パワハラにならない適正な指導の範囲ってどこ? -「パワハラ防止法」施行に向けて-

つい先日も、大手電機メーカーのパワーハラスメント問題が相次いでニュースとなりましたが、いまや「パワハラ」は大きな社会問題です。
高まる世論を背景に、2019年に「労働施策総合推進法」などの改正が行われ、いわゆる「パワハラ防止法」が成立しました。今年には施行となります。

「パワハラ防止法」施行により、企業にパワハラ防止策の実施が義務づけられます。
大企業は2020年6月から、中小企業は2022年内から法規制の対象となります。
企業がこれに従わない場合、厚労省から是正指導が入り、さらに企業名が公表される場合もあるとされています。

企業が「パワハラ防止策」を講じるにあたり気をつけたいのが、パワハラの定義です。
パワハラ防止法によると、パワハラとは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されています。
つまり、相手がパワハラと感じたらパワハラになるのではなく、「業務上必要かつ相当な範囲」(従来の厚労省の定義ですと「業務の適正な範囲」)を超えた行為がパワハラになるということです。
厚労省の定める「パワハラ定義と行為類型」

実は、パワハラの発生した現場で多く起きているのが、この「業務上必要かつ相当な範囲」の認識の問題です。
上司が「『正しい』と考え『業務の範囲内でやっている』つもりが、部下にとっては「『理不尽』で『業務の域を逸脱した行為』」と映ってしまうことが起きています。
今回は、この「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」行為とはどんなものかについて考えてみます。

上司と部下の“認識のギャップ”を知って適正な指導を行おう

実際に当事務所でご相談を受けたパワハラ事例をもとに、上司と部下のコミュニケーションでは、こんなに認識のギャップがあるんだということをご紹介します。

〔例1〕
◎こんな会話
上司:「営業訪問数が伸びてないぞ!どうした!」
部下:「客先も年度末で忙しいらしくて、今月はアポが取れないんです」
上司:「言い訳なんて言ってる場合か。そんなに簡単にあきらめてどうする!」
◎上司の思い
「あいつには成長して欲しい。だから熱意を持って指導しているんだ」
◎部下の受け止め
「自分の考えを押し付けるのは勘弁してほしいよ…」

〔例2〕
◎こんな会話
上司:「こないだも言ったけど、顧客の要望をつかむためにはな、、、ちゃんと聞いてるのか?」
部下:「はぃ、、聞いております…」
◎上司の思い
「伝わるまで何度も何度も指導するのが上司の役目だ」
◎部下の受け止め
「またこの話だよ。何度も言われてる私は信用されてないんだな」

〔例3〕
◎こんな会話
上司:「そういえば月曜のプレゼン資料、ちゃんと用意できてるのかな。リマインドメール送っといてやろう」
部下:「…おいおい、今日は休みだぜ」
◎上司の思い
「俺の若いころは休みを返上して働いたし、おかげで大事な経験を積むことができたんだ」
◎部下の受け止め
「私生活まで踏み込まれたら休まらないよ。オフの日に連絡しないでほしいな」

〔例4〕
◎こんな会話
上司:「企画書ってのはな、情熱がこもってなんぼだよ。俺が昔書いたものをしっかり読んで勉強しろ」
部下:「社内のフォーマットを参照して工夫してみたんですが…」
上司:「新人のうちはこっちのほうが分かりやすいだろ。まずは言われた通りにやってみてからだよ」
◎上司の思い
「俺がやってきたやり方を覚えて成長してほしい」
◎部下の受け止め
「“俺が正しい”オーラは出さないでほしい。あなたの時代はそれでうまくいったんだろうけどさ」

このように、「成長してほしい」「成長したい」という気持ちは同じでも、上司と部下それぞれの思いや受け止め方はまるで別物で、同じ場面でもこんなにも捉え方が変わってくることが、お分かりいただけたでしょうか。

パワハラ認定を防ぐための「4つのチェックポイント」

紹介したケースのどれも、上司目線では「部下の成長を願って熱心に指導する、いい上司」かもしれません。
そして上司自身も言うでしょう。「業務の範囲内で適正な指導をしている」と。

けれど、部下の立場から考えると、指導というより「上司個人の主張を押し付けられている」ようにも感じます。
場合によっては、業務の範囲を超えて、行き過ぎた指導をされていると認識することもあるでしょう。

仕事の一環で、そして部下の成長を願う気持ちゆえの働きかけなのに、パワハラで訴えられてしまってはこんなに悲しいことはありませんよね。
そこで、当事務所では、こうしたミス・コミュニケーションが起きないよう、上司ご自身に日頃の言動を振り返っていただくために、以下の4つのチェックポイントをお伝えしています。

1、自分の考え・やり方を押し付けてはいないか?
→同じ働きかけや提案でも、部下の力を引き出すという観点で指導すると、部下は押し付けられていると感じなくなります。

2、しつこく迫っていないか?
→ご自身が納得するために指導していませんか?部下自身に理解してもらい、行動に移してもらうという本来の目的を見失わないようにしましょう。

3、部下を好き嫌いしてないか?
→人間誰しも好き嫌いという感情はあります。しかし、チームで結果を出すためには、一貫性のある冷静なアプローチが求められます。中長期的な観点からも、自分自身のキャリア育成のためにも、感情でマネージメントしていないか、確認してみましょう。

4、実現可能な指導になっているか?
→期待という名の過度な要求は、部下に精神的な負担を強いてしまいます。時にはスモールステップで、相手に自信をもたせることも大切です。部下が責任を負える範囲の指導になっているかどうか、見直してみましょう。

このように「業務上必要かつ相当な範囲」は上司と部下のポジションを変えると、大きく見え方が変わってくるものです。
“部下の立場からどう見えるのか”という視点を持つことが、パワハラによるトラブルを回避する大事なポイントです。
また、部下の成長のために、モチベーション管理を丁寧に行うとことも上司の大切の仕事です。

上司にとっても、部下にとっても、お互いに気持ちよく働ける関係にするために、今回の法施行をきっかけに、パワハラへの対応が企業人事においてますます重要なテーマとなることは確実です。
私は顧問弁護士としてのアドバイスはもちろん、パワハラを未然に防ぐための企業研修や勉強会も行っています。
より具体的な事例でのケーススタディや、心理的アプローチを取り入れた効果の高い防止策のご提案も行っております。
お力添えできることがありましたら、ぜひご連絡ください。

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
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