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ビジネス現場での「空気」とコンプライアンス
現代のビジネス環境において、コンプライアンスは単なる規範を超え、企業の信頼と持続的成長を支える重要な基盤となっています。しかし、時にそのコンプライアンスの実行を妨げる見えない力が存在することも少なくありません。それが「空気」と呼ばれる、暗黙のルールや前提です。
ビジネスパーソンにとっても馴染み深いであろう「空気」が、どのように企業文化に影響を及ぼし、コンプライアンスに影響するのか。
今回は社会心理学の視点を用いて、その「空気」について掘り下げ、健全な組織づくりのためのヒントを探ります。
本記事は、書籍『「超」入門・空気の研究』(鈴木博毅著)の知見を参考にしています。
目次
空気とは?ビジネスにおける暗黙の圧力
「空気」とは、言葉にされずとも漂う集団のルールや前提を指します。これは、「こうするのが普通」「この場ではこうするものだ」といった、言語化されない合意のようなものです。例えば、長時間労働を暗に是認する企業文化がある場合、社員は暗黙のうちにその「空気」に従い、自己犠牲を強いられることがあります。このような「空気」は、組織において時に必要とされる一方で、問題がある場合もあります。それが集団圧力や同調圧力へと変化し、個人の判断を制限し、結果的にコンプライアンス違反のリスクを増大させる可能性があるのです。
空気と同調行動:なぜ人は流れに逆らえないのか?
社会心理学では、集団内での行動や考え方を共有することを「同調」と呼びます。同調行動はビジネスの現場でもよく見られます。例えば、上司が「これは当たり前」としている行動に対し、部下が疑問を持っていても空気」を感じてそれに従う、あるいは自分の意見を抑え込むことが多いのです。
この同調行動には、個々が判断力を失いやすくなる危険が伴います。アッシュの実験(1951年)で知られるように、たとえ誤った意見であっても、周りがそれを是認することで個人の意見が抑え込まれる現象があるのです。この集団心理は、企業内「空気」が支配的になる場合、たとえ不正や違法行為が発生しても、誰も異議を唱えない状況を生む要因になり得ます。
空気が作り出すコンプライアンスリスク
職場での「空気」によって生まれるコンプライアンスリスクについて考えてみましょう。たとえば、営業成績を至上とする企業文化では、目標達成が絶対とされる「空気」が形成されがちです。この状況下で、社員が成果を出すために極端な行動を取り、時には不正を働いてでも目標を達成しようとするケースが生まれます。こうした空気の存在が、組織全体のコンプライアンス遵守への障害となるのです。
さらに、職場でのハラスメントが発生する背景にも「空気」が影響を与えています。例えば、「長年の慣習だから」とか「上司がそうしているから」という空気のもとで、誰もそれを疑問視しないままに放置されるケースがあります。これにより、ハラスメントが助長され、信頼が損なわれるリスクが生じます。
空気を打破するための4つのアプローチ
このように、空気が企業文化や行動に強い影響を与えることを理解した上で、空気に流されずに健全なコンプライアンスを確保するためにはどうすれば良いでしょうか。冒頭で紹介した書籍では、「空気」を打破するための4つのアプローチが示されています。
1. 絶対化せずに相対化する
第一に、組織の「空気」を相対化する姿勢を持つことが重要です。これは、空気が前提としている価値や考え方を疑問視し、その正当性を見直すことを意味します。例えば、「この会社では昔からこうしているから」という理由だけで従うのではなく、「本当にこれが最善策なのか?」と問いかけることが求められます。このような視点が、業務の改善や不正防止につながる一歩となります。
2. 閉鎖された劇場のドアを開ける
「空気」が最も強く作用するのは、外部の視線が遮断された閉鎖的な空間であることが多いです。これを社会心理学では「閉鎖された劇場」に例えることができます。例えば、特定の部門でのみ行われている慣習が他部門には知られていない場合、その慣習が問題であっても見過ごされがちです。この状況を打破するためには、業務内容をオープンにし、「もし外部に知られても問題ないか?」と考えることが必要です。透明性を高めることで、空気が凝り固まるリスクを軽減できます。
3. 空気を断ち切る新しい視点を持つ
過去の延長線上で考えると、固定観念や「空気」が強化されてしまうことが少なくありません。そのため、「新しい視点を持つ」というアプローチが有効です。例えば、「もし新しいCEOがやってきたら、この方針を変えるだろうか?」といった問いを投げかけ、既存の空気にとらわれず新たな発想を取り入れることが大切です。このように未来志向の視点を取り入れることで、柔軟で健全な企業文化が育まれます。
4. 最も譲れない原点に立ち返る
最も重要なのは、企業や個人が「譲れない原点」を持つことです。この「根本主義(ファンダメンタリズム)」の姿勢は、外部の空気に流されず、核心となる価値観に基づいた判断を行うことを助けます。たとえば、企業の「顧客満足第一」という理念があるならば、その理念に沿って行動し続けることが空気に流されないための道標となります。
具体例:空気を無視して健全な行動をとる
次に、空気を超えて健全な判断をした実例を見てみましょう。ある企業では、業界全体で厳しいノルマが設定されていました。社員たちは、この目標を達成するために不正行為を行うことが当たり前という「空気」があったのです。しかし、ある社員がこの空気を無視し、不正をせずに目標を達成する方法を模索し、最終的に成功しました。このような事例からも、空気に逆らってでも本来の目的を達成しようとすることが、結果的に信頼を得る要素となることがわかります。
また、ある企業では、ハラスメント防止のため、全従業員に対して定期的に意識調査を行い、閉鎖的な文化が作られる前に外部の意見を取り入れる仕組みを構築しました。このように、「空気」を壊すための仕組みを意識的に作ることで、健全な企業文化の醸成に貢献できます。
空気に左右されない健全な企業文化の構築
「空気」を感じ取り、集団に溶け込むことは組織で働く上である程度必要なスキルです。しかし、それに流されすぎてしまうと、コンプライアンスに反する行動が正当化されやすくなり、最終的に企業の信頼を損なうことにつながります。組織の「空気」は、時に無意識のうちに私たちの行動や判断に影響を与え、コンプライアンス違反のリスクを高める要因となります。
しかし、社会心理学の視点を活用し、「空気」を相対化したり、外部の視点を取り入れるなどのアプローチを行うことで、その圧力に流されない健全な企業文化を育むことが可能です。「譲れない原点を持ち、空気に左右されない判断をする姿勢」が、長期的な信頼と持続的な成長を支える大きな力となるでしょう。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
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弁護士 波戸岡光太
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