顧問弁護士物語vol.4 -事業承継-

自分が人生をかけて育てた会社を、次代の社長に受け渡す。事業承継は会社の命運だけでなく社員の人生をも左右する、非常に難しい問題の一つです。
今回の記事は、そんな「事業承継」について、弁護士がどのようにかかわっていくのかを小説仕立てでお伝えします。

歴史ある会社を発展させたい。誰に継ぐか、どう継ぐか。

北陸地方で90年近く続く、建築会社の事業承継のご相談がありました。

現在3代目の社長はもうすぐ68歳。
社員は80名で、会社の売り上げも順調に推移しています。

社長は、「自分はこれまで建築の仕事を通じて、住まいの本質を追い求めてきた。先代と自分が培ってきたものに、これからの新しい観点、息吹を吹き込んでくれるような人材に承継して、会社をさらに一歩成長させたい」と考えていました。

社長から、事業承継を進めるにあたって「気持ちの棚卸しを手伝ってほしい」というお話をいただき、社長の元を訪ねました。

「社長は今68歳ですよね。10年後に会社をどんな風にしていたいというイメージがありますか?」
「そうだなぁ…。自分は現場から離れていて、でも会社が回っているようになってたいよね。」
「そのとき会社を切り盛りしている人として、どんな社長像をイメージしてますか?」
「うーん。(古参の社員の名前をあげ)彼かなぁ。うーん…。違うかなぁ…。」
「イメージが湧かないようでしたら、むりに社内の人にあてはめて考えなくてもいいですよ。全ての制約を取っ払って、自由に考えてみてください。思い浮かぶ人には誰がいますか?」
「そうだなぁ…。息子が社長をやってくれたら嬉しいな。でも今東京で仕事してるから、いきなり社長としてやって来たら、社員がどう思うか分かんないね。」
「どうして息子さんが浮かんだんですか?」
「うちの親父がこの会社を始めて、俺がそれを継いで、その俺の背中を小さい頃から見て育ってくれた息子が社長になってくれたら、それって嬉しいなぁ。」
「息子さんにその話をされたことはありますか?」
「たまにしか帰ってこないし、そんな話をしたことはないな。田舎の建築会社だしな。」

私は、ここで「なんとか息子さんを連れてきて、お話しましょう。」とは言いませんでした。
少し角度を変えてお話を聞いていくことにしました。

「ところで、社長は、なぜ古民家にそこまで力を入れていらっしゃるんですか?

社長は、親戚が持っていた廃屋同然の建物を、古民家として再生することに力を入れていました。

「人間の生活の本質に、衣食住があるでしょう。今は着るものと食べるものには何不自由なくなったけれど、「住む」ということが、現在の日本ではおろそかになっているような気がしていてね。「住む」ということと徹底的に向き合ってみたかったんだよ。古民家というのは、夏は涼しく過ごせて冬はあったかい。家族の絆も深まる。住むことの本質がここにあるんだ。」
「自分自身や生き方と向き合うためにやってらっしゃったんですね。」
「うん。そしてこの活動は、仕事にも本当に生きてくるんだよ。」
「息子さんに古民家に来てもらったことはあるんですか?」
「そういえば、まだ来てもらったことはないね。」
「古民家で息子さんと一緒にご飯を食べたり、ちょっと作業を手伝ってもらうのも何かのきっかけになるかもしれませんね。」
「うん、たしかに。これは自分の趣味みたいなものだから、息子を呼ぶということは考えたことはなかったなぁ。」
「東京で働いていて、実家の会社を継ぐというのは、息子さんにとっては現実味がないかもしれませんね。いきなり会社を継ぐとか継がないとかいう話ではなく、古民家で、社長の想いとか仕事の価値観などをゆったりとお互いに話される機会を作ったら、かけがえのない時間が生まれそうですね。」
「それは是非やってみたいね。そうか…。今度呼んでみようかな。」

社長の頭の中が少し整理されてきたなと感じた私は、このタイミングでとある質問をしてみました。

「ちなみに息子さんがもし会社に来られたら、今の社員さんとどういう関係になると思いますか?」
「今会社を支えてくれてる番頭役の幹部に、しっかり支えてほしいと思ってる。反発されることはないだろうけど、息子も現場のことは分からないだろうから、そこは幹部にしっかり神輿をかついでもらいたいね。」
「幹部の方々に事業承継の話ってしたことありますか?」
「まだなにもしてないね。」
ひとつご提案してもいいですか?
「うん。」
「幹部の方にも、少しずつ話し始めていくのはいかがですか。まだ決定はしていないですけど、社長のお考えを時間をかけて伝えていくことで、お互いに気持ちの準備や共有ができますね。」
「そうだね。いきなり未経験の息子が来て、神輿をかつげと言われても困るだろうからね。むかし僕が3代目社長になった時も支えてくれたメンバーだから、受け入れてくれると思うよ。」
「すごくいい関係ですね。その方々が戸惑わないようにしていきたいですよね。」
「なるほどなぁ。なんだかやるべきことが見えて来ました。波戸岡さんに話してよかった。」
「私も社長の想いを伺えてよかったです。今後もまたその後の話を聞かせてください。」
「もちろん。次にどんな話ができるか、僕も楽しみだな。」

これはちょうど1年前の話です。
そこから社長は息子さんを古民家に招待したり、息子さんと幹部社員を食事会で引き合わせたりと、まずはそれぞれの気持ちを聞きながら、少しずつ自分の思いを伝えることを始めていらっしゃいます。

事業承継は、大切な人たちに思いを伝えるところから

事業承継は、必要に迫られてから急いで動くと、どこかにひずみが生まれてしまいます。
ですから、社長自身がどう考えているのかを日頃より大切にし、今までの人生を振り返ったり、将来会社をどうしたいのかを整理したり、イメージしたりする必要があります。

その上で、周りの大切な人たちが戸惑わないように 、しっかり思いを伝えていく。

私は、法律関連の相談だけでなく、顧問弁護士の立場だからこそ踏み込んでできる対話、真の意味で「質の高い対話」を実践していくことをモットーとしています。

社内幹部にも経営者仲間にも相談しきれない。けれどしっかり考えたい。自分と向き合いたい。
そんな時にお役に立てる弁護士でありたいです。

※顧問弁護士物語は、実際の事案をもとにフィクション再構成しています。

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
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