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「コントロールできる」リスクもある~リスクマネジメント入門~
経営において、リスクマネジメントは「万が一に備えて」という次元の話ではおさまりません。いまや「いつ起きるか分からない何か」ではなく、「いずれ必ず起きる何か」として考えるべきです。
多くの企業が、火災、地震、サイバー攻撃、人的ミス、法令違反など、多様なリスクに日々さらされています。
では、リスクマネジメントとは何をすることなのでしょうか?それは単なる危機回避ではなく、「被害を最小限にとどめ、事業を継続させる力」を養うことです。
今回は、数あるリスク対策のうち、コントロールできるリスクについて考えていきます。
目次
リスクは「前・中・後」で考える
リスクコントロールは、大きく3つの段階に分けて考えることができます。
- 事前対応(予防・準備)
- 緊急時対応(初動)
- 事後対応(復旧・再発防止)
たとえば、火災リスクについて考えてみましょう。
どれか一つだけで完璧になることはありません。3段階すべての「つながり」が大切です。
事例に学ぶ:乳業大手の食中毒事件
ある大手食品メーカーでは、停電の影響で原材料に細菌が繁殖し、殺菌処理が不十分なまま商品が出荷されるという事件がありました。結果的に数多くの有症者が発生。対応の遅れや経営陣の不適切な発言も重なり、企業ブランドは壊滅的な打撃を受けました。
この事件からわかるのは、「1つのリスクが他のリスクを連鎖的に呼び込む」構造です。
たとえば:
こうした一連の流れは、「リスクチェーン」と呼ばれ、どこか一つでも断ち切ることができていれば、最悪の結果は回避できたかもしれません。
リスクの目標は「0件」じゃなくていい
「事故0件」「不祥事ゼロ」―こういった目標を掲げる企業は少なくありません。そして「ゼロ」が理想であることも間違いありません。
しかし、完璧すぎる目標はかえって逆効果になることもある、ということを知っておきましょう。
たとえば、現場の従業員が「事故を報告すると評価が下がる」と思えば、報告自体がなされなくなり、かえって問題が隠蔽されてしまいます。リスクマネジメントでは、現実的かつ段階的な目標設定が肝要です。
例)
「目標があるからこそ、対策が活きる」のです。
事例に学ぶ:ECサイトがサイバー攻撃を受けた ― リスクチェーンで考える
あるアパレル系の中小企業B社は、自社のECサイトを活用し、順調に売上を伸ばしていました。ところがある日、サーバーが外部からのサイバー攻撃を受け、顧客の個人情報が漏洩してしまいます。クレジットカード情報が流出した可能性があったため、会社は緊急でサイトを停止。謝罪対応や情報提供に追われたうえ、SNS上では批判の声が相次ぎ、企業イメージと売上の両面で大きな損失を被りました。
このような出来事は、単発の不運で起こるものではなく、いくつかの要因が連鎖して最悪の結果へと至る「リスクチェーン」の形をとることが多いのです。
まず最初の要素は、「環境」です。B社が事業を展開していたのは、ECサイトの活用が当たり前になった時代です。便利な一方で、サイバー攻撃のリスクも急増しており、企業は「狙われる前提」でセキュリティ対策を考える必要がある状況でした。
次に、「環境要因」です。B社のサーバーには、セキュリティパッチの更新が遅れていたことがありました。また、社内に専門の情報セキュリティ担当者がおらず、危機感もそれほど高くなかったという背景もありました。これは、リスク発生の可能性を高める土壌になっていたといえます。
続いて、「損失対象」は、顧客の個人情報やクレジットカード情報、そして企業そのものの信用です。これらが失われたことで、B社のブランドイメージにも深刻なダメージが生じました。
さらに、「損失発生機会」が問題を一気に現実化させました。サーバーへの攻撃をリアルタイムで検知する仕組みがなかったため、被害を早期に食い止めることができなかったのです。
その結果、「直接的結果」として顧客情報の流出、サイト停止による売上損失が発生します。さらに、取引先や顧客への対応に時間と労力がかかり、本来の業務に支障が出ることになりました。
さらに深刻なのが「間接的結果」です。SNSやメディアでこの問題が拡散され、企業の対応のまずさも指摘される中で、既存顧客の信頼を失い、新規顧客の獲得も困難になるという、長期的な損失に発展していったのです。
このように、サイバー攻撃という一つの事象であっても、その背後には複数のリスク要因が連動しており、どこか一つでも事前に断ち切ることができていれば、結果は変わっていたかもしれません。
たとえば、セキュリティの専門家を外部委託で起用していたり、情報漏洩を想定した訓練や方針を準備していれば、被害の広がりはもっと抑えられた可能性があります。
リスクチェーンの考え方は、そうした「どこで連鎖を断てるか」を見極める視点を与えてくれます。中小企業であっても、もはや無関係ではいられないリスク。できる備えから一歩ずつ着手することが、企業の未来を守る第一歩となるのです。
まとめ:リスクは「怖いもの」ではなく「管理できるもの」
リスクマネジメントというと、「怖い話」「ネガティブな話」と思われがちですが、実際は「事業を守るための前向きな工夫」です。
完璧を求めるのではなく、「どこで損失の連鎖を止められるか」を意識しながら、現実的な目標を定め、具体的な手を打つ。それが、信頼される経営、強い組織づくりへの第一歩です。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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弁護士 波戸岡光太
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