それ、本当に「対話」ですか?-『ダイアローグ』から学ぶ実践知ー

仕事の場に必要なのは、説得ではなく“学び合う対話”かもしれない。

会議での議論が、いつも「勝ち負け」の空気に支配されていないでしょうか?
同僚との意見のすれ違いで、気まずい雰囲気になってしまうことは?
リーダーの言葉に誰も反論せず、静まり返るチームに違和感を抱いたことは?

そんなあなたにこそ読んでいただきたいのが、熊平美香さんの著書『ダイアローグ』です。
この本は、「対話」という行為の本質を見直し、人と人が深くつながり、新しい価値を生み出すための思考と実践の技術を教えてくれます。ここで紹介されるのは、単なるコミュニケーションスキルではなく、“人のあり方”を変える手法でもあります。

以下では、そのエッセンスをもとに、現代のビジネス環境における「対話」の意味と実践方法を、順を追って考えていきます。

「議論」と「対話」の違い─勝つことよりも、変わること

私たちが日常でよく行っている「話し合い」は、じつはその多くが“議論”です。
議論とは、自分の意見を変えずに、相手を説得しようとする行為。そこでは「正しさ」が重視され、「驚き」や「違和感」は排除されがちです。

一方で、“対話”とはまったく異なるプロセスです。対話では、主張は変わっていいもの。むしろ、相手の言葉に耳を傾け、自分の枠を超えていくことが歓迎されるのです。違和感は拒否すべきものではなく、新しい視点を得るチャンスとして大切にされます。

たとえば、ある経営会議で若手社員が「この予算案は時代遅れに感じます」と発言したとします。議論であれば、「何が時代遅れなのか証拠を出せ」となるかもしれません。でも対話であれば、「そう感じた背景には、どんな経験や価値観があるのか」を聴こうとするのです。

対話を支える5つの「基礎力」

『ダイアローグ』は、対話を実現するために必要な5つの「対話の基礎力」を提唱しています。どれも、ビジネスの現場で即使える技術ばかりです。

メタ認知─自分の思考や感情を、一段上から見る力

対話では、他人を知る前に「自分を知る力」が求められます。
たとえば、ある発言にカチンときたとき、「それはおかしい!」と反応するのではなく、「自分はいま“おかしい”と感じている」と気づくことがメタ認知です。

この意識があることで、反射的な言葉の衝突を避け、冷静なやり取りが可能になります。感情に巻き込まれず、一歩引いて自分を見る視点が、対話の第一歩となるのです。

評価判断の保留─“自分の正しさ”を一時停止する勇気

「それは違うと思います」と言いたくなったときこそ、一拍置くことが必要です。
たとえ自分の意見があっても、それを脇に置き、まず相手の言葉に耳を澄ます。これは、自分を否定することではありません。“違う価値観が存在している”という事実を受け入れることです。

たとえば、新しい営業施策について後輩が提案してきたとき。「それは無理だよ」ではなく、「その発想の背景には何があるんだろう?」と聴けるかどうかが鍵です。

傾聴─言葉の奥にある「背景」を探る

「なんでそんなこと言うの?」と問い詰める代わりに、
「どんな経験がそれを言わせたのか?」「どんな感情があるのか?」を探る姿勢。これが真の傾聴です。

対話においては、言葉の内容そのものよりも、その背後にある文脈やストーリーが重要です。
たとえば、クレーム対応の現場で「こんな対応ありえない!」と怒る顧客がいたとします。そこで「マニュアル通りにやってます」と答えるのではなく、「どんなご経験から、そう感じられたのでしょうか?」と聴くことで、関係の質はまったく変わってきます。

学習と変容─「自分も変わる」ことを恐れない

対話は、ただの情報交換ではなく、相互変容のプロセスです。
つまり、話すことで自分の考え方や価値観にも変化が起きる。その変化を喜び、言葉にしていくことが、学びを定着させます。

たとえば、メンバーとの対話を通じて「自分は相手の成長を信じる姿勢が足りなかった」と気づいたとき、それを言葉にすることで、チーム全体の信頼感も高まります。

リアルタイム・リフレクション─“今の自分”を見つめ続ける習慣

話しながら、「自分はいま、どう感じているか?」「この反応はどこから来ているのか?」とリアルタイムで自分を内省する力。これは、熟練の対話者に共通する特性です。

会議中に、突然イラっとした。そのとき、「相手の言い方が悪い」と切り捨てるのではなく、「自分のどんな期待が裏切られたのか?」と振り返ることで、感情に振り回されることが少なくなります。

対話が企業文化を変える

対話の力は、個人の変化にとどまりません。組織文化そのものを変えていく力を持っています。
「意見を言っても無駄」「どうせ上が決める」という空気が蔓延する職場では、創造性やイノベーションは生まれません。

しかし、安心して違う意見を出せる環境=対話的な文化があれば、そこには“違い”が資源となり、学びの土壌が広がります。

おわりに─“聴く”というリーダーシップ

ビジネスで成果を出すリーダーとは、「聴く力のある人」です。
正論を述べるよりも、問いを立て、対話を起こし、メンバーの変化と共に自らも変わっていく。その姿勢こそが、これからの時代に求められるリーダー像ではないでしょうか。

『ダイアローグ』は、そんなリーダーシップの根幹にある哲学を、やさしく、しかし深く教えてくれる一冊です。
“違い”に出会ったときこそ、自分を広げるチャンス──。その瞬間を逃さずに、生きた対話を重ねていきましょう。

 

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