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「見て見ぬふり」はこうして起こる-コンプライアンス違反を防ぐための心理的アプローチ-
現代のビジネス環境では、コンプライアンス(法令遵守)の重要性が増しています。しかし、現場では「誰かが対応してくれるだろう」という心理が働き、コンプライアンス違反に対して行動を起こす人が少ないことが課題です。これは、周囲に多くの人がいることで誰もが「自分がやらなくても他の誰かが何とかしてくれる」と考え、結果的に何も行動を起こさない現象で、社会心理学では「傍観者効果」として知られています。では、どうすればこの傍観者効果を克服し、コンプライアンス違反を防ぐことができるのでしょうか?社会心理学の「援助行動モデル」に基づいて、その解決策を考えてみましょう。
目次
傍観者効果:なぜ誰も行動しないのか?
傍観者効果は、特に多くの人が関わる場面で発生しやすい心理現象です。たとえば、街中で誰かが困っているとき、周囲に人が多ければ多いほど「誰かが助けるだろう」と考えてしまうため、結局誰も助けないままになってしまうことがあります。ビジネスの場面でも同様で、周囲に同僚や上司がいることで「自分が対応しなくても誰かが対処するだろう」と思い込み、コンプライアンス違反が見逃されることがあります。このような傍観者効果がなぜ発生するのかを理解することが、対策を考える第一歩となります。
傍観者効果を生む3つの心理的な原因
傍観者効果が発生する背景には、次の3つの心理的な要因があるとされています。
1. 多元的無知
多元的無知とは、実際には誰もが「この状況はまずいのでは」と思っていても、周囲が冷静に見えるために「自分だけがそう思っているのかも」と考え、その結果として何も行動を起こさない現象です。たとえば、会議で誰かが誤った発言をしても、他の誰も指摘しない場合、自分も「大丈夫なのかもしれない」と思い込んでしまいます。こうして、誰も行動を起こさないまま、問題が放置されてしまうことが起こり得ます。
2. 評価懸念
評価懸念とは、「行動を起こしたときに、それが間違いだったら恥ずかしい」と考え、行動をためらってしまう心理です。ビジネスの場面では特に他人の評価が気になるため、たとえばコンプライアンス違反に気づいても「大げさだと思われるかも」と考えてしまい、指摘するのをためらうことがあります。この評価懸念が行動のハードルを高め、結果的に誰も声を上げないという状況を生んでしまいます。
3. 責任の分散
責任の分散とは、「多くの人がいるから、誰かがやってくれるだろう」という心理が働くことです。たとえば、プロジェクトの中で問題が発生しても、チームメンバーが多ければ多いほど、誰もが「自分が言わなくても他の誰かが気づいているはずだ」と思いがちです。その結果、責任が分散され、結局誰も行動を起こさないままになるのです。
援助行動モデル:行動を起こすための5つのステップ
傍観者効果を克服し、コンプライアンス違反を未然に防ぐためには、社員一人ひとりが行動を起こせるような心理的プロセスを整えることが必要です。ここで役立つのが、社会心理学で提唱される「援助行動モデル」です。このモデルでは、行動を起こすための5つのステップが示されています。
ステップ1:異常事態に気づく
まず、周囲で何か異常が起きていることに気づく必要があります。たとえば、普段と違う行動や不自然なやり取りが目に入ったときに、それが「何か問題があるのでは」と感じられることが第一歩です。このためには、社員が日常の業務で何が正常かをよく理解しておくことが重要です。
ステップ2:緊急事態だと判断する
次に、気づいた異常が「緊急の対応が必要な状況だ」と判断できるかどうかがポイントです。ここで多元的無知に陥ると、「周りも何も言っていないから、問題ないのかも」と思い込み、行動を起こさなくなってしまいます。この段階では、社内でのケーススタディや具体的な事例を共有するすることで、「これは緊急事態だ」と判断しやすくする工夫が役立ちます。
ステップ3:個人的な責任を感じる
「誰かがやってくれる」と他人に頼らず、「自分が責任を持って対応する」という気持ちを持つことが必要です。責任の分散を防ぐためには、社員一人ひとりが「自分もその一員」と感じられる環境を作ることが大切です。たとえば、定期的にコンプライアンス研修を行い、具体的な報告ルートを示すことで、個々の社員が「自分が対応すべきだ」と感じやすくなります。
ステップ4:何をすべきか理解する
緊急事態に直面したとき、具体的にどのような対応を取るべきかを知らなければ、行動に移ることは難しくなります。報告や相談の手順を明確にし、全員がそれを理解していることで、異常を発見した社員が適切に行動を起こしやすくなります。具体的には、事前にガイドラインを配布したり、社内ポータルで手順を周知するなどの取り組みが有効です。
ステップ5:援助行動を起こすと決断する
最後に、周囲の評価を気にすることなく行動を起こす決断をすることが必要です。評価懸念を乗り越えるためには、コンプライアンス違反の指摘が「責任ある行動」として評価される風土を作ることが大切です。例えば、指摘した人が高く評価されるような社内文化を醸成することで、評価懸念が軽減され、行動を起こしやすくなります。
まとめ:傍観者効果の克服が健全な職場をつくる
職場におけるコンプライアンス違反を防ぐには、単にルールを作るだけでなく、社員が「自分が行動を起こすべきだ」と思える仕組みを整えることが重要です。傍観者効果がもたらす問題を理解し、援助行動モデルに基づいて行動しやすい環境を整えることで、企業全体のコンプライアンス意識を高め、持続的に健全な職場環境を保つことができます。
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