退職合意書を拒否された場合の対処法とは?

退職合意書の書き方や注意点、拒否されたときの対処法を弁護士が解説します!

退職合意書とは、会社と従業員が、退職に際して合意のうえで交わす書面のことで、退職に関する約束ごとを記載します。
在職中の債権債務を清算し、また退職後の遵守事項を合意しておくことで、退職後のトラブルを極力回避する役割を持ちます。

退職合意書を作成をするケースとその理由

早期退職者を募る場合や問題社員に退職勧奨を行う場合、さらに従業員が一方的に退職を希望した場合など、会社と従業員との退職に対する見解に相違が生じてしまいそうな時は、退職合意書を作成しておいた方が良いでしょう。
従業員退職後、企業秘密の漏洩やSNSでの誹謗中傷、賃金未払いなどの金銭トラブルのリスクを減らすことができます。

退職勧奨の正しい進め方については、別の記事にまとめましたのでこちらをご覧ください。

→初めての退職勧奨 ~‟退職のすすめ“は違法なの?~

退職合意書の書き方と書くときの注意点

退職合意書に記載する内容は会社ごと、従業員ごとに違いがあります。簡易的なものから詳細なものまでさまざまですが、ここではごく一般的な退職合意書の書き方をご紹介します。
(記載例において会社を「甲」、退職する従業員を「乙」とします。)

第1条 合意退職の確認
例:「甲と乙とは、甲乙間の労働契約を、〇年〇月〇日付で合意解約する。」
退職が会社からの一方的な解雇によるものではなく、合意の上で退職したことを明らかにします。退職日を特定して、「合意解約する(した)」と明確に記載します。
第2条 離職理由
例:「前条の離職事由は、〇〇として扱う。」
従業員が会社の退職勧奨に応じて退職したときには離職理由は会社都合となるため、通常は「会社都合」と記載しますが、転職活動への悪影響を懸念して従業員が「自己都合」を希望することもあります。その場合、会社にとって自己都合として扱うことにデメリットはないかを検討し、柔軟に対応する場合もあります。
第3条 退職日までの出勤の要否
例:「乙の最終出社日は〇年〇月〇日とし、乙は同日まで、甲の指示に従って後任者に対する業務引き継ぎを行う。」
退職日が特定されたら、退職日までの社員のあり方ついても取り決めをします。退職後の混乱を避けるために業務の引き継ぎを定めることもあります。
第4条 退職時の金銭交付
例:「甲は乙に対し、解決金として〇〇円を支払う。」
退職の合意と引き換えに、「解決金」や「退職金」として会社から従業員に一定の金銭を支給することもあります。解決金があることによって労使トラブルの回避につながります。
第5条 私物・貸与品の扱い
例:「乙は甲に対し、業務上貸与を受けていたモバイル端末、カードキー、社員証を、〇年〇月〇日限り、甲本社に郵送する方法により返却する。」
従業員に貸与していた備品等の返却について明確に規定します。
第6条 守秘義務
例:「乙は、在職中に知り得た甲の営業上、財務上、人事上その他一切の業務上の秘密について退職後に使用せず、また、第三者に開示、漏洩しない。」
退職をした従業員による情報漏洩は近年問題となっているところです。退職合意書に守秘義務条項を定め、会社のあらゆる秘密を退職後に漏らさないよう約束しておきます。
第7条 口外禁止、誹謗中傷の禁止
例:「甲及び乙は、本合意書の内容及び合意に至った経緯について、第三者に開示、漏洩しない。甲及び乙は、互いに相手を誹謗中傷する行為をしない。」
退職合意書の内容を口外しないこと、そしてお互いについて誹謗中傷しないことを定めます。特に誹謗中傷についてはSNSなどで拡散されると会社にとって大きなダメージとなるため、明確に記載しておきましょう。
第8条 清算条項
例:「甲及び乙は、甲乙間に、本合意書に定めるほか、一切の債権債務のないことを相互に確認する。」
退職合意書の最後に清算条項を記載することによって、合意後に何らかの請求を受けたりすることを防ぎます。 もっとも、退職合意書を交わした時点で明らかになっていなかった残業代(割増賃金)などを請求される可能性はあるので、その場合の対策は必要です。

退職合意書に法的拘束力はある?

退職合意書は作成することを法的に義務付けられた書類ではありませんが、双方が合意し署名捺印していれば一定の法的拘束力を持ちますし、その作成行為自体が双方に自覚を促し、違反行為をしようという動機を抑止する効果を期待することができます。

また、先程の条項例の他にも、「引抜行為の禁止」や「競業避止義務」、「違約金」を定めることがありますが、とくにこれらの規定は、どこまでが法的に有効となるのか判断が難しいケースも多いので、その場合は専門家へのご相談をお勧めします。

退職合意書を拒否された場合はどうする?

退職合意書は会社を守るために作成することも多いので、従業員側から退職合意書を拒否されることもあります。退職合意書は強制的に書かせるものではないので、拒否されたら無理に説得して書かせることのないようにしましょう。

もし社員が拒否したにもかかわらず、無理やり書かせてしまったら、自由な意思による文書ではないとして効力が否定される結果にもなります。このような事態を避けるためにも、退職合意書を拒否された場合は従業員にプレッシャーを与えず、専門家にその後の対応を相談するとよいでしょう。

話し合いの折り合いがつかない!

退職合意書を拒否されないための対処法

従業員が退職合意書を拒否する理由としては、会社にいいように利用されている、あるいは協力しても自分自身のメリットを見出せないと感じるからということが多いです。
そういう場合には、従業員に対して退職合意書を結ぶメリットを伝えることで交渉を進めてみることをおすすめします。
例えば、先程ご紹介した「退職時の金銭交付」で満足のいく解決金を払うなど、会社として精一杯の誠意を示すことで従業員の気持ちを動かすことができる場合もあります。くれぐれもプレッシャーはかけずに、歩み寄って双方の納得する合意を目指す姿勢が大切です。

退職合意書は弁護士に相談した方がいいのか

労使問題は法律が関係する専門領域でもあり、早い段階で専門家に相談することで、問題をこじらせずに済むことが期待できます。会社を経営していく上で労使問題はつきものですが、問題が複雑化する前に正しく対処することでトラブルを回避することができます。

波戸岡弁護士のコメント

私は企業の顧問弁護士として、退職合意書の作成だけではなくどのように従業員と交渉を進めるべきかというアドバイスもしています。最初は頑なに退職合意書を拒否していた従業員が、交渉次第では退職に向けて心が動くということもあります。
以下のフォームからご連絡いただきましたら、一両日中にご返信いたします。