初めての退職勧奨 ~‟退職のすすめ“は違法なの?~

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

中小企業をもりたてるパートナーとして、企業理念や経営者の想い、事業を理解した上で法的アドバイス、対外交渉、リーガルチェックを行うことをポリシーとしております。
これまでの法律相談は1000件以上。
ビジネスコーチングスキルを取り入れ、顧問先企業の経営課題・悩みをヒアリングし解消するトリガーミーティングも毎月行っています。

経歴・実績 詳細はこちら
波戸岡への法律相談のご依頼はこちら

新年度が始まり、社内にも新しい風が吹いていることでしょう。
一方、社員の数が増えると、社風に合わない人が出てきてしまうこともあります。
経営者にとってこれは悩みの種のひとつです。
「どうにか辞めてもらいたい」と思ったとしても、こちらから一方的に辞めさせることができないことはご存知のことと思います。

しかし、退職勧奨という違法性のない方法もあります。
そこで今回は、「初めての退職勧奨」というテーマで解説をします。
どんな退職勧奨が合法となり、どんな退職勧奨が違法となるのか、そして正しい退職勧奨はどのように進めればいいのかについても解説します。

そもそも退職勧奨とは?

「退職勧奨」とは、文字通り、会社が労働者に対して退職を勧めることをいいます。

強制的に従業員を退職させることは法律に触れますが、退職を勧めること自体は違法ではありません。
なぜなら、退職するかどうかは対象社員自身が判断できるからです。

とはいえ、過去には違法と認められた退職勧奨の判例が山ほどあります。
というのも、退職勧奨という名のもとで、事実上の強制を行ってしまったり、従業員の自由な意思決定を奪ってしまいがちだからです。

ですので、まずは、許される退職勧奨と許されない退職勧奨の分岐点をしっかり押さえておく必要があります。

退職勧奨が違法となる分岐点

退職勧奨が違法となるかならないかのラインは、労働者の自由な意思を圧迫し、事実上退職せざるを得ない状況に追い込んでいるかどうかです。

具体的に、違法と判断される分岐点について解説しましょう。

◎分岐点1.何度もしつこく退職を迫る

退職勧奨が違法になる典型的なパターンは、何度もしつこく退職を迫る行為です。
社員が退職する意思がないと回答したのに、何とかして考えを変えさせようと、長期間にわたり何度も、それこそ退職すると回答するまで説得を続ける行為は避けなければなりません。
その意味では、退職勧奨は、会社が「退職してほしいと思っている」と伝えたところ、社員に「嫌です」と答えられたらそれまでです、という性質のものではあります。
過去の判例でも、執拗に何度も繰り返し退職勧奨を行った退職勧奨は違法と判断されています。

◎分岐点2.人格や能力を攻撃してしまう

相手の人格を非難したり、その人の能力を攻撃したりすることは、それ自体パワハラとして不法行為になりかねないですし、そういう責め方で職場にいづらくさせることは、従業員の自由な意思決定を奪うものなので、ぜひとも避けなければなりません。
もちろん、業務遂行に関して起きた問題を、事実として示すこと自体は問題ではありません。

◎分岐点3.退職勧奨の場で圧迫感を与えてしまう

上司はじめ複数人で取り囲むようにして退職勧奨を行う行為も、避けたいところです。
社員にとっては、面談に呼び出されて、複数の上司と面と向かい合うだけでも圧迫感を感じてしまうものです。
複数の人間が次々と矢継ぎ早に質問をしたり、問い詰めたりしたうえで退職を勧めたりすれば、違法とされても仕方がありません。

◎分岐点4.長時間にわたり面談してしまう

長時間による面談を行って退職を勧めることも、違法な退職勧奨となりえます。

過去の判例では、実に8時間にもわたって退職勧奨をし続けたケースがありました。
最終的には本人が自ら退職の意向を述べたとしても、「そうするしかなかった」という状況であれば、もはやそこに自由な意思は認められません。
根負けを待つという方法は避けるべきです。

このように、退職勧奨の際の「回数」「時間」「言葉遣い」「威圧感」などによって、退職勧奨が合法となるか違法となるかが判断されます。

退職勧奨におけるNGな言い方

繰り返しになりますが、退職勧奨において会社は退職を勧めることができるだけです。早く辞めさせたいと思うあまりに、ついつい踏み込んだ言い回しをしてしまいがちですが、退職するかどうかの決定権はあくまで従業員にあります。

ここまで、退職勧奨が違法となり得る分岐点についてお伝えしてきましたが、ここからは具体的なNGの言い方をお伝えしていきます。

①「退職に応じないと、ゆくゆくは解雇も考えざるを得ません。」
②「このまま残っても、会社に居づらくなりませんか。」
③「今後給与も同じ額を保証できるかわかりません。」

これらは、言い回しだけをみれば、圧迫感を与えたり人格や能力を否定していないようにもみえそうです。
しかしながら、会社に残ることによる社員の不利益を示唆しているため、自由な意思を圧迫していると捉えられる可能性が十分にあり、退職勧奨においては避けるべき発言となります。

退職勧奨を正しく進めるために必要なこと

人事にまつわるトラブルは社内外にも大きな影響を及ぼします。特に現代は容易にSNSで発信されることもあり、企業が批判にさらされることも多くなりました。
まして訴訟にまで発展すると、労働環境に問題があるというイメージもついてしまい、後日にそれを払拭することは難しくなります。

ですので、人事では何より事前の予防が必要であり、企業はアクションを起こす前に正しい法律知識を知り、適切な手順を踏むことが必要となります。
そこで退職勧奨を正しく進めるための基本的なスタンスを解説していきます。

◎スタンス1.会話の主語は対象社員ではなく会社にする

まず覚えておいて頂きたいのは、退職勧奨はあくまでも会社の意思を伝える場にすぎないということです。

例えば、会話の主語です。
対象社員を主語にすると「あなたはこうだ」という伝え方になりやすく、決めつけや人格否定とも受け取られかねません。

こうした事態に陥らないためには、会話の主語を会社にすることです。
そうすると、「会社は今、あなたをこう思っている」というメッセージを伝える話し方になります。
相手への評価を下す場所ではなく、「私はこう思っている」というメッセージを伝えることを意識することが重要です。もちろん、その場で決断を迫ることも避けましょう。

◎スタンス2.コミュニケーションの場ととらえる

退職勧奨で問題となりやすいのが、言い合いになってしまうことです。
もちろん、最初から議論しようとか、キツい言い方をしようとは思っていないはずです。
けれど、話が平行線を辿ったり、社員から否定的なことを言われたりしたときに、つい感情的になり言い方がキツくなってしまうことが起きがちです。

普段の業務の範疇なら「言い方のキツい上司」で済むようなことでも、退職勧奨の場所となるとそうはいきません。言葉の一つひとつが、違法性を基礎づける材料になってしまうことにもなりかねません。

もちろん人間ですから、意に沿わない反論をされたら、さらに言い返したくなる気持ちは自然でもあります。しかしその気持ちをグッと抑え、「この場はメッセージを伝えるコミュニケーション場なんだ」と理解し堪えることが必要です。
具体的な対策としては、相手が反論してきたら、「その意見は受け取っておきます」と、それ以上話を広げず、繰り返さないことがポイントです。

また、相手の話を途中で遮ることもいけません。
なぜなら人は話を遮られると強いストレスを抱える性質があり、「話を聞いてもらえなかった」という鬱屈した気持ちがトラブルを大きくさせるリスクがあるからです。

そもそも、退職勧奨は議論の場でありません。また相手を納得させる場でもありません。
「こちらの意思を伝えるだけ」「相手の意見を受け止めるだけ」という考え方を徹底してから、面談に望むのがよいでしょう。

◎スタンス3.面談の人数は多すぎず少なすぎず

前述しましたが、対象社員ひとりに対して複数人で向き合うと、圧力や圧迫を受けている印象を相手に持たれてしまいます。

一方で、1対1で話すこともダメではありませんが、できれば避けたいものです。密室という状況では、後々あることないことを言われてしまうリスクがあるからです。

大人数になり過ぎず、かつ睨み合いにならないような人数として、会社側は2~3人で出席するのが一般的かと思います。

◎スタンス4.席の配置を工夫し、対決姿勢をあおらない

会社側が複数出席する場合、採用面接のときのように横一列にずらりと並んで対峙すると相手に圧迫感を与えてしまいます。
心理学上も、席の配置次第で会議の雰囲気が変わることは裏付けられています。
通常の会議のようにテーブルをはさんで座るなど、対決姿勢をあおらないような配置にするのがよいです。

◎スタンス5.社長自身のメッセージを伝えたい

中小企業であれば社長が直接お話しすることをお勧めします。会社からのメッセージだと伝わるためです。

また、退職勧奨をするくらいですから、対象社員と会社の関係がこじれていたり、お互いに不信感を持っていたりする場合があります。
社長を含めて上司ばかりだと対象社員は感情的になってしまうことがあるため、場合によっては、関係性の比較的近い社員に出席してもらうことも検討するとよいです。

◎スタンス6.面談が複数回にわたるときは要注意

退職勧奨が違法と認められた過去の判例では、4カ月間で30数回の面談を行ったという事例があります。これはあまりにも多いです。

基本的には、一度面談をし、考えてもらう期間を設けて、意思を確認するためにもう一度面談をするぐらいが適正ではないでしょうか。面談を執拗に重ねることは、違法となる可能性が高まると認識しておきましょう。

もちろん相手が合意した場合に、退職に向けて手続きを進めていくために何度か面談を行うことは問題ありません。

最初にもお伝えしましたが、退職勧奨とはあくまでも退職を勧めることです。威圧的に、あるいは強制的に退職するように仕向けることはいけません。
そのための面談の仕方、話し方などをしっかりと心がけましょう。

退職勧奨の進め方

さて、退職勧奨を行う際に、どのように話を進めたらいいのか分からない場合は、以下の流れを参考にしてみてください。

1.これまでの経緯を伝える
なぜ今日の面談を行うに至ったのかを具体的に伝えます。
話をする側の主観ではなく、事実ベースで伝えるようにしましょう。これまでの指導や会社が取ってきた対応の履歴を書面にして説明すると、話がスムーズに進みます。

◎伝えるべきポイント
・あくまで急に思い立った事案ではないこと
・これまで当該社員に起きた出来事(できるだけ客観的な事実として記録したもの)
・会社が改善のために行ってきたこと(改善のためにお願いしてきたことや、会社として改善するために受け入れたこと)
・改善されなかった履歴(再発した内容を具体的に)

2.会社の意向を伝える
前置きとして「今すぐに決断を迫るものではない」、「強制力を持つものではない」ということを伝えたうえで、会社としての意向を伝えてください。
ここで、前述のスタンス1を参考に、会社を主語にする伝え方で「会社はあなたに退職していただきたいと思っています。」のようなかたちで伝えましょう。会社の意向についてはこれ以上伝えることはないです。

退職勧奨は評価を下す場でも、批判をする場でもないため、「あなたは退職すべきだ」という社員主語で話すのは避けましょう。

3.条件を伝える
退職するに際しての条件を伝えましょう。主に以下の3点です。
・退職希望時期
・退職金の有無
・回答期限の要望

これらを定めずに退職勧奨に臨んでしまう会社が多いですが、条件を明らかにしておくことで社員も受け入れやすくなります。

4.従業員の意見・意向を聞く
退職勧奨の面談のゴールは「退職の意思を取り付ける」ことではなく「会社が退職を希望する意思を伝える」ことです。
会社としてのメッセージを伝えきったら、目的は完了したと捉えましょう。
会社としては社員が受け入れてくれるのがいちばんですが、拒否された場合でも、問い詰めたり、承諾するように促したりするのは非常に危険です。

また、ここまでは冷静に伝えてこれたのに、4の社員の意思を聞く段階で社員に強く当たってしまう方もいます。社員から反論された場合でも、その場で無理に答えを出そうとしてはいけません。

そもそも社員の反論や質問に回答する義務がある訳ではないですので、詳細を記録したうえで、「会社で検討して、回答すべき内容や方針が変わる場合はお伝えします」等と伝えておく程度に止めましょう。

退職勧奨を拒否された場合の、次の一手

退職勧奨を行っても、対象社員には拒否する権利がありますし、その意思を尊重するのが会社としての基本的な姿勢です。

それでも会社にとっては望ましくない社員ではあるので、経営者としては、つい「だったら解雇だ」「辞めると言うまで説得してやろう」といった思考に陥ってしまいます。
私自身、多くの経営者に接している立場や経験から、そのような感情は決して珍しくないことだと思っています。
ですが、弁護士としては、そうした思考そのままに実行に移そうとしたりするのであれば全力で引き止めます。
法律上は、拒否されたら「そうですか」と引き下がるほかない関係にあることも忘れてはいけないのです。

また、近年では社員も労務に関する知識を十分に備えています。間違った方法で退職勧奨を行い、違法だと訴えられれば解決が長引きますし、他の社員にも影響を及ぼしかねません。

とくに退職勧奨に強制力がないことを双方が知っている場合、一度の話し合いで終わらないことが多いです。そのため、次はどう対応するべきかと頭を悩ませることは、経営者にとって大きな負担となるでしょう。

退職勧奨を進めるに当たって弁護士などの専門家に相談していないという会社様は、相談しながら解決に向けてアクションしていくことをお勧めします。
万が一の従業員からの訴えにも備えた上で、万全を期して退職勧奨に臨みましょう。

そして、最後に伝えておきたいことですが、私自身数多くの企業に携わっていますが、退職勧奨がスムーズにいかなかったとしても、決して無意味なことではないと感じています。

退職を勧められた社員は何らかのアクションや変化を起こすことが多いです。
退職を考え始める人もいれば、働き方を改め、直す人もいます。

ですから退職勧奨を行った場合、そこから起きる変化にぜひ目を向けてください。
そして会社として次の一手をどう打つかが、よりより会社運営につながっていくと捉えてほしいです。

退職勧奨では、「辞めさせる」ということが目的となりがちですが、本当の目的は「会社をいい方向に成長させる」ことです。

そのために、違法にならない退職勧奨のお手伝いはもちろん、その後に会社としてどのようにアクションを起こしたらいいのか、といったことまでアドバイスをさせていただきます。

退職させることはひとつの選択肢として捉え、あらゆる可能性を法律に携わる立場から考えてサポートして参ります。
サポートの方法として、1回ごとの法律相談、“解決するまで”定額相談サービス、顧問契約がありますので、お気軽にお問い合わせください。
《サービス・費用》

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674