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人の行動は変えられるのか?─『人と組織の行動科学』が教えてくれる職場の処方箋
あなたの職場では、次のような悩みはありませんか?
「面接で人を見抜けない…」
「部下にもっと寄り添いたいのに、忙しさに流されてしまう…」
「人事評価への不満が噴出している…」
「部下にもっと主体的に動いてほしいけれど、どうすれば?」
こうした“あるある”な課題に対し、属人的な経験談や感覚的なアドバイスで終わらせるのではなく、科学的なアプローチで向き合っていくのが本書『人と組織の行動科学』のスタイルです。
筆者・伊藤洋駆氏は、「行動科学」というレンズを通して、なぜ人はそう動くのか? どうすれば変えられるのか?に実証的な答えを提示しています。
以下では、本書で紹介された重要な処方箋のなかから4つを、ビジネスの現場に役立つかたちで掘り下げていきます。
目次
1. 面接で人を見抜きたい──その「直感」は通用するか?
面接で候補者の本質を見抜く──これは人事担当者だけでなく、現場のマネージャーにとっても共通の課題です。
しかし残念ながら、研究によれば「嘘を見抜く力」は思っているほど当てにならないことが分かっています。
候補者は多かれ少なかれ「印象管理」を行います。これは「自分をよく見せたい」という、ごく自然な行動です。
- 正直な印象管理:長所を強調する、話し方を工夫する
- フェイキング:事実を歪めたり、嘘を交えたりする
ところが実験の結果、面接官は正直な印象管理とフェイキングの区別ができないことが判明しています。経験の差も関係ありません。
👉現場でできる工夫は?
答えは、「見抜こうとするのではなく、演じる余地を減らすこと」。
たとえば、面接冒頭でこう伝えるのです。
「私たちはこの3点を特に重視しています。それ以外のアピールは不要です。入社後にその点が弱いと、仕事で苦労するからです。」
このように明確な評価基準を開示すれば、候補者が無駄に“印象操作”をしようとする動機が減ります。また、採用側も必要なポイントに集中できます。
2. 忙しいマネージャーでも、部下の支援はできる?
上司が多忙だと、「何もサポートしてもらえない」と感じる部下が出てきます。しかし、ポイントは“支援の実態”より“支援されていると部下が感じているか”です。
上司によるサポートには、以下の2種類があるとされています。
- 道具的支援:業務遂行に直接関係する支援(例:リソースの提供、アドバイス)
- 情緒的支援:感情面のケア(例:共感、ねぎらい)
さらに大切なのは「共有されたリアリティ」。これは、お互いが同じような体験をし、それを共有できているという感覚です。これが信頼関係の土台になります。
👉現場でできる工夫は?
- 日報や1on1で、自分の葛藤や課題も少しだけオープンにする
- 「自分も昔、同じ失敗をしたよ」と話すことで、部下との距離が縮まる
- 部下の支援行動を、評価制度に組み込む
“気持ちの余裕がないからこそ、支援の仕組みを制度化”することで、マネージャー自身をも支える環境が生まれます。
3. 評価への不満を減らすには「プロセスの納得感」が鍵
「評価の結果に納得できない」という声は、どの組織でもつきものです。
このとき、重要なのは結果そのもの(給料や昇進)よりも、評価プロセスがフェアだと感じられるかです。
行動科学では、評価の「公正さ(フェアネス)」を次の3つに分類しています。
- 分配的公正:結果が妥当だと感じられること
- 手続的公正:評価プロセスが公正で、自分も関与できたと感じること
- 相互作用的公正:評価者とのコミュニケーションが誠実で丁寧なこと
👉現場でできる工夫は?
興味深いのは、「②手続的公正が高ければ、たとえ①の結果に不満があっても、納得感は得られる」という研究結果です。
つまり:
- 評価に対する事前説明や目標設定の合意
- 定期的なフィードバックの機会
- 説明責任を果たす対話
こうした「関与感」と「透明性」が、公正感を高めます。たとえ成果が芳しくなくても、プロセスが公正であれば人は受け入れやすいのです。
4. 指示待ちの社員を“自走型”にする方法
「もっと自発的に動いてほしい」「指示がないと動けない人が多い」──こうした声は、多くのマネージャーから聞こえてきます。
その解決策として、注目されているのが「職務自己効力感」。これは、「自分はこの仕事で成果を出せる」という自信であり、主体的な行動のエンジンになります。
この感覚は、次の4つの要素によって高まります。
- 小さな成功体験:任せた仕事で達成感を得させる
- 代理経験:ロールモデルとなる他者を見て、自分にもできそうと思う
- 言語的説得:励ましの言葉(「君ならできる」「期待されてるよ」)
- 情動喚起:やる気やワクワク感を引き出す環境(例:顧客の喜びを共有)
ちなみに、これに加えて、役割が曖昧だと自己効力感は下がるという点にも注意が必要です。誰が何を担っているのか、どこまで裁量があるのかを明確にすることが、行動変容の第一歩です。
行動科学は「対人の悩み」に効く“武器”になる
本書は、どれも「ありふれた悩み」に真正面から応える処方箋ばかりです。
その根底にあるのは、「人の行動には再現性がある」という信念。感覚ではなく、データや実験から導かれた知見をもとに、現場のコミュニケーションや評価のやり方を見直してみようという提案です。
多忙で不確実性の高い今だからこそ、属人的な対応ではなく、「科学的にうまくいく方法」を味方につけたいものです。
その第一歩として、本書にある行動科学の処方箋は、非常に実用的なヒントになるはずです。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
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弁護士 波戸岡光太
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