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あなたの「リーダー観」、アップデートされていますか?-『リーダーシップの理論』を俯瞰する-
「自分はリーダーとして、どうなのか?」
リーダーシップに“正解”はあるのか──この問いに対する答えは、時代とともに変わってきました。 石川淳氏による『リーダーシップの理論』は、その変遷を体系的に追いながら、現代に必要なリーダー像を照らし出すガイドブックです。
本稿では、その内容をふまえて、現場で使える視点や実例も交えながら、「リーダーとは何か」を考えていきます。
目次
1.特性理論 :「リーダーを探せ!」という時代の発想
リーダーシップ研究の黎明期(〜1940年代)においては、「リーダーとは、そもそもどんな人物なのか」という問いに正面から向き合うアプローチが主流でした。
その時代を象徴するのが、《特性理論》です。 この理論では、リーダーと呼ばれる人物に共通する個人的な資質や特性を明らかにしようとしました。 つまり、「優れたリーダーとはどのような人物か」「リーダーとそうでない人の違いは何か」を定義することで、適切な人物を見極め、選出し、チームの成果を高めようとしたのです。
この流れの中で登場したのが、たとえば次のような代表的な診断・分析ツールです。
- MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)
- ビッグファイブ理論(性格特性の五因子モデル)
- ストレングス・ファインダー
これらは現在でも採用されている手法ですが、特性理論そのものにはいくつかの根本的な課題がありました。
多くの特性は抽象的で曖昧であり、測定や観測が困難であること。 また、そもそも「特性だけでリーダーシップが説明できるのか?」という根本的な疑問も残りました。
このように、《特性理論》はリーダーシップ研究のスタート地点としては重要でしたが、「誰を選ぶか」だけでなく、「どう育てるか」「どんな関係性を築くか」へと、理論は次の段階へと進んでいくことになります。
2.行動理論:「リーダーは育てられる」
「どんな資質の人か」ではなく、「どんな行動を取っているか」に注目したのが行動理論です。
とくに注目されたのが、日本発のPM理論(Performance × Maintenance)です。
- P(Performance)行動:目標達成、問題解決に関するリーダーの行動
- M(Maintenance)行動:チーム内の関係維持、士気向上を目的とした行動
例えば製造業の現場では、納期厳守を求める「P重視」の係長が、一時的には成果を出すものの、チームの雰囲気がギスギスして協働性が低下。その後、「M型行動」が得意な先輩社員を巻き込むことでバランスを取り直し、成果もチームの和も取り戻したという事例があります。
リーダーの価値は、“成果を出すこと”と“人を大切にすること”の両立にある。
この気づきが、行動理論の真髄です。
3.条件適合理論:「いつも同じやり方でいいの?」
行動理論の次に登場したのが、「状況によって、リーダーの行動は変わるべきだ」という考え方。
これが条件適合理論です。
● パス・ゴール理論では、部下の能力・性格×環境により、リーダーは次の4つから最適な行動を選ぶべきとされました:
– 指示型
– 支援型
– 参加型
– 達成志向型
● SL理論(Situational Leadership Theory)では、部下の成熟度(スキルや意欲の段階)に応じて「教える・導く・支える・任せる」を使い分けます。
たとえば新規事業開発の現場では、初期フェーズの部下には「指示型」で進行ルールを定め、中盤で「参加型」に切り替えて意見を引き出す…といった段階的なリーダーシップの変化が成果に直結します。
万能のリーダー像はない。だからこそ「誰と・いつ・どこで」に応じた柔軟な判断が必要になるのです。
4.交換・交流理論:「信頼関係がすべての土台」
ここでリーダーシップ論は大きく転換します。
「そもそも人は“関係性”の中でしか動かないのではないか?」という発想が生まれました。
● LMX理論(Leader-Member Exchange)では、リーダーがすべての部下と高品質な信頼関係を築くことが理想とされます。
● 信頼性蓄積理論では、「部下からの信頼」がリーダーシップの源泉だと考えられています。
実務でもこうした理論はリアルです。
ある営業チームのマネージャーは、日頃から一人ひとりに目を配り、週1回の1on1ミーティングを欠かしません。目立った成果はなかったものの、メンバーが「この人のために頑張りたい」と思って行動し、結果として売上が前年比150%に伸びたというケースがありました。
リーダーシップは、信頼の預金残高の上にしか築けないということです。
5.変革型理論:「変える力」が問われる時代
次に登場するのが、“変革”の時代を生きるリーダー像です。
ジョン・コッターは、変革型リーダーには以下の3要素が求められると説きました:
- ビジョンの提示(方向性の明示)
- 人心の統合(共感による巻き込み)
- 動機づけと啓発(感情の点火)
例えば老舗メーカーで、新たにDXを進めようとするも、社内からの抵抗が強かったある事例。
そこでリーダーは、単に「変われ」と言うのではなく、「変わることで、どんな未来が見えるか」を具体的なストーリーとして語り続けました。
結果として、次第に若手から中堅へと巻き込みが広がり、社内文化そのものが変わり始めたのです。
変革は、戦略ではなく“人の心”から始まる。
それを体現するのが、変革型リーダーです。
6.倫理型理論:「人として信頼されるか」
近年、リーダーシップ研究は「人間性や倫理観」に重心を移しています。
背景には、企業不祥事や上司への不信感といった、社会的信頼の低下があるからです。
● サーバント・リーダーシップでは、支配ではなく“奉仕”を軸にします。
● オーセンティック・リーダーシップでは、“自分に正直”であることを重視し、倫理的判断や共感に根ざす行動が求められます。
あるベンチャー企業では、リーダーが「自分の弱さ」や「過去の失敗談」を共有することで、部下の警戒心が解け、心理的安全性が高まりました。結果として、会議での提案数が倍増し、新規アイデアの実行率が上がったといいます。
「本物の自分」として立ち現れるリーダーこそが、信頼と共創の源泉になる。
これが倫理型リーダーの特徴です。
小括:「導く力」から「活かす力」へ
『リーダーシップの理論』が示すように、現代のリーダーは次のようなシフトが求められています。
- 「個人が導く」から「集団を活かす」へ
- 「権限による支配」から「信頼による支援」へ
そして大切なのは、自分のリーダー像がどの理論のどこに位置しているのかを自覚し、必要に応じてアップデートしていくことです。
あなた自身は、どのタイプのリーダーに近いでしょうか?
そして、どのタイプのリーダーを目指すべきでしょうか?
リーダーシップは、選ばれた人の専売特許ではありません。
日々の言葉や態度、行動のひとつひとつの中に、誰もが“リーダー”になれる可能性が眠っているのです。に人間的成長が求められるという点が強調されます。
ケーススタディ:リーダーシップ理論の実務応用
ここで、各理論が実務においてどのように活用されているか、簡単なケーススタディを通じて確認してみましょう。
ケース1:行動理論 × 営業マネージャー
ある中堅IT企業の営業部門では、若手チームリーダーの業績が伸び悩んでいました。彼は目標達成への熱意(P行動)は非常に強かった一方で、チームメンバーへの配慮(M行動)が欠けていたのです。 上司のアドバイスを受け、毎週の1on1を導入し、雑談や相談の場を設けたところ、チームの士気が回復し、目標達成率も向上しました。これはPM理論に基づく行動バランスの改善による成功例です。
ケース2:条件適合理論 × プロジェクトマネジメント
新製品開発プロジェクトに配属されたあるマネージャーは、初期段階ではタスクの指示を明確に与える「指示型」で進めていました。しかし、メンバーのスキルが高まり、自主性が増すにつれて、意思決定への参加を促す「参加型」に移行。 この柔軟なスタイル変更が、チームの当事者意識を高め、短期間でのプロジェクト完遂に貢献しました。まさにSL理論やパス・ゴール理論の考え方を体現した事例です。
ケース3:変革型理論 × DX推進リーダー
老舗製造業のDX推進担当に抜擢された課長は、現場の反発に直面していました。彼は、単にツール導入を押し付けるのではなく、「デジタル化がもたらす10年後の姿」を熱量を持って語り続け、現場のキーパーソンと個別に対話を重ねていきました。 その結果、徐々に組織の意識が変わり、部門横断の改革プロジェクトが自発的に立ち上がるまでに至ったのです。これは変革型リーダーシップの典型的な成功パターンです。
ケース4:交換・交流理論 × チームの信頼構築
地方銀行の支店で新しく着任した支店長は、前任者とのスタイルの違いからチームに不安が広がっていました。着任後すぐに、彼は全メンバーとの関係構築を重視し、週次のフィードバック面談と感謝メッセージの共有を実施。 結果として半年後には、スタッフの定着率と顧客満足度が上昇し、営業成績も支店平均を上回るようになりました。これは、LMX理論に基づく信頼関係の構築が成果に結びついた例です。
ケース5:倫理型理論 × ベンチャー企業の代表
あるスタートアップの創業者は、資金調達のプレッシャーが強まる中でも「倫理的に許容できない」条件の出資はすべて断り、社員にもその理由を包み隠さず共有していました。この一貫性と透明性が、社員の信頼と誇りを高め、離職者ゼロという結果を生みました。 これは、オーセンティック・リーダーシップにおける「本物であること」「自分に正直であること」の実践によって、組織文化が安定した成功例です。
まとめ : あなたは、どの理論に立っているか?
『リーダーシップの理論』が示すように、リーダーシップの研究は時代背景とともに変化してきました。
かつては「選ばれし人物」に備わる特性を求めていたものが、やがて「どのように行動するか」へと移り、さらに「どのような状況で」「どのような関係性を築くか」へと進化し、現在では「どのように変革を起こし」「どのように信頼を集めるか」にまで広がっています。
大切なのは、自分自身のリーダー像が、今どの理論に近いかを自覚し、必要に応じてアップデートしていく姿勢です。
あなたがリーダーとして組織に与えている影響は、果たしてどの理論に基づいているでしょうか?
そして、これからどのようなリーダーでありたいと願っているでしょうか?
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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