信念への共感が心をつかむ from『すごい傾聴』(良書から学ぶ経営のヒント)

「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』第8回、ご紹介するのは『すごい傾聴』(小倉広)です。

傾聴力は相手との信頼関係の構築や問題解決において重要な役割を果たしてくれるコミュニケーションスキルのひとつです。相手の話に真剣に耳を傾け、言葉だけでなく表情やしぐさなどの非言語のものも注意深くとらえ、相手の感情や意図を理解しようとする力です。
カウンセリングや臨床心理の仕事では必須のスキルですが、それにとどまらず、人間関係をよくしたいと望む人にとっては非常に重要なコミュニケーションスキルであり、ビジネスパーソンにも多いに注目されています。今回の書籍『すごい傾聴』では「傾聴とは何か」を改めて考えていきたいと思います。

傾聴力を高める4つのステップ

傾聴には「壁になろう」「エピソードを聞こう」「感情に共感せよ」「信念価値観に共感せよ」の4つのステップがあります。4つのステップと具体的なスキルについて見ていきましょう。

【ステップ1:壁になろう】

まずは、相手の壁打ち相手になること。そのための主なポイントは7つ。
① 温泉呼吸法で心を静めよう
聞き手である自分の心を落ち着かせることが大前提です。血圧や心拍数など私たちの意図とは関係なく機能する自律神経をコントロールできる唯一の方法は「呼吸」です。「は~」と温泉につかったときに吐くような呼吸をして、心をリラックスさせましょう。

② 話題をふるときは具体的に
「何か質問はある?」と聞かれて言葉に詰まってしまう人がいるように、話題をふるときには相手が言葉を紡ぎやすいように具体的な投げかけを心がけましょう。たとえば「この1ヵ月間はどうでしたか?」「これからの1ヵ月何をしたいですか?」と聞かれると、「そういえば…」と相手の話がつながっていきます。相手の「そういえば」を引き出すことが大切です。

③ 「悲しかったんですね」「嬉しかったんですね」と伝えよう
子どもがケガをしたときに、親が「痛かったね」と伝えるように、相手の感情を言葉にして伝えてあげます。そうすることで、「自分はこの場で感情を表現してもいいんだ」ということが相手に伝わります。

④ スタンプ的相槌を増やそう
話を聞く際に相槌を打つのは基本ですが、その際に相槌がワンパターンにならないようLINEやSNSスタンプのようにバラエティーに富んだ相槌を打ちます。相槌のバリエーションを用意しておく必要がありますね。

⑤ 「それで」「続けてください」「もう少し詳しく教えてください」で話を促そう
「それで?」「なるほど、それから?」と話者に次を促せる会話を述語的会話と言います。無理に質問を考えたり作り出す必要はありません。このような「次を聞きたい」という働きかけをすることで、話者は自然体のままに、自由に話を広げたり深めたりできるようになります。

⑥ 「曖昧言葉」の意味を確認しよう
「上手くいくよう頑張ります」とか「みんなで協力します」といったふんわりとした言葉がでてきたら、その意味を確認してみましょう。
私たちは、ものごとを話すときに、必ずしも理解してから表現しているとは限りません。むしろ話していく中で、次第に自分の考えがクリアになっていくことがあります。「体験⇒表現⇒理解」という体験過程です。この体験過程を経ると、話した後で、「あぁ、私が言いたかったことは、それです」などと、話者自身が理解を創造することが起きます。
そのためには、相手の「曖昧言葉」を放置せずに尋ねていくことが大切な役割を果たします。

⑦ レポートをエピソードに転換しよう
私たちは「AゆえにB、だからC」などと理屈で考えがちです。つい論理的右脳(レポート)になりがちです。でも傾聴の時は、まずは何があったのかと、実際に起きたり経験したことをエピソードとして聞いていきます。「ぱっと思い浮かぶエピソードを教えてください」など、印象的なエピソードをぜひという聞き方などをすると、話が弾みます。

【ステップ2:エピソードを聞こう】

エピソードを聞く際には、主に3つのポイントを押さえましょう。
① 「いつ、どこで、誰が」の3Wで聞こう
聞き方を学習したことがある方は、5Wで聞くことが基本形だと教えてもらったがあるでしょう。しかし、5Wの中の「なぜ」は、実は傾聴にとって曲者です。「なぜ」と聞かれて瞬間、人は論理的思考をはじめてしまうため、せっかくエピソードを聞いていたのにも関わらず、レポート的会話に逆戻りしてしまうのです。傾聴の際には3W、あるいは「何を」を含めた4Wで十分です。

② 自己内対話を聞こう
「そのとき、どう思いましたか?」と聞くのは要注意です。「どう思ったか」と聞かれた瞬間に脳は考え出し、避けたいはずの論理的右脳(レポート)を発動させてしまいます。そうではなく、「そのとき、あなたは心の中でなんとつぶやいて(叫んで)いましたか」と、実際におきた心の声を聞いてみてください。傾聴では、自己内対話を聞くことが大切です。

③ 相手の体験を追体験し「個別化」しよう
共感は傾聴に欠くことができないスキルですが、その際気を付けたいのが「わかります。私も同じ体験ありましたから」と自分の体験を話し出したり、「みんなそうですよ」と相手の体験を一般化たりしてしまうことです。
あくまでも「私もその立場だったら、つらい気持ちになります」と相手の経験を追体験し、あなたの経験を「個別化」することで、この人は本当に自分の立場になって考えてくれるんだと思ってもらえるのです。

【ステップ3:感情に共感しよう】

ステップ3は、話者の感情にも共感を示していくことです。主なポイントは2つ。
① 「暗黙の感情」を言語化しよう
相手の中にある暗黙の感情を感じ取り、推測し言語化します。「もしかして、〇〇という感情を感じられたのでしょうか」と確認し、話者自身もはっきりと認識していない感情を言語化する作業です。「じーんとした」「ひんやりした」「ほんわかした」など感覚を表す言葉が出てきたら、感情に近づいているシグナルです。

② 共感しにくい「攻撃性」への対処法
ネガティブなことを言うなど共感しにくい人への対処法を身に着けておくことも必要です。攻撃的発言やネガティブな発言はコーピングといって、自己防衛のための対処行動ととらえることができます。話者が攻撃的な発言をしたら、「自分を守ろうとしているんだな」「恐れている、守りたいものがあるんだな」ととらえて、自分への攻撃ではないと冷静になりましょう。

【ステップ4:信念価値観に共感しよう】

最後のステップは話者がどういう価値観にもとづいているのかを理解し共感するスキルです。
① 信念価値観に共感しよう
信念や価値観は会話の中に隠れています。例えば「変わりたくない」「このままがいい」と言う言葉にも、その人の価値観が現れています。話者が変わりたくないと言ってきたときには「これまで先輩たちから受け継いだものを大切にしているんですね」と奥にある価値観にフォーカスし言語化してみましょう。「自分は理解されている」と感じてもらうことができるでしょう。

② 「話してみてどうでしたか」と聞こう
最後に「話してみてどうでしたか」と話者からフィードバックをもらうことを忘れずに。話者が感想を述べることで、さらに深い気づきとなることがあります。

本書で傾聴のステップをたどってみると、現在の人間関係や課題に照らし合わせて実際に使えていると思えるスキル、今後取り入れてみたいと思えるスキルなど見つけられるのではないでしょうか。
経営は人間関係がすべてと言っても過言ではありません。経営者は常に高いコミュニケーション力を常に求められるものであり、傾聴は欠くことができないスキルと言えるでしょう。傾聴は深いと改めて感じさせられる一冊、経営へのヒントとなってくれます。

【良書からこの視点】
「私があなたの立場だったら」と相手の経験の追体験して、感情と価値観に共感しよう。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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