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『和解する脳』が教えてくれる大切なこと
あなたは、誰かとぶつかったとき、どうやって乗り越えていますか?
感情がこじれた場面で、冷静に話し合おうとしても、うまくいかない──そんな経験は誰にでもあるはずです。特に、ビジネスや交渉の現場では、感情と理屈が複雑に絡み合い、簡単に「和解」できないこともしばしば。
そんな時に読みたいのが鈴木仁志氏(弁護士)と池谷裕二氏(脳研究者)の共著『和解する脳』。対立や紛争を乗り越えるために、脳科学の知見をどのように活かすかをやさしく、かつ実践的に解き明かした一冊です。
人間の脳は、「理屈」ではなく、まず「感情」で反応する。 この前提に立ち、怒りや不満、すれ違いの本質を、脳の構造から丁寧に読み解いていく本書は、交渉や人間関係で悩むすべての人にとってのヒント集です。
目次
ビジネスの現場に潜む“脳のクセ”
トラブルが起きたとき、人は理屈で解決しようとしがちです。でも現実には、「何を言っても聞く耳を持ってもらえない」「冷静な話し合いにならない」という場面は少なくありません。
なぜこんなすれ違いが起きるのか――その答えは、人間の脳のつくりそのものにあります。
脳は、アイスクリームのように3層構造になっていて、深い部分から順に「脳幹」「大脳辺縁系」「大脳皮質」と重なっています。
- 脳幹は、生きるための本能を司る部分。呼吸、心拍、食欲、性欲、闘争本能などを制御します。
- 大脳辺縁系は感情を司り、恐れ・怒り・喜び・悲しみといった「情動」の中心です。
- 大脳皮質がようやく「理屈」「論理」「計画」といった人間らしさを担います。
ポイントはここ。感情は、理屈よりも先に立ち上がるのです。どれだけ正しい話をしても、相手の感情が不快なままでは、その理屈は脳の表層まで届きません。
「怒り」や「不公平感」は、脳のSOS信号
では、ビジネス上の対立で生まれる不快情動とはどんなものでしょうか。本書では主に3つのパターンが紹介されています。
① 闘争本能からくる怒り・攻撃性
強い怒りのとき、人は攻撃性PAGと呼ばれる神経領域が活性化し、顔の表情すら硬直します。そのときに言われたことは、内容がどうであれ「嫌な記憶」として脳に刻み込まれます。
つまり、カッとなっているときに言われた理屈は、すべて「嫌な理屈」になる。これは上司部下のやりとりでも、顧客対応でも同じです。
② 自尊心を傷つけられたとき
人間関係において、人は関係欲求と自己価値の承認を強く求めています。それが満たされないと、防衛機制が働き、「自分を守るために相手を否定する」という行動に出てしまいます。
これは理屈ではありません。自分の心のバランスを保つための反応であり、誰もが持つ脳の働きなのです。
③ 「不公正」に対する強い拒絶反応
「ずるい」「フェアじゃない」という思いもまた、人の脳に強烈な不快感をもたらします。人は互恵的利他性、つまり「助け合いながら生き残ってきた種」なので、「裏切り」や「一方的な搾取」には極端に敏感なのです。
しかも、不公正感には「内容の不公平」と「手続きの不公平」という2つがあります。内容だけでなく、「どう決まったか」「説明があったか」にも人は深く反応します。
感情を「快」に変えてから理屈へ
ここまでくると、ビジネスでの紛争や対立は「脳の構造を前提にしない限り、解決は難しい」ということが見えてきます。
だからこそ必要なのが、「和解する脳」。それは、理屈で勝とうとする脳ではありません。まず相手の不快情動をやわらげ、そこに快のきっかけを与えたうえで、理を届ける順番を知る脳です。
たとえば、
「一度冷静になってから、また一緒に考えませんか」
「あなたの意見、きちんと聞かせてください」
というひと言が、相手の脳の“戦闘モード”を解き、理屈を受け入れる余白を生みます。これは単なるテクニックではなく、脳の仕組みにかなった戦略的対話です。
直感とひらめきは「戦っている脳」からは生まれない
また、「直感」や「ひらめき」も、実はこうした“和解した状態の脳”でこそ発揮されます。
・直感は、理由は分からないけれど正しい判断。これは、脳幹レベルでの過去の経験や訓練によるもの。
・ひらめきは、理由が分かり、しかも正しい答え。これは、大脳皮質が働いているときに訪れる。
怒りや対立で感情が暴走しているとき、大脳皮質は働きにくくなり、創造的な判断もパフォーマンスもすべて落ちるのです。
お金にも“理屈が通じない”ワケある
さらに本書は、「お金」というテーマにも切り込んでいます。
・お金は特定の快との結びつきを持たず、いろんな快に置き換えられるため、脳にとって非常に扱いにくい。
・人間の欲求抑制システムは、お金に対してはうまく働かない。
・脳が進化してきた長い歴史から見ても、お金が登場したのは“12月31日の夜10時ごろ”くらいの超最近。
つまり、人の脳はまだお金に対応しきれていない。それゆえ、合理的な意思決定がしにくくなっているのです。経営判断や投資判断の際には、この“脳のバイアス”を知っておくことが、むしろ武器になります。
「和解する脳」を企業の中に育てるには
部下指導、取引先との交渉、経営判断――
どれも「脳のクセ」を知り、「感情→快→理屈」の順番を意識することが鍵です。
理詰めの時代は終わりました。
これからは、感情を理解し、うまく扱える人がリーダーとして信頼されていく時代です。
そして、そのカギを握るのが「和解する脳」です。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
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弁護士 波戸岡光太
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