コーチングで対人支援の力を高める

法的アドバイスをきちんとしたのに、依頼者の顔が晴れないのはなぜだろうと感じたことが、かつて何度もありました。決して間違ったアドバイスはしていないのに、曇った表情の依頼者を前にして、「自分には何が求められているのだろう」「どうすれば依頼者が人生を前向きに進んでいく手助けができるだろう」と、解決法を求めて心理学をはじめ様々なコミュニケーション法を学ぶ中、私はビジネスコーチングに出会いました。

コーチングとは、対話を通じて、クライアントの夢や目標を明確にし、その達成を支援する人材開発、能力開発のスキルです。コーチの語源が「目的地へ連れて行ってくれる馬車(coach)」からきているように、コーチはクライアントに適切な質問を繰り返しながら、クライアントが叶えたい目標は何なのか、その達成のためには何が必要で、どのように行動すればいいのかを、クライアント自身が気付くように働きかけ、伴走します。

コーチは、「答えはクライアント自身の中にある」「クライアントには解決する能力と可能性がある」ことを大前提に、「聴く」「質問する」「フィードバックする」「提案する」などを重ねることで、クライアントが目標達成のために必要な行動を実践し、目標に近づくような支援を行います。コーチングとは、目標達成支援と能力開発支援に向けての働きかけを可能にするコミュニケーションスキルと言えるでしょう。

私たち弁護士が相手にしているのは人です。とくに法律事務所を訪れる方は、その多くが混乱した現状や今後の心配事を抱えています。そのような方を前にして、弁護士のあるべき姿勢は、法的知識を駆使して事態を解決へ向かわせるのはもちろんのこと、「自分の悩みを分かってほしい」「大切にしている価値観を理解してほしい」という依頼者の感情に寄り添い支援することだと考えます。
「コト(事態)」への対応と「ヒト(気持ち)」への対応が同時になされることが大切です。

コーチング的コミュニケーションでは、依頼者の悩みや課題を聞いた時、いきなり解決しようとアドバイスを始めるのではなく「〇〇さんは何を大切にしているのか」「課題を解決したいのは何のためか」「そもそもそれは課題なのか」と対話を重ねて、相手の価値観や本当の課題を掘り起こしていきます。そうすることで、依頼者には自分でも思いもよらなかった気づきが生まれることがあります。ひとりで考え続けても暗中模索の状態だったところに、突破口が開けていく。コーチングにはそのような力があるのです。

ビジネスコーチングを弁護士業に取り入れ、対人支援の側面が高まるにつれ、法律事務所を訪れた際には不安げな表情しかなかった依頼者が、自分で行きたい方向を見出し、決断し、前を向いて人生を歩む、そのようなサポートができるようになっていきました。

実際にコーチングを取り入れようとすると、多くの場合、「よい質問ができない」「相手にとって質問が役にたっているのか心配」という悩みがでてきますが、そんなきにはぜひ前回のブログで書いた『6つの質問スキル』を参考にしてみてください。大切なのは、解決する力が目の前の人にはあると信じ切ることです。あとはあなたの純粋な好奇心から質問していけばいいのです。

依頼者との対話の後に「質問が役に立っただろうか」と心配になって振り返ることは対人支援の気持ちで人に接していく限り、なくなることはないでしょう。100%満足の出来を感じることはないかもしれませんが、それでも大丈夫です。たとえ答えを出せなくても、話し始めたときよりも、少しでも前に進めたと依頼者が思ってくれるように、依頼者と一緒に答えを探していく、弁護士がそのような姿勢で丁寧に質問をしていくことに意味があるのです。

「コト」の解決をする弁護士がコーチングスキルを身につけることで、「ヒト」の支援ができるようになることを、多くの依頼者の方との対話を経て私は実感しています。そして、このようなコーチングスキルが多くの専門家の中に普及していけばいいなと願っています。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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