交渉を成功に導くBATNA思考 from『BATNA』 (良書から学ぶ経営のヒント)

「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』第6回、ご紹介するのは『BATNA』(斎藤孝、射手矢好雄)です。

誰かと一緒に物事を進めるときは、相手から同意を得なければなりません。ビジネスでも家族や友人などプライベートの関係であっても、人と一緒に物事を進めようとするとき、私たちは相手の合意を得るために「交渉」をしています。しかしながら、交渉はいつでもうまくいくわけではないということは、皆さまもさまざまな経験の中で実感されていると思います。

交渉相手が最後まで頷いてくれなかったとき、あるいは合意に至れないと判断したとき、代替案を持っているでしょうか。「A案がだめでもB案があるさ」という考え方をもてることが本書のタイトルになっている「BATNA(バトナ)」の思考です。
「BATNA(バトナ)」とは、Best alternative To a Negotiated Agreementの頭文字をとったもので、代替案の中で最良のものを意味しています。

想定外にも動じない大人の思考“BATNA”

「絶対に〇〇に合格する!」「この案でいくしかない!」といった「これしかない思考」は熱量が高く、パワフルな強い思考に見えて、実は危うさや脆さをはらんでいます。

これしかないと思うと、ミスは許されないというプレッシャーから心身が硬くなり、交渉は余裕のないものになってしまいがちです。自分の予想や期待とは違う事態が起こった際には、他に選択肢を用意してなかったために行き詰ってしまうことが起きかねません。

「これしかない思考」は、自分の思いを貫く純粋さがあると考えて美化しがちですが、実際には、純粋というだけで自己を正当化する感覚や狭量さは危険で幼稚な思想だと本書では指摘しています。

BATNA思考には、これがだめでもこちらがあるという代替案の存在が、心に余裕を持たせてくれるという効果があります。自分の予想・期待と違うことが起きても耐え得るハートを持てる、BATNA思考は大人の思考だと述べられています。

万一駄目になってもこうすればいい、とゆったりとした感じで交渉に臨むと、余裕があり、その余裕が相手にも安心感を与え交渉を成功させるということは往々にしてあるのです。

その一方で、「これしかない思考」と同じくらい気を付けなければならないのは、「いくらでもある思考」です。有効なBATNAがないのにも関わらず「なんとかなるさ」と楽観的に考え、代替案は必要になったら出てくると思い込んでいるのは非常に危険な思考です。AさんがだめだったらBさんを当たればいい、程度の考えでもまだまだ楽観的でありBATNA とは言えません。事前にBさんとの案までしっかり温めておくことが、BATNA思考なのです。

BATNA思考が運と縁を引き寄せる

『BATNA』では代替案を持ちましょうという考えから、さらに進んで運と縁の思考にまで発展していきます。

ピンチのときに助けてくれる人に出会えたり、解決の糸口となるようなアイデアを思いついたり、自分が想定していた以外の要素を味方につけられたとき、私たちは「運がいい」と感じます。
本書では「運がいい状態」は決して偶然に起こったことでなく、ものごとに取り組む際にBATNA思考をもって熟考しているからこそ起こりえることだと述べています。人事を尽くして天命を待つとも似ているでしょうか。BATNA思考で自分が考えられることはすべて考えてみる、動いて準備しておく、そうして物事へ真に向き合う姿勢をとることが運を引き寄せるというのです。

また、どんなに考え、準備をしても「AもBもだめ」「有効なBATNAがない」という事態に陥ることもあります。そんなときには、落胆したり絶望したりするのではなく、「これも縁だろう」と柔軟に受け止める思考や態度が大切です。交渉で合意を得られなかったときは、負けととらえるのではなく、「縁がなかったんだ」ととらえることで過度に執着しないで過ごすことができるでしょう。

経営者は、取引先の方や従業員の方を相手に、日々交渉ごとに直面しています。相当な労力と時間を費やしても見合わない結果となることもあるのが交渉事。そんな交渉事を前にしてひるまず、勝率を上げ、意にそぐわない結果もカラッと乗り越えるには、どんなマインドセットをすればいいか。BATNA思考は交渉事をスムーズに運ぶための思考のヒントに多いになってくれるはずです。

【良書からこの視点】
BATNA(最良の代替案)を準備して、余裕ある交渉に挑もう。余裕がもたらす安心感が交渉を成功させる。

 

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