実現するような視点で、解説します。

「生産性新聞」(2023年3月5日号・第1回連載)

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私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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