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ビジネス界で生き残る道は生態学にあり―『競争しない競争戦略』から学ぶ実践知―
「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』第14回、ご紹介するのは『競争しない競争戦略―環境激変下で生き残る3つの選択肢―』(山田英夫)です。
ターゲットを定める、販売戦略を立てるなど、ビジネスの世界で当たり前に使われている言葉は軍事用語から来ています。ビジネスは弱肉強食のシビアな局面があり、弱いものは強いものに負けるという点では「いかに戦略を立てて、勝利の旗を揚げるか」を考える軍事用語と親和性が高いのかもしれません。そんなビジネスの軍事的側面に一石を投じるのが本書です。
自然界を見て見ると、弱肉強食の構図を保ちつつも、多様な生命が共存しているのがわかります。必ずしも弱いものが強いものに食いつぶされてしまうというわけではありありません。なぜ、多くの生命体が共存しうるのでしょうか。その理由は、自然界では「すみ分け」と「共生」がみごとなバランスで行われているからなのです。
熾烈な争いの覇者だけが生存可能な殺伐としたビジネス界に、自然界が教えてくれる共生共存の知見を取り入れていけば、調和的ビジネスを作り上げていくことができる。環境が変化していくビジネス界の中でも柔軟に生き残っていけると著者は述べています。
私たちがすでに利用しているサービスにも、すでに「すみ分け」と「共生」を実現しているものがいくつも存在しています。本書が提示する『競争しない競争戦略』を見ていきましょう。
大手企業とすみ分けて独壇場をつくるニッチ戦略
ニッチ戦略というのは、リーダー企業を参入させない世界を作り上げること。事業の同質化をさせない戦略をとることです。同じ形態の事業であっても、大手企業が手を出せない領域を生み出していくのです。
例えば、北海道のコンビニ『セイコーマート』。全国展開はないものの、北海道という限定された空間ではセブンイレブンの店舗数を抜くなど他の追随を許さぬほど認知されているナンバーワンのコンビニです。空間のニッチをとりに行き、すみ分けに成功した企業です。
ニッチ戦略の鍵となるのは次の10の視点です。
①技術、②チャネル、③特殊ニーズ、④空間、⑤時間、⑥ボリューム、⑦残存、⑧定量、⑨カスタマイズ、⑩切り替えコスト
自社にしかない技術や流通システムを構築することや、「ここでしか買えない」「今しか買えない」「一回利用したら他には切り替えられない」を消費者に提供する、など大手企業とは住んでいる世界を全く別物にしてすみ分けるのがニッチ戦略です。
強さが弱さになる⁈ 不協和戦略で勝つ
リーダー企業は資金面、人的資本面などやはり圧倒的な強さを持っていますが、時にその強さが弱さになるときがあります。不協和戦略とは、リーダー企業の強みが弱みとなる点をつき、資源不適合を引き起こす戦略です。
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企業資産の負債化(ヒトモノカネがかえって邪魔になる)
大きな企業はヒトモノカネが潤沢にありますが、逆にこれらが負担になることがあります。例えば、ライフネット生命は全部ネットで買える仕組みで成功しましたが、この仕組みを大手企業が取り入れようとすると一気に人員が余る事態を招き、企業が破綻してしまいます。そのため、どんなに効率的で真似したいと思っても実際には手を出すことができないのです。
同様に、スタディアプリもネットで受験勉強ができる仕組みで塾業界で成功しました。では、代ゼミなら取り入れれば資本的にももっと大きく展開できるのかというと、これまで使用してきた多くのビルが空きビルとなり、処分に困る事態となるため不可。大規模な人員や教室があることが、むしろ負債を生み出す「弱み」となってしまうのです。
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市場資産の負債化(資産が価値をもたなくなるようにする)
青山フラワーマーケットは切り花だけを置き、保管庫を持たない戦略で成功しました。従来の花屋は、結婚式の花など依頼を受けると、用意した花を店舗の大型保冷庫で当日まで保管する方法をとっていたのに対し、青山フラワーマーケットは保管なし、切り花をその日中に売り切るスタイルに特化。大型保冷庫を必要とする従来の花屋では出店できない、駅ナカなどの小区画でも販売を可能にしたのです。
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論理の自爆化(これまで発信していた理論と矛盾させる)
ニコン、キャノンはもともとカメラ会社で、「カメラには鏡がないと!」とミラーカメラを推奨していました。ミラーレスカメラを売りにしていたソニーは追いつくことができませんでした。
ところが、デジタルの時代になると立場が逆転、ミラーレスが優位になると、それまでミラーを謡っていた企業は、主張を覆すわけにもいかずミラーレスではソニーがシェアを伸ばす結果となったのです。
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事業の共喰い化(カニバリゼーションを起こさせる)
既存の顧客が廉価な新サービスにスイッチしてしまうことで、企業全体の収益があがらなくなる状態をカニバリゼーションと言います。
『カーブス』はシャワー室や立派な機械、大きな鏡もないという簡素なジム設備ですが、安価で何回でも利用できることを売りにサービスを提供し成功しています。もしも、大手ジムがカーブスように安価でいつでも利用できるビジネスモデルを導入し、既存のお客様が安価なサービスに移行してしまうと、巨大な設備を維持することが難しくなります。素敵な空間で、整然と揃ったマシン、鏡張りの施設で筋トレするという世界観を提供し、会費を払い続けながら全く利用できていないといった裕福層を相手にする大手のサービスの強みが、簡素な設備でも安価で回数多く利用したい顧客向けのカーブスのビジネスモデルに移行できない弱みとなっているのです。大手ジムにとってカニバリゼーションを引き起こすビジネスモデルを打ち立てることで、カーブスはすみ分けを実現しているのです。
協調戦略で共生の道をさがせ
「すみ分け」での戦略は大手が手を出せない領域で生きる方法でした。もうひとつの生き残り戦略は、大手と「共生」する道です。既に大手が大きく展開している業界の中で、独自のビジネスモデルを展開し、多く認知されることでその業界でのスタンダードとなる道をたどる戦法、協調戦略です。事例とその戦法をみていきましょう。
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コンピタンス・プロバイダー(コア事業を受託する)
星野リゾートの再生事業。星のリゾートは「星のや」「リゾナーレ」のリゾートホテルや温泉和風旅館を日本各地に展開していますが、実は自社で経営している施設は少なく、ホテルや旅館のコンサルに入ることで成功を収めています。再生コンサルといえば星野リゾートという地位をホテル事業の中で確立し、ホテル業界でのすみ分けに成功しました。
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レイヤー・マスター(競合の中に入り込む)
セブン銀行のATM事業。財閥系から外資まで、大手銀行が圧倒的な存在として君臨する中、店舗を持たず、コンビニにだけATMを置くという戦法に出たのがセブン銀行です。コンビニで引き出している層だけをターゲットにして、銀行ATM事業においてのスタンダードとなりました。
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マーケット・メーカー(新たな機能を付加する)
イオンのお葬式。既存の葬式業界の一式いくらという提供の仕方をせずに、結婚式のようオプションを積み上げていく受注方法で葬儀の値段をクリアにし葬儀仲介の新たなポジションを確立しました。
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パンドラ―(他商品も組み込む)
オフィスにお菓子を置く「オフィスグリコ」やオフィス用具から薬までが通販で最短購入できる「アスクル」のサービスを展開しているグリコやアスクルは、パンフレットに自社以外多様なメーカーの商品を掲載しています。様々な業者の乗り入れを許可することで、利用者は個々の企業から購入する手間がなくなるため、グリコやアスクルとの契約を更新し続けます。他企業も販売路を確保できるため、他社製品を組み込むパンドラ―の戦略によりグリコやアスクルは他競合との共生を可能にしたのです。
生き残るには勝ち残らなければならないと考えると、視野も思考も狭くなり、気持ちは殺伐となります。「すみ分け」と「共生」で争わずに絶妙なバランスで世界を構築している生態学をビジネスに取り入れるという本書の視点からは、これからのビジネスの在り方を考えるヒントが大いに得られるのではないでしょうか。
【良書からこの視点】
生き残るには争わないこと。「すみ分け」と「共生」の視点をビジネス構築の主軸に置こう。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。
私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。
経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
著書紹介
『論破されずに話をうまくまとめる技術』
”論破”という言葉をよく聞く昨今。
相手を言い負かしたり、言い負かされたり、、、
でも本当に大切なことは、自分も相手も納得する結論にたどりつくこと。
そんな思いから、先人たちの知見や現場で培ったノウハウをふんだんに盛り込み、分かりやすい言葉で解説しました。
『ハラスメント防止と社内コミュニケーション』
ハラスメントが起きてしまう背景には、多くの場合、「コミュニケーションの問題」があります。
本書は、企業の顧問弁護士として数多くのハラスメントの問題に向き合う著者が、ハラスメントを防ぐための考え方や具体的なコミュニケーション技術、実際の職場での対応方法について、紹介しています。
『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』
経営者が自分の判断に自信をもち、納得して前に進んでいくためには、経営者に伴走する弁護士が、本音で対話できるパートナーであってほしいです。
本書では、経営者に寄り添う弁護士が身につけるべきコミュニケーションのヒントを数多く解説しています。
経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
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TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674