社員を懲戒解雇できる条件とは-企業弁護士が解説します-

“たとえ社員に問題があっても、簡単には社員を解雇できない”
日本の労働法制は懲戒解雇についてかなり厳しい姿勢をとっています。
このような認識は企業経営者にとっても一般的ともいえるでしょう。

しかし、だからといって絶対に解雇できないわけではありません。
一定の条件と手続きを経ることで社員を懲戒解雇できる場合があります。

懲戒解雇できる条件とは?

懲戒解雇は、社員に対する懲戒処分の中で、最も重い罰則に当たります。
国の秩序を犯せば刑罰が科されるように、企業秩序を犯せば懲戒処分が科せられる場合があります。
刑罰に種類や段階があるように、懲戒処分にも種類や段階があります。

具体的には、
戒告―けん責―減給―出勤停止―降格―諭旨解雇―懲戒解雇
があり、右に行くにつれて重いものとなります。

そう、懲戒解雇は社員の地位を奪うものであり、懲戒処分の中で最も重いものなのです。
それは、社員に対するペナルティとして一方的に解雇してその地位をはく奪するものなので、懲戒解雇を行うにはその要件や手続が厳格に要求されます。

懲戒解雇が有効となる3要件

懲戒解雇が有効となる要件は次の3つが全てそろうことです。

① 根拠規定=就業規則に懲戒処分となる行為を明示してあるか
→何がペナルティの対象となるかを、予め就業規則で定めておく必要があります。

② 懲戒事由該当行為=懲戒処分に当たる行為を本当に行なったのか
→その社員が間違いなく懲戒処分に当たる行為をしたと認定できる必要があります。

③ 処分の相当性=やったことと懲戒との均衡が取れているか
→おかした行為と受けるペナルティのバランスがとれている必要があります。
→また、本人の言い分や反論を公平に聞き取る機会を設ける必要もあります。

以下ではもう少し具体的に懲戒解雇が問題となるケースを説明します。

(1)社員が犯罪行為を犯した場合
社員が会社のお金を横領したり、人を傷つけて警察に捕まった場合、そうした犯罪行為は“社会秩序”を乱したものとして刑罰が科されます。
会社の場合は、“企業秩序”を乱して会社に被害を与えたかが、懲戒が認められるかの基準になります。
つまり、犯罪行為をしたからといって当然に懲戒解雇になるわけではなく、企業秩序を乱したかどうかがポイントとなります。

交通事故一つとっても、飲酒運転で人にけがをさせたのと、不注意でけがをさせてしまったのでは、会社の評判や業務に支障が出るかという点で影響の度合いは変わってきます。

横領や傷害事件を起こした場合も、当然に懲戒となるわけではなく、会社にどれだけの影響やダメージを与えたかで、懲戒解雇の有効性は判断されます。

(2)社員が不正を働いていた場合
これも日ごろよく受ける相談の一つです。
社員が取引先から会社を通さずに直で仕事を受けていたり、就業規則で禁止されている副業をしていた場合など、違法行為ではないけれども、会社のルールに違反したり、会社に損害を与えるような不正を働いていた場合です。

これも判断基準は犯罪行為の場合と同じで、会社にどれだけの影響やダメージを与えたかが焦点になってきます。

中身とプロセス

このように、社員を解雇することは高いハードルではありますが、一定の条件のもとで懲戒解雇することは可能です。
しかし懲戒解雇は社員にとっては非常に重い罰ですから、会社としても慎重に判断をするべきです。
準備が不十分なまま解雇をすれば、労基署に申告されたり労働審判や訴訟を起こされて長い争いになってしまう可能性がでてきます。

法律では、「実体」と「手続」とを分けて考えます。
実体、つまり“中身”を見れば懲戒処分してもいいケースだったとしても、
手続、つまり“プロセス”において、一方的に通告しても反論されてしまい、決着に至るまでに長期化してしまうケースがそれなりにあるのです。

経営者からすると、「当社は間違いなく正しい!」と言いたいときはしばしばありますし、感情面も含め、私もつよく共感するところです。

けれど、「実体」面では正しくても「手続」面で時間がかかるようであれば、それを避けることも、経営判断として考慮に入れなければなりません。

つまり、懲戒解雇が可能なケースであっても、「べき論」や「感情」にとらわれず、本人と話して、本人に退職届を出してもらうのが、まずは目指すゴールとしたいところです。

本人が納得し、署名・押印をして自ら退職したのであれば、後々争いが蒸し返されるおそれはありません。
それでもどうしても本人が納得しないようであれば、最終手段として懲戒解雇を検討すべきでしょう。

実際に企業が懲戒解雇を検討するシーンではどう進める?

懲戒解雇は会社が社員に対して行う最も重い罰則だと説明しましたが、では実際に懲戒解雇を検討する場合、どうやって進めていけばいいでしょうか。

【企業が懲戒解雇を考えるシーン】
・緊急事態宣言下など、会社が禁止しているにもかかわらず会食をして、新型コロナウイルスに感染してしまった。
・個人のSNSで著しく問題のある投稿があり、炎上した。
・会社に無許可で副業をしていた。

最近では上記のように新型コロナウイルス関連の懲戒処分も話題になっており、多くのご相談を受けています。
実際、社員の問題行動が発覚したことで懲戒処分の検討を進めていく際には、企業だけでは対応しきれないケースが多々出てきます。
そのようなとき、弁護士に相談しながら懲戒処分(懲戒解雇を含む)を検討することをお勧めします。
ではここからは、波戸岡にご相談いただいた際にどのような流れで検討を進めていくか、順を追ってご説明いたします。

【弁護士が介入した場合】

1.事実の有無を確認する
まずは就業規則と照らし合わせ、違反行為があったのか、その実態を正しく把握するために、会社ご担当者様へのヒアリングを行います。
懲戒処分に関して何より注意しておきたいのが、しっかりとした事実確認です。
情報源や事実が不確かなままで進めてしまうと、逆に会社が訴えられてしまうリスクすらあります。
客観的な証拠に裏付けられているのか、複数の人の証言があるのか、人伝えの情報ではないのか、本人は認めているのかなど、把握している情報の信ぴょう性をしっかり吟味する必要があります。

2.弁明の機会を設ける
会社からヒアリングした情報のみでいきなり懲戒処分に進めるという訳にはいきません。実際に本人にも話を聞き、弁明の機会を与えるというプロセスが必要となります。

本人との面談は、基本的には会社側に対応して頂き、私から企業様へは、事前に本人からの弁明を聞く上で大切なポイントについてアドバイスをいたします。
具体的は、
・どのように話を進めていくべきか
・確認しておくべきことは何か

を中心にアドバイスいたします。
もしも本人との話し合いがもつれてしまい、会社での対応がどうしても難しいと判断された場合には、波戸岡が対応することも可能ですので、その際はご相談ください。

3.適正な処分を検討する
本人からのヒアリングを元に、最終的な処分内容を一緒に検討します。
そもそも懲戒処分することが妥当なのか、また下そうとしている処分の内容が本当に適切なのかを今一度考えるプロセスです。

懲戒処分(解雇)にすることで、他の社員に向けて会社のスタンスを示す意味を持たせるケースもあれば、本人との遺恨を残さないように諭旨解雇をすすめるケースもありえます。

懲戒解雇は最終手段であり一方的な処分なので、その後、企業が無用なトラブルを引きずらないようにすることも見据え、取るべき方策を一緒に検討します。

これまで何件も相談を受けてきましたが、経営者が一人でトラブル解消に手間と時間を奪われて、精神的にも疲弊してしまうのは決して珍しいことではありません。

同じトラブルでも企業によって対処法は様々です。私は、「適切に処分を行うか」という点にとどまらず、「経営者が思い描く、あるべき会社の姿に向かう」ためのをお手伝いしたいと考えて取り組んでいます。

さいごに

企業経営をしていれば、労使問題はいつも付いて回ります。
「こんなことをして許せない」といった感情を無視することは難しいですが、
それでも理性的に物事を進め、企業の未来にとってよい選択肢は何なのかを吟味検討することが必要です。

そのためにも、私は、弁護士として淡々と処理するのではなく、
経営者や会社がどうありたいのかを伺い、会社にとって最大のメリットは何なのかを見極めたうえで、お力添えをするようにしています。
いつでもご相談を受け付けていますので、その場合は以下のフォームからご連絡ください。
ご連絡いただきましたら、一両日中にご返信いたします。

お問い合わせ・法律相談のお申込み

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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弁護士 波戸岡光太
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