コンテンツビジネスを革新し続けた江戸時代の刷新者 from『蔦重の教え』『蔦屋重三郎50のメッセージ』

「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』第11回、ご紹介するのは『蔦重の教え』『蔦屋重三郎50のメッセージ』(車浮代)です。

大河ドラマ「べらぼう」のモデルとなった蔦屋重三郎は、江戸時代中期から後期にかけて活動した版元(出版業)を始めた人物です。北尾重政、喜多川歌麿、葛飾北斎など、江戸時代文化の中心人物となる作家や浮世絵師の作品刊行に携わり、化政文化隆盛の一翼を担いました。

江戸時代において版元は、文化を生み出し、発信をする唯一のメディア。蔦屋重三郎は若くしてひとり版元を立ち上げ、斬新なアイデアと手法を駆使して化政文化のスターを多く輩出しました。その手法は現代に通じるものがあり、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた人物と言われています。
200年前のメディア王「蔦重」こと蔦屋重三郎が生み出した、現代にも通じる出版のビジネスモデルとは何か、それを成し遂げた蔦重の力とは何なのか、本書から見ていきましょう。

出版業界に新機軸を打ち出した3つの力

蔦重がなぜ、傑出した出版業者になっていけたのか、その秘訣は蔦重の突出した3つの力にあります。

1.力があるけれど、くすぶっている人を引き上げるプロデュース力
2.すでに有名な人たちとつながる人脈力
3.徹底的なユーザー視点で、面白いものを追求する演出力

蔦重は1783年(天明3年)、33歳のときに日本橋の通油町に版元を興しました。版元としては後発組の若造がひとりで興した出版社が、業界をリードする存在となったのは、蔦重の類まれな商才に起因しています。

才能が埋もれそうな作家の作品をどのように世間の話題にするか、どういう売り込み方をすれば人は振り向くのか、類まれなプロデュース力を発揮して、次々と人気作家や人気浮世絵師を誕生させました。喜多川歌麿デビューの際にはあえて名前を伏せ、すでに名を馳せていた北尾重政のバーターとして売りだしたことで、「これは誰だ」と周囲をざわつかせて話題にし、一躍歌麿を時の人に仕立て上げたのです。今でも使われる妙手は江戸時代、蔦重がはじめたものでした。

遊女や浮世絵師、発明家などさまざまな人脈を築いたことでも有名な蔦重。江戸のダ・ヴィンチと呼ばれるほどの天才発明家の平賀源内や、一流浮世絵師の北尾重政など大物とも親交を深め、力ある人間の協力を得られたことも、版元が知られていく起爆剤となりました。

大物との交友を深めながら、一方で市井の人に溶け込み、大衆の声を収集することにも余念がありませんでした。業界に革新をもたらすコンテンツを次々と生み出せたのは、常にユーザーからの視点から面白さを探求していたからに他なりません。

現代に通じるビジネスモデルを確立

コンテンツビジネス革新を起こし続けた蔦重が3つの力をどのように発揮していたのか、蔦重が日頃から意識的に行っていたことを見ていきましょう。

1.付加価値を高める
蔦重は付加価値を高めることに力を発揮しました。例えば、今でいうガイドブックであった『吉原細見』の内容を見直し、無用の情報と判断した部分は半分にして、浮いた費用で美しい絵柄のついた封筒を作りました。すると、それまで細見には目もくれなかった江戸っ子たちも綺麗な封筒欲しさに細見を買うようになったのです。付録目当てに消費者を呼び込むビジネスモデルの先駆けです。

2.一流の人間のブランド力を使う
さらに蔦重は細見の序文を、時の人であった平賀源内に書かせました。すでに大物であった平賀源内が並みいる版元を差し置いて、新参者の蔦重の依頼を引き受けてくれたのは、蔦重の類まれな人脈力の賜物です。武家や富裕な町人、人気役者、人気戯作者、人気絵師のネットワークを縦横無尽に広げて、大物とつながる力を発揮し、話題に事欠かない出版社を作り上げていきました。

3.情報収集は怠らない
世間の評判は常に耳にいれておきたい蔦重は、出かける先々でできるだけいろいろな街の銭湯に行くようにしていたそうです。裸の付き合いの中で出てくる言葉は、貴重な市井の声でした。

4.相手に期待をかける
出会った人には「何ができるか」と問いかけて実現していくのができる経営者の特徴です。蔦重もまさにそのような人物であり、出会った人とのチャンスをものにしていく力に長けていました。蔦重は出会った人に「君は何ができる?」と聞くことで、相手に「できる」という期待をかけ、相手に「期待に応えたい」と思わせることで、人との出会いを次のビジネスにつなげていきました。

5.気の合わない人間ほど、丁寧に接する
私たちは人と交流する際に、付き合う人を選んでいます。この人は付き合ってはいけない人だと意識的に避ける場合と、自分と馬が合わないと無意識のうちに避ける場合があるでしょう。
ビジネスにおいて、悪徳なビジネスをしている人間とはもちろん付き合わない方がいいですが、単に自分と合わないという理由だけで人との縁を断ち切らない方がいいときがあります。好き嫌いで無意識のうちに避けてしまうことは、チャンスを失うことにもなるからです。
たとえ話が弾まなくても、「自分にはないものをもっている人だな」と思うこと、ありますよね。
蔦重はたとえ自分と気が合わなくても、その人の向こう側に縁がつながる人、ビジネスチャンスとなる人がいる可能性があるとして、気が合わない人ほど丁寧に付き合いをしました。武士や裕福な町民、作家や狂歌師、人気役者、人気戯作者、人気絵師など、様々なジャンルの人間と繋がれた蔦重であるからこそ、江戸の世にコンテンツビジネスの革新をもたらすことができたのです。

6.断わりはすぐに入れる
断わりの返事こそ、先延ばしにせずに即返事をすることが重要であると蔦重は考えていました。「検討します」と回答を引き延ばし、間をおいて断わられると、相手は自分が何かの後回しにされたと気分を悪くしてしまうものです。蔦重は人の心理をよく理解し、人付き合いに活かしていたのです。

7.人脈を生かし、口コミを使う
「喜多川歌麿が書いたモンは、くれちまったよ」と本来なら客人に売るべき絵をタダであげてしまうことがよくあったそうです。絵をもらった客人たちがどこかで、「こんないい絵を描くやつがいる」と、絵をみせびらかして宣伝してくれれば、売る以上の価値となることがわかっていた蔦重は、口コミの宣伝効果をみごとに使いこなしたのでした。
書籍の第1章分をネット無料配信するなど、損して得とれの手法は近年の出版業界でも浸透している方法ですが、江戸の時代にすでにその方法を見出していたとはあっぱれです。

8.半歩先をいくために資金をつくる
蔦重は、世間の視点も常に意識していました。経営者にとっては一歩先を掴んだ事業展開が必須ですが、「一歩先」はあくまでも先陣を切っていく人間に必要な視点であり、世間には遠すぎて追いつくことができないものです。このことを蔦重は十分に理解していました。
市井の人を楽しませるために必要なのは一歩先でなく「半歩先」を示すことだとして、ワクワクするちょうどよい視座を提示し続けたのです。
しかし、半歩先に世間が追い付いてくるまでには時間が必要でした。その時間を版元が耐え抜くための資金をつくろうと、蔦重が自分の快楽のためにお金を使うことはなかったと言われています。

まとめ

蔦屋重三郎が江戸時代の出版業界を刷新しつづけたのは、自分の好きな仕事で人の役に立ちたい、版元という仕事で人を驚かせ、喜ばせることができたらそれが一番の喜びだという思いが強くあったからです。
本は「志ある人間が修養として読むもの」という立ち位置にとどめずに、字が読めない人であっても楽しめるものにするために、次々と新しいアイデアで本に付加価値を付け、新たなスターを発掘しては大衆の力を利用して認知を広めと、出版業界に革新をもたらしていきました。「富士山のてっぺんから裾野に向かって、だんだんと雪消層がおりてくるみたいに出版の可能性をもっと広げたい」という壮大な夢を実現し続けたのです。

現代のビジネスに通じる手法を江戸時代にすでに実現していた蔦重の人生から、経営のヒントを受け取ることができる一冊です。

【良書からこの視点】
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