心理的安全性からはじまる、『最強チームをつくる方法』

会議が終わったあと、メンバーが黙ったまま席を立っていく。誰も反対しないが、誰も納得していない——そんな空気を感じたことはないでしょうか。表面的には協調しているように見えて、内心は距離がある。実はこれ、「優秀な個人」が集まったチームによくある光景です。

最強チームをつくる方法』(ダニエル・コイル)では、成果を出すチームに共通する「3つのスキル」が紹介されています。その要となるのが、心理的安全性、弱さの共有、共通の目標。どれも、特別な才能よりも、日々のちょっとした「ふるまい」に根ざしています。

1. 「ここは安全な場所だ」という小さなシグナルの積み重ね

成果を出すチームの土台には、心理的安全性があります。これは、遠回しの指示や励ましではなく、「あなたの話を聴いている」というメッセージを小さな行動で届けられるかにかかっています。

たとえば、ミーティングでメンバーが意見を言いづらそうにしていたら、「きみならどう思う?」と簡単な質問をして発言を促す。そのとき、相手の答えを熱心に聞くこと。気の利いた言葉はいりません。目を見て、うなずき、「それはどういう意味?」「もっと話してくれるかな?」と続けていく

これらの行動は、すべて「ここは安全な場所だ」「私たちはつながっている」といった帰属のシグナルにつながっています。

【帰属を伝える3つのシグナル】

1.あなたはチームの一員である。
2.このチームは特別であり、高いレベルが期待されている。
3.あなたにはそのレベルに到達する力があると信じている。

これを日常的に“出し続ける”ことがリーダーの役割です。特別なスピーチよりも、小さな行動が決め手になるのです。

実践事例:会議でのちょっとした変化

製造業の現場マネージャーが、定例会議で「最近話していない人の意見も聞きたい」と笑顔で声をかけただけで、発言が広がり、会議の雰囲気が一変したといいます。穏やかな態度で場の緊張を和らげるという基本に立ち返ったことで、「この場は安全」という感覚が共有されました。

2. 弱点も欠点もさらけ出す、それが信頼になる

成果を出すチームには、「弱さを共有する」文化があります。これは、「自分が正しい」と主張するのではなく、他の提案を歓迎し、自分の欠点も隠さない姿勢によって成り立ちます。

コイルは「トランポリンのように聞く」という比喩を使っています。相手の言葉をそのまま受け止めるのではなく、優しく質問しながら、思い込みを揺さぶり、別の可能性に目を向けさせる。つまり、跳ね返すのではなく、相手がより高く飛べるように支える姿勢です。

実践事例:上司が“わからない”を伝えることで生まれた信頼

IT企業の部長が、新人との1on1で「私も判断に迷っているところがあってね」と正直に話したところ、新人も「実は私も…」と素直な気持ちを語り始めました。「自分のことを気にかけてくれている人がいる」という安心感が、信頼を育んだのです。

3. 共通の目標を“繰り返し”言葉にする勇気

リーダーは、「気持ちは通じているはず」と思いがちですが、実は全く通じていません。だからこそ、会社の価値観や目的を定期的に確認しあう必要があるのです。

コイルは、習熟が必要な分野と、創造性が必要な分野を見極め、それぞれに応じた方向づけをすることを提案しています。ただ単に「目標を共有する」だけでなく、その目標がどう現場に関係しているかを明確に伝えることが重要です。

実践事例:月初会議での「価値観の再確認」

ベンチャー企業では、毎月の全体会議の冒頭で、社長が「今月、私たちが一番大切にしたい価値観」について語る時間を設けています。それにより、社員一人ひとりが迷ったときに「この方針に照らしてどう判断すべきか」と考えられるようになってきました。「通じていない」という前提に立つことが、むしろ信頼を生むのです。

チェックリスト|最強チームを育てる10のふるまい

スキル 行動例
心理的安全性 □ 穏やかな態度で、相手の緊張を和らげているか?
□ 他の人の発言を促す質問をしているか?
□ 目を見て、相づちや問いかけをしているか?
弱さの共有 □ 自分の弱点や迷いを率直に伝えているか?
□ 相手のアイデアを歓迎しているか?
□ トランポリンのように、相手の思考を支えているか?
共通の目標 □ 定期的に目的や価値観を伝え直しているか?
□ 現場の課題に応じた目標の語り直しをしているか?
□ メンバーの納得度をモニターしているか?

結び:小さなふるまいが、チームの文化をつくる

『最強チームをつくる方法』の本質は、「大きな理想を語る」ことではありません。むしろ、日々のふるまいにこそ、信頼と文化の種が宿るというシンプルな真理です。

1.積極的に話すより、相手の話を聴くこと
2.正しさを主張するより、一緒に考えること
3.一度伝えて満足せず、繰り返し語り続けること

こうした行動が、「あなたはチームの一員だ」と伝える力を持っています。最強のチームは、静かに、着実に、日々のふるまいの中から育っていくのです。

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