準備ができれば話し上手の道が開ける from『世界のトップリーダーが話す1分前にまでにおこなっていること』(良書から学ぶ経営のヒント)

「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』第8回、ご紹介するのは『世界のトップリーダーが話す1分前にまでにおこなっていること-口下手な人が伝わる人に変わる心理メソッド43-』(矢野香)です。

経営者の方は、従業員や取引相手、経営者の集まりなど、人の前に立って話す機会が多いと思います。ときには講演やセミナーなどで登壇することもあるかもしれません。
人の前に出て話すことは、たとえ少人数であったとしても緊張感を伴うものです。人前に立つと話す内容が飛んでしまう、おどおどした話し方になる、異常に早口になってしまうなど、自分は口下手だと思われている方も多くいらっしゃいます。

そんな人のために、つまり、少しでも緊張を和らげたい、話し上手になりたいとい思う方におすすめするのが、『世界のトップリーダーが話す1分前にまでにおこなっていること-口下手な人が伝わる人に変わる心理メソッド43-』です。
本書では、人を引き付けるスピーチができるようになる、今すぐに取り入れられる、話し方の秘訣が詰まっています。豊富な秘訣が盛りだくさんで、ここでは全部はお伝えしきれませんが、私が印象に残ったものの中から、これは経営者に役立つ!というものを選りすぐってお伝えします。

「なぜ私は話すのか」最初に立てる3つの問い

伝えたいことが聞き手に伝わる話し方ができるようになるためには、3つの視点を定めておくとよいでしょう。3つの問いを自分自身に問いかけて、話すための骨子をつくりましょう。

① 目的は何かを問う
話し終わったときに、聞き手をどういう状態にしたいか(目的)を考えてから話します。自分の主張を理解させたいのか、賛同を得たいのか、行動を促したいのか、自分の目的はどこにあるのかを自分自身に問いかけてみます。

② メインメッセージは何かを問う
自分が一番伝えたいことは何なのかを端的に表せるようにしましょう。日本語13文字程度、5秒ほどで伝えたいことが伝わるように表現してみます。「服のチカラを社会のチカラに(ユニクロ)」「お値段以上ニトリ(ニトリ)」などのように、キャッチコピーを考えてみるといいですね。

③ あなたは誰なのかを問う
どんな自分として人前で話したいのか、と考えてみます。「大勢の人を前にしても、堂々と話せる自分」として話したければ、その自分を設定して演じるのです。本当は緊張している自分がいても、緊張しない自分をセルフ・パペット (身代わり)として設定し演じてみましょう。「わかりやすく伝える人」「影響力を持つリーダー」、自分の描くセルフ・パペットはどんな人物でしょうか。

準備するべき「5つのこと」

話す前の準備ができるかで、スピーチのできが決まると言っても過言ではありません。簡単に取り入れられる5つの準備をご紹介します。

① イメージ・リハーサル法
五感を使ってビジュアライゼーション(可視化)してみましょう。スポーツ選手は上手くイメージトレーニングを取り入れて結果を出している話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。精緻にイメージすることは、実際に身体を動かしてトレーニングするのと、脳内では同じ神経が使われるので、実際に身体を動かしてトレーニングするのに近い効果が得られます。スピーチ当日の朝起きたときのコーヒーの香り、会場への道すがらの日の光や鳥の声、檀上にあがる仕草、終わった際の拍手の音など、嗅覚や聴覚も使ったイメージをし、成功するまでの精密なリハーサルをしてみましょう。

② アファメーション
「私は、みんなをその気にさせることが上手な〇〇です」など、肯定的に自己宣言をすることも有効です。自分で自分に肯定的な暗示をかけてあげましょう。

③ 皮肉過程理論
「失敗しないように」「緊張しないように」と強く思うほど、皮肉なことにその事態を招いてしまうことがあります。「〇〇しないように」と思うのではなく、緊張はするものだという前提に立ち「緊張したらゆっくりしゃべろう」など、自分なりの対処法を持っておくようにします。

④ 自己決定論
直面する物事に対してモチベーションが高い状態でいられるかは、結果を大きく左右します。モチベーションが高い、やる気がある、という状態でいるには「自分で選んでこの場にいる」「自分でこの事態を選んでいる」と自己決定感を持つことが重要です。

モチベーションには6つの段階があると言われており、以下の1から6に向かうほどモチベーションが高い状態となります。

1.「させられている」やる気がない
2.怒られるからする
3.失敗したくないから頑張る
4.自分にとって必要だと感じるからする
5.もっとうまくなりたいと努力する
6.楽しくてどんどん進める

6段階をひとつずつステップアップさせ自己決定感を高めると、「自分で決めたことだからやろう」「成功したいからから努力しよう」と、行動の量と質が向上し、よい結果が生まれるのです。

⑤ パワーポーズ
一人になれる場所で2分間、足を開き、腕を伸ばし、体を広げる姿勢をとってみましょう。まさに「形から入る」です。形から入ることには、やる気に深くかかわるホルモンであるドーパミンを活性化させる働きがあります。力強く開放的なポースをとることで、緊張が和らぎ前向きな気持ちがみなぎってきます。

さあ、ここまで自分の内面の準備ができたら、聞き手の方たちの環境も整えていきましょう。例えば、会場には温かい飲み物や座り心地のよい椅子を用意するなど、聴講者の方がほっとする心配りをします。配布する資料も紙の質をよくする、バインダーに収めるなど資料に重みをもたせると聞き手のやる気を高めることができるでしょう。タイムキーパーなど、スタッフを充実させておくことも、自分も聞き手も安心感につながります。

「つかみはOK!」にする魔法

いざ講演が始まるぞというときには、初頭効果が大事になってきます。舞台に登場した最初の段階で聞き手の心をこちらに向かせることができれば、そのままの流れで進めることができ、スピーチの成功は約束されたようなもの。聴講者に安心感や好意を最初の段階で与えるための非言語のスキル、言語スキルそれぞれ3つのポイントを押さえましょう。

〈非言語スキル(重厚感の法則)〉
① 背筋を伸ばしてゆっくり歩き、重厚感を出す。
② 靴音を響かせる。
③ 人前に立った際には、堂々と前を見て5秒間沈黙の時間をつくる。

〈言語スキル〉
① 感謝を伝える(好意の返報性)
② もれなくダブりなく声がけ
③ 皆さんではなく「あなた」
会場、オンライン、受講してくださった全員にもれなく声をかけ、その際「みなさん」ではなく「あなた」と声がけで、受講への感謝の意を「ありがとう」と伝えていきましょう。

その際、やってはいけないことも意識しておきます。腕組をする、顔や髪、ポケットなど無意識な自己接触は不安やストレスを軽減させる行為ですが、見ている人へ不快感を与えかねません。自己接触をしてしまうという人は、最初からペンなど手に何かもっておくなどの対処法をとるようにしましょう。

また、言葉が詰まった際につい「あのー」「えーと」などフィラーワードが出てしまう方は、しゃべった後につど口を閉じることが効果的です。
さらに過剰敬語にも気を付けましょう。「お話しさせていただきたいと思います」ではなく、「お話しします」でよいのです。聞いている方にとってすっきりと気持ちよく聞こえる敬語を使えるようにしたいですね。

トラブル発生⁈ 本番中の立て直し方

会場の空気が乗ってこない、スライドが動かないなど予期せぬトラブルが生じた際、「どうしよう」という焦りと不安、緊張がないまぜになって襲ってくることがあります。そんなとき、どのように場を立て直せばよいか、見ていきましょう。

① 問いかけをする
会場が微妙な沈黙の空気になったときには、「ここまでよろしいでしょうか」と聞き手に問いかけ、場の空気を変えます。

② 実況中継をする
スライドがうまく動かなくて焦ってきたというときには「あれ、すみません」と焦った状態を伝えるのではなく、実況中継をするようにします。「スライドが動きませんね」「手動で動かしてみましょうか」というように、解決方法を探している自分の状況をそのまま伝えてみましょう。

③ 自己開示をする
緊張したり頭が真っ白になったりしたら、正直に話してしまって構いません。
「じつはこのことをお話しするのは初めてなのです。ですが、今日は○○のためにお伝えします。」などという話し方をすることで、その場だけの特別感が生じ、聞いている人との親密度がアップします。

講演本番の場面での成功スキルだけでなく、講演に入るにあたっての準備、心構えまで心理学的内容も盛り込まれて書かれている点が本書の見どころです。どれもが取り入れやすい具体的なスキルなので、自分に合った方法を見つけられるのはないでしょうか。全部インストールしなければと身構えず、いくつかでもヒントとしていただければ嬉しいです。

【良書からこの視点】
・伝わる話し方は、脳と心の準備しだい
・心の準備を丹念にするほど、話し上手になれる

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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弁護士 波戸岡光太
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