リスクマネジメントの評価と改善~「対策したつもり」では危ない~

企業を経営していると、「リスク」という言葉を避けて通ることはできません。自然災害、情報漏えい、従業員の不正、法令違反、サプライチェーンの混乱…。どんなに小さなリスクでも、放っておけば会社の屋台骨を揺るがしかねません。
ですが、リスクマネジメントは決して特別な専門家だけが行うものではありません。どんな企業でも、できる範囲から始められる日常業務の一部なのです。

「対策したつもり」が一番危ない

たとえば、ある企業が「顧客情報の漏えいを防ぐ」ために、パソコンのUSB端子を使えなくするという対策をとったとします。表面的にはセキュリティ対策をしているように見えますが、それだけでは不十分です。
実際の現場では、
– 一部のパソコンだけが対象外になっていた
– ログ管理の仕組みが整っていなかった
– 対策を導入したことで業務が遅れ、不満が出ていた
といったことが起きていました。
対策は立てるだけでは意味がない。ちゃんと機能しているか、現場で問題が起きていないか、効果が出ているか――それをチェックしなければ、「やったつもり」で終わってしまうのです。

「モニタリングと評価」が命綱

経済産業省のガイドラインでも強調されているのが、「モニタリングと評価」です。つまり、立てた対策が実行されているか、そして効果があるかを定期的にチェックすること。
評価のポイントは主に次の2つです。

  1. リスク対策がきちんと実行されているか?(パフォーマンス評価)
    → USB無効設定は完了しているか、社員教育は全員に行き届いているかなど。
  2. リスク対策は効果があったか?(有効性の評価)
    → 顧客情報の漏えいは減ったのか、社員のセキュリティ意識は高まったのか。

この2つの評価を通して、「形だけの対策」を本当のリスク軽減策に育てていくことができます。

失敗してもいい。大事なのは「改善する仕組み」

リスクマネジメントの理想は、「一度の対策ですべての問題を解決」ではありません。むしろ、何度も見直しながら徐々に良くしていくことが重要です。
対策してみたけれど効果が出なかった――そんなときは、
– 原因を分析する
– より効果的な案を考える
– 無理な案は代替案に切り替える
という改善のサイクルを回すことが大切です。これは「PDCAサイクル」の「C(チェック)」と「A(アクション)」にあたる部分。軽視されがちですが、実は最も重要なステップなのです。

リーダーの関与が成功の鍵

リスクマネジメントは、現場任せにしてはいけません。なぜなら、どこにどれだけの経営資源(時間・人・お金)を投入するかは、経営者の判断が必要だからです。
また、部門同士でリスク対策の方針がぶつかることもあります。たとえば営業部は顧客情報をもっと活用したい、一方で法務部は漏えいリスクを恐れて制限をかけたい。最終的に方向性を決めるのは、トップマネジメントの責任です。

「リスクマネジメント監査」って難しく聞こえるけど…

「監査」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、要は「現場でちゃんと対策が実行されているかどうかをチェックする」こと。定期的に行い、チェックリストなどを用いながら評価するだけでも十分です。
内部監査部門がある企業はそこに任せてもよいですし、小規模な企業であれば、マネジメント層が自らチェックしてもかまいません。

おわりに

リスクマネジメントは、一度マニュアルを作って終わりではありません。常に動かし、見直し、改善していくことでこそ機能するものです。
大切なのは「完璧」を目指すことではなく、まずはできるところから始めてみること。そして、現場と経営陣が一体となって、「うちの会社にとって何がリスクで、どう向き合うべきか?」を考え続ける姿勢です。
このように、リスクマネジメントは決して難解なものではなく、日々の業務改善や経営判断の延長にあります。今日からでも、あなたの会社に取り入れられることがきっとあるはずです。

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