Blog 最新記事
- 準備ができれば話し上手の道が開ける from『世界のトップリーダーが話す1分前にまでにおこなっていること』(良書から学ぶ経営のヒント)2024-12-15
- 信念への共感が心をつかむ from『すごい傾聴』(良書から学ぶ経営のヒント)2024-11-15
- 「見て見ぬふり」はこうして起こる-コンプライアンス違反を防ぐための心理的アプローチ-2024-11-04
- コンプライアンス違反を防ぐ少数派の影響力2024-11-04
- アンコンシャス・バイアスがコンプライアンス違反を招く?-無意識の偏見と公正な職場-2024-11-04
カテゴリ
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」-コンプライアンスと集団的浅慮-
会社での意思決定やチームでの話し合いでは、個々人が持つ良識や判断が、時に集団の流れに影響され、誤った決定へと向かうことがあります。これは「集団的浅慮」(groupthink)と呼ばれる現象で、社会心理学でもよく研究されているテーマです。特にコンプライアンスを重視する現代のビジネスシーンでは、集団的浅慮は見逃せない問題です。この記事では、集団的浅慮がどのように起こり、ビジネスにどのような影響を与えるのかについて、具体例を交えて解説します。
目次
集団的浅慮とは?集団で判断がゆがむ理由
集団的浅慮とは、グループで議論を行う中で、メンバー全員が同じ方向へ流され、間違った判断をしてしまう現象です。個人であれば「これは正しくない」と判断できることでも、集団で話し合うと、なぜかその流れに逆らえずに「みんなが賛成しているなら大丈夫だろう」と結論づけてしまうのです。これは、よく「みんなで赤信号を渡れば怖くない」という表現で例えられますが、ビジネスにおいても同様の現象がしばしば見られます。
たとえば、新しいプロジェクトの進行中に、メンバーの一人が「この方向はリスクがあるのではないか?」と感じても、周りがその意見に反応しなかったり、逆に楽観的な意見が強調されてしまうと、反対意見は表に出にくくなります。集団での話し合いでは、意見が極端に傾きやすく、リスクを軽視してしまう「リスキーシフト」や、逆に慎重になりすぎて判断が遅れる「コーシャスシフト」という心理が働くことがあります。
集団的浅慮が生まれる3つの要因
では、なぜ集団での話し合いが間違った方向に向かいやすいのでしょうか?集団的浅慮が生まれやすい要因として、以下の3つが挙げられます。
1. 集団の結束力が強すぎると危険?
集団凝集性とは、メンバー同士の結びつきや絆の強さを指します。この結束力が高すぎると、メンバーが「意見を合わせる」ことに集中しすぎてしまい、異なる視点が排除されがちです。たとえば、長年一緒に仕事をしているチームでは、自然と似たような考え方が共有されやすく、異論が出しにくい雰囲気になってしまうことがよくあります。
また、強いリーダーシップがあると、他のメンバーはそのリーダーの意見に従う傾向が強くなり、異論が封じられがちです。このような状況では、たとえ「これはまずい」と感じていても、空気を読んで黙ってしまうことが多くなり、誤った判断が生まれるリスクが高まります。
2. 組織の構造に問題がある場合
集団的浅慮が発生するもう一つの要因は、組織の構造にある欠陥です。たとえば、メンバーの視点が似通っていると、どうしても同じような結論に達しやすくなり、多様な意見が欠如しがちです。また、孤立した組織やチームでは、外部の意見が入りにくく、内部だけで決定が進み、偏った判断がなされやすくなります。
さらに、不公正なリーダーシップや、規範がなく自由すぎる組織文化がある場合も、正しい判断を妨げる要因となります。外部からの意見やチェックがないと、内部での「馴れ合い」や「温さ」が判断に影響しやすく、正しい方向性が見えにくくなるのです。
3. ストレスやプレッシャーによる誘発的な状況
最後に、強いストレスやプレッシャーのかかる状況も、集団的浅慮を誘発します。たとえば、プロジェクトの期限が迫っている状況や、過去に失敗した経験があるチームでは、心理的に「焦り」や「不安」が強まり、冷静な判断が難しくなります。また、メンバーがリーダーよりも優れた解決策を持っていない場合、自然とリーダーに従う傾向が強くなり、そのリーダーが正しい判断をしていない場合でも、そのまま流されることが多くなります。
心理的拘泥現象:一度始めたら止められない心理
集団的浅慮が発生するときに併発しやすい現象として、「心理的拘泥現象」があります。これは、一度決定したことに対して、間違いが判明しても続けざるを得なくなる心理です。
例えば、ある企業が新規プロジェクトに多額の投資をしている最中で、それが思うように成功していない場合、「これまでにこれだけ費やしたのだから」と考え、損失が膨らむにもかかわらず撤退を躊躇することがあります。このような拘泥現象は集団での意思決定で特に強く働きやすく、結果として企業全体の損失を大きくすることに繋がるのです。
集団的浅慮を防ぎ、コンプライアンスを守るための対策
ビジネスでコンプライアンスを維持するには、集団的浅慮を回避することが欠かせません。以下の対策は、集団的浅慮を防ぎ、冷静で正しい判断を促すために効果的です。
1. 異なる視点を取り入れ、客観的な意見を加える
社内の特定のチームやメンバーだけでなく、定期的に外部の専門家や異なる部門の意見を取り入れることが重要です。多様な視点を組み合わせることで、集団の中で偏った意見が修正されやすくなり、より正確な判断が可能となります。
2. 反対意見を歓迎する風土を作る
リーダーシップにおいて、反対意見が出しやすい環境整えることが大切です。リーダーは、積極的に異なる意見や反対意見を引き出すように努めることで、メンバーが「自分の意見も尊重される」と感じやすくなり、健全な議論が生まれます。
3. 進捗状況とリスクを定期的に見直し、方向修正を柔軟に行う
プロジェクトの進行状況やリスクの評価を定期的に行い、間違いが見つかれば、素早く方向修正を行える仕組みを整えましょう。これにより、心理的拘泥現象を避けやすくなり、リスク回避がしやすくなります。
まとめ
集団的浅慮と心理的拘泥現象は、特にコンプライアンスが重視される現代のビジネスにおいて注意すべき課題です。しかし、それらをしっかりと理解し、必要な対策を講じることで、冷静かつ的確な意思決定が可能になります。
コンプライアンスを守るということは、単にルールを遵守するだけでなく、組織全体が健全で安全な方向へ進むための基盤を築くことでもあります。集団で判断を行う際には、一人ひとりが自らの役割を自覚し、多角的な視点や意見を尊重することが求められます。健全な意思決定ができる組織を作ることで、ビジネスの成長と信頼の構築に繋がっていくでしょう。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。
私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。
経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。
波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
2024年12月、本を出版いたしました。
新作著書『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』を出版いたしました。
経営者が自分の判断に自信をもち、納得して前に進んでいくためには、
経営者に伴走する弁護士が、本音で対話できるパートナーであってほしいです。
本書では、経営者に寄り添う弁護士が身につけるべきコミュニケーションのヒントを数多く解説しています。
経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674