「動かす」のではなく「動き出す」を支える力―『ソーシャル・ファシリテーション』という視点-

あなたは最近、誰かの「動き出す瞬間」に立ち会ったことはありますか?

部下が新しいチャレンジに一歩踏み出すとき、部署間の壁を越えてコラボレーションが生まれたとき、あるいは社内プロジェクトが「誰かの想い」をきっかけに再始動したとき――。

その背後には、目立たずとも確かに存在する「促進者(ファシリテーター)」の存在があります。彼らの役割は、命令したり管理したりすることではありません。関係を編み、問いを投げかけ、言葉にならない想いをすくい取る。

本稿では、徳田太郎氏・鈴木まり子氏の著書『ソーシャル・ファシリテーション』をもとに、こうした関係と行為を「促す」技術と姿勢について紐解いていきます。

ソーシャル・ファシリテーションとは何か?

徳田氏が定義する「ソーシャル・ファシリテーション」とは、複数の人々が関わる関係性や共同行為に対して、支援・促進を行うこと。いわば「人と人のつながりに、よい流れを生み出す後押し」といえるでしょう。

これは単なる会議の進行や、プロジェクト管理を指すものではありません。個人・組織・企画・事業といった多層的な次元で、場の力を活かす働きかけが求められます。

① 組織に働きかける力:つながりを仕掛ける

最初のアプローチは、組織に対する働きかけです。ここでは以下の2つの技法が紹介されます。

  • ネゴシエーション(交渉)
    → 異なる団体やセクターに対して「ネットワークへの参加」を促し、広がりを作る。
  • コーディネーション(調整)
    → 組織同士が互いに協働できるよう、関係の橋渡しを行う。

たとえば社外パートナーとの連携プロジェクトで、「相手にどう声をかけるか」「共通目的をどう提示するか」といった部分に、ソーシャル・ファシリテーションの視点が必要になります。

自分の組織の都合だけを押し通す交渉は、協働ではありません。
共通の地平を見出し、互いの立場を理解することから“本当の協働”が始まります。

② 個人に働きかける力:その人を「立たせる」

次は、個人との対話や支援におけるファシリテーションです。

  • コーチング
    → 相手の目標達成を支援するため、問いかけを用いて思考を促す。
  • メンタリング
    → 不安や悩みに対し、人生の先輩として寄り添い、助言を送る。

コーチングはビジネスシーンでも広く使われていますが、徳田氏の文脈では、「答えを与える」のではなく、「本人が答えに辿り着ける場を整える」ことが強調されます。

またメンタリングは、単に「人生訓を語る」のではなく、信頼の上に成り立つ共感と承認のプロセス。人は“認められた”と感じることで、ようやく前を向いて動き出すことができるのです。

③ 企画に働きかける力:意味をデザインする

続いては、具体的な活動や企画そのものへの働きかけです。

  • プロデュース
    → コンセプトを明確にし、最適なプログラム構成を考える。
  • ファシリテーション(狭義)
    → 話し合いを活性化させ、共通の結論や理解に至るプロセスを支援する。

プロジェクトの立ち上げ期に、「なぜこの活動をやるのか」が曖昧なままだと、チームはすぐに揺らぎます。ここで重要なのは、全体を見渡しながら、一人ひとりの声を構造化してまとめる力です。

意味をデザインし、場を整え、人を巻き込む。
これがソーシャル・ファシリテーションの“実践の場”での役割です。

④ 事業全体に働きかける力:理念と運営をつなぐ

最後は、組織や事業全体への働きかけです。

  • リーダーシップ
    → メンバーに対して「理念」を思い出すよう促し、動機づけを行う。
  • マネジメント
    → 資源、時間、人的配置を含めた事業全体の運営を行う。

ここで徳田氏が強調するのが、「ファシリテーション型リーダーシップ」というスタイルです。

これは、トップダウンで引っ張るのではなく、「理念の共有」「対話の場づくり」「参加の仕掛け」によって人々の自発性を引き出すリーダー像
現代のビジネスでは、こうした“問いかけるリーダー”が、チームの創造性と行動力を同時に引き出していくのです。

ソーシャル・ファシリテーションが組織にもたらすもの

企業において、ファシリテーター型の人材はときに裏方に回りがちです。しかし本書が伝えるのは、「動かす」のではなく「動き出す」を支える力こそが、組織変革の真の起点になるということ。

  • サイロ化した部署間をつなぐ
  • チームメンバーの意欲を引き出す
  • 目標と現場感覚をつなげる
  • 組織内の多様性を力に変える

こうした実践には、ソーシャル・ファシリテーションの視点と技術が欠かせません。

終わりに:あなたは、誰の背中をそっと押しますか?

人が動き出す瞬間には、いつも小さな「支え」や「問いかけ」が存在します。

それは派手ではないかもしれません。けれど、そうした働きかけが「場の流れ」を変え、「関係性の未来」をつくります。

あなたは、誰の背中を、そっと押せる人でありたいですか?

そのヒントが、この『ソーシャル・ファシリテーション』という本に詰まっています。

 

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