「すぐ答える」が求められる時代に、あなたは立ち止まれますか?-『答えを急がない勇気』を持とう-

上司から問われたとき、クライアントに説明を求められたとき、会議で発言を求められたとき。「ええと、少し考えさせてください」と言えるでしょうか。あるいは、つい急いで答えを出そうとしていませんか。

私たちが生きる現代は、スピードと効率が圧倒的に重視される時代です。素早く整理し、わかりやすくまとめ、解決する力が高く評価されます。けれど、そんな時代だからこそ必要なのが、あえて答えを急がないという「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」なのだと、枝廣淳子氏は本書『答えを急がない勇気-ネガティブ・ケイパビリティのススメ』で提言します。

VUCAと呼ばれる、不確実で複雑で曖昧な時代において、私たちが持つべきは「すぐ動く力」だけではありません。「まだ分からないこと」を分からないまま抱えていられる力。そんな“立ち止まる勇気”が、未来の選択肢を広げてくれるのです。

「すぐ答える力」vs「すぐ答えない力」

現代社会で求められるのは、情報収集、分析、処理、立案、意思決定といった、いわば「ポジティブ・ケイパビリティ」です。これは、すでに枠組みがある中で、その中で最適な答えを見つけ出す力です。もちろん、ビジネスには欠かせない能力です。

しかし、VUCAの時代では、そもそも前提条件が見えない、あるいは問題の構造が複雑すぎて判断の土俵にすら上がれないことが増えています。そんな時に重要なのが「ネガティブ・ケイパビリティ」です。

これは、次のような行動を取らずに“踏みとどまる力”です。
・すぐに結論を出さない
・判断を急がない
・イライラせずに耐える
・決めつけずに観察を続ける
・あきらめないで待ち続ける
・思考停止せずに見つめ続ける

このようにして、「わからないもの」を放置せず、向き合い続けることが、やがて新しいアイデアや構造の変化を生み出していくのです。

アクセルとブレーキ、両方があってはじめて進める

本書が示す比喩の中で印象的なのが、「ポジティブ・ケイパビリティ=アクセル、ネガティブ・ケイパビリティ=ブレーキ」という表現です。

車にアクセルだけがついていたら危険です。ときにスピードを緩め、ときに止まり、ときに方向を見直すためには、ブレーキが不可欠です。ビジネスにおいても、前に進むだけではなく、立ち止まって全体像を見直す瞬間が必要です。

たとえば、新規事業開発の現場でありがちなのが、「顧客ニーズをすぐに掴もうとしすぎて、表層的な情報に飛びついてしまう」こと。違和感を無視せず、「何かが噛み合わない」と感じたときに立ち止まることが、長期的にみてより本質的な解決へとつながるのです。

ネガティブ・ケイパビリティを高める3つの方法

1.「すべてを分かっているわけではない」と認める

人間の認知には限界があります。自分が見ているものが「すべて」だと信じ込んでいると、異なる視点を受け入れる余地がなくなります

たとえば会議での議論。自分の意見に自信があるからといって、相手の違和感に耳をふさいでは、進化は起きません。「自分はまだ知らないかもしれない」「その考え方は盲点だった」と思えることが、成長のはじまりです。

2.すぐに答えを出さず、保留する

「問題だ」と感じたものが、実は症状に過ぎないことはよくあります。

ある職場で、メンバーのやる気のなさが「問題」とされ、報酬制度を変えるという“解決策”がとられました。けれど本当の問題は、業務設計に無理があり、裁量が小さすぎて自己効力感が持てなかったことでした。

このように、「近くに見える答え」は時に構造的な原因を覆い隠してしまいます。だからこそ、「自動詞思考」で待つ力が必要です。たとえば「育てる」ではなく「育つのを見守る」といった視点です。

3.自分の考えは変化しうると受け入れる

ビジネスでは「一貫性」が美徳とされますが、それが過剰になると、自分の思考を変える柔軟性を失ってしまいます

「以前と意見が変わった」と言うことは、決してぶれることではありません。むしろ、新たな情報を受け取り、アップデートできた証です。

議論ではなく対話を重ね、「わかり合う」より「わかり続ける」ことを目指しましょう。

エッジ(境界)に留まる力が未来を拓く

「わかる」と「わからない」のはざま。ここに立ち続けることは、決して楽ではありません。不安になり、落ち着かず、早く抜け出したくなるものです。

しかし、そこにこそ本当に価値ある発見が眠っていると、本書は教えてくれます。確かさがないからこそ、創造が生まれる。答えを急がない勇気を持つことで、次の一手がより確かなものになるのです。

さいごに:問いを生きるということ

ビジネスにおいて、すぐに答えを出すことが称賛される場面は多いでしょう。しかし、あえて「今はまだ答えが出せません」と言える勇気もまた、非常に重要です。

この本が示すのは、「不安を感じてもなお、曖昧さにとどまる力」。それは、短期的な成果を超えて、より持続可能な選択や関係性をつくる力です。

VUCAの時代、私たち一人ひとりが持つべきは、「すぐ答える力」と「すぐ答えない勇気」。その両方をバランスよく備えることが、これからのビジネスリーダーにとって、真の“ケイパビリティ”なのかもしれません。

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