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優秀なチームが陥る「盲点」-『多様性の科学』が示す突破の条件-
「優秀なはずの私たちが、なぜ失敗するのか?」
あなたの職場では、こんなことが起きていませんか?
・経験豊富なメンバーばかりなのに、新しい発想が出てこない
・会議での意見が、いつも誰かの発言に同調する流れになる
・外部の変化に気づくのが、いつも一歩遅れる
それは、「多様性の欠如」が引き起こす集団の“盲目性”かもしれません。
マシュー・サイド著『多様性の科学』(原題:Rebel Ideas)は、「優秀な人が集まるほど、視野が狭くなる」という逆説を軸に、今の時代の組織に突きつけられた課題を浮き彫りにする一冊です。
目次
なぜ“能力の高い集団”が失敗するのか
代表的な失敗例として、本書では9.11テロを防げなかったCIAの意思決定を取り上げています。CIAには当時、ハーバードやイエール出身の白人男性エリートが数多く在籍していました。しかし、彼らは共通の思考パターン、価値観、世界観に縛られており、アルカイダのような存在を「理解不能な連中」として無意識に切り捨てていたのです。
つまり、「優秀な人たち」で構成された組織であっても、視点の偏り=認知的な均質性によって、大きな盲点が生まれてしまいます。能力のみでなく、多様性が重要である、そのことを、“能力 × 多様性 = 集合知”という数式で示したのが本書の核心です。
これは、企業の経営会議でもまったく同じことが起こり得ます。似た経歴・似たポジション・似た価値観の人たちで会議をすると、違和感を覚える発言は避けられ、「合意形成」が妙にスムーズになってしまう。しかし、それは本当に「正しい方向性」でしょうか?
多様性とは、“見た目の違い”ではない
本書で強調されているのは、「多様性=ダイバーシティ」は、見た目の属性(性別、人種、年齢など)以上に、“認知的多様性”=ものの見方や問題の捉え方の違いが重要だということです。
この認知的多様性によって、ある人には見えなかったリスクや機会が、別の人には明確に見えてきます。サイドはこの意味での多様性が現代の複雑な問題に立ち向かううえで欠かせないものだと語ります。
企業のイノベーション部門やR&Dでは、あえて「異業種からの人材登用」や「部門横断型チーム編成」が推奨されるようになっていますが、それはこの集合知の重要性が少しずつ認知されてきた証拠ともいえます。
チームに潜む「沈黙の圧力」
ここで、ある悲劇的な実例を紹介しましょう。
1996年、エベレストで起きた大規模な登山隊の遭難事故。
隊には経験豊富な登山家やガイドが揃っており、天候も読みながら慎重に進めていたにもかかわらず、多くの命が失われました。
原因のひとつは、「進言できない空気」でした。
現場には「そろそろ引き返すべきでは」と思っていたメンバーもいました。しかし、カリスマ的リーダーが「もう少し行ける」と判断していたため、誰も異を唱えられなかったのです。
この構造は、航空事故や医療現場、そして企業内のプロジェクトでも繰り返されます。「間違っているかもしれない」と思っていても、心理的安全性がなければ、人は沈黙を選ぶのです。
今、求められるのは「尊敬型リーダー」
では、どうすれば人は自由に意見を出し、多様な視点が集まる組織になるのか?
サイドが提唱するのは、「支配型」から「尊敬型」へのリーダーシップの転換です。
尊敬型リーダーとは、自らの判断を押し付けるのではなく、部下の意見に耳を傾け、異論を歓迎し、対話の場をつくる存在です。
そして、そうしたリーダーのもとでは、「正しいかどうか」ではなく「見落としはないか?」という観点で意見が交わされ、結果として判断の質が高まります。
現代の不確実なビジネス環境では、トップダウンの即断即決よりも、ボトムアップでの情報集約と合意形成の力こそが生き残りの鍵なのです。
「つながりすぎた世界」の落とし穴
SNSやオンラインサロンなど、今の時代は多様な人とつながれるはずです。
しかし現実には、多くの人が自分と似た考えの人とだけつながり、エコーチェンバー現象に陥っています。
同じ意見ばかりがタイムラインに流れ、異なる意見は「フェイクニュース」扱いされる。このような世界では、いくらつながっていても視野はどんどん狭くなっていくばかりです。
ビジネスパーソンこそ、意識的に異なる声に触れ、違和感を歓迎し、時に“対話のストレス”を自ら受け入れる姿勢が求められます。
結び:チームに「異質さの居場所」を
あなたのチームに、「少数派の声」や「意見がズレた人」はいますか?
そして、その人が「安心して意見を言える空気」はありますか?
多様性とは、単なるスローガンではありません。“成果を出すために必要な構造”そのものです。
複雑な世界を生き抜く今、必要なのは「優秀な人」ではなく、「違う見方を持ち寄れる集団」です。
本書『多様性の科学』は、そんな現代の組織に対して、実践的かつ根源的な問いを投げかけてくれます。
「多様性は、成果の源になる」――その確信をもって、人とチームを再構築してみませんか。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
2024年12月、本を出版いたしました。
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本書では、経営者に寄り添う弁護士が身につけるべきコミュニケーションのヒントを数多く解説しています。
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弁護士 波戸岡光太
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