「私たちならできる」という信念が、チームを強くする-集合的効力感-

ビジネスの現場では、個人のスキルや経験が重視されがちですが、真に成果を上げる組織には、ある共通点が存在します。それは、「このチームでならきっとやれる」という根拠ある自信を、メンバー全員が共有していることです。心理学ではこのようなチーム全体の信念を、「集合的効力感(collective efficacy)」と呼びます。

「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがありますが、ただ人数を揃えるだけでは十分ではありません。重要なのは、チーム全員が互いの力を信じ、一体感を持って目標に向かう状態をいかに築くかなのです。

集合的効力感とは何か

この概念は、スタンフォード大学の心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(self-efficacy)」を発展させたものです。自己効力感とは、「自分にはこの行動を遂行する能力がある」という感覚のことで、モチベーションや成果に直結する重要な要素です。これを集団レベルに適用したものが、「集合的効力感」です。

集合的効力感とは、チームの全メンバーが「私たちならできる」と共通して信じている状態を指します。この信念があると、目標に向かう意欲が高まり、困難な局面にも粘り強く取り組むことができます。

たとえば、甲子園で無名の公立高校が強豪校を次々に破っていく姿や、ワールドカップで下馬評を覆して活躍するチームなどが思い浮かぶかもしれません。これらの例は、個人の才能というよりも、集団の中で高まった効力感によって、想定以上のパフォーマンスが引き出された好例です。

集合的効力感を高める3つの要因

それでは、どうすればチームに集合的効力感を醸成できるのでしょうか。研究では、以下の3つの要因が鍵を握るとされています。

1. 過去の成功体験

もっとも強力な要因は、過去に成功した経験です。個人と同様に、チームにも「うまくいった」という記憶は自信の源となります。たとえば、前回のプロジェクトで成果を出せた、難しい顧客対応を乗り越えた――こうした体験は、「次もできる」という感覚を育みます。

重要なのは、成功体験が単なる偶然やラッキーに終わらず、「このチームで力を合わせたからうまくいった」という因果認識にまで高められていることです。そうでなければ、単なる過信で終わってしまいます。

2. チームの目標設定

2つ目は、魅力的な目標の設定です。リーダーやチームが掲げる目標が明確で、かつメンバーにとって意味あるものであれば、自ずと「やってやろう」という気持ちが生まれます。ここでは単に数値的なゴールだけでなく、「この製品で誰かの役に立ちたい」といった感情に訴えるビジョンが重要になります。

また、目標設定のプロセスにメンバーが参加していると、目標への納得感が高まり、集合的効力感にも好影響を与えます。

3. リーダーシップ

そして3つ目は、リーダーシップです。ここでいうリーダーとは、必ずしも役職者である必要はありません。チームに対して明確な方向性を示し、具体的なアクションプランを描ける存在がリーダーとなり得ます。

リーダーには2つの役割があります。1つはビジョンの提示。チームを鼓舞するような未来像を描き、それに向かう意義を語る力です。もう1つは、課題の構造化。つまり、どうやって目標を達成するのか、その道筋を具体的に描き、メンバーの役割分担を明確にすることです。

曖昧なまま進むのではなく、ロードマップを示すことで、チーム全体の自信と集中力が高まります。

根拠なき自信は「浅慮」につながる

集合的効力感は、強力なパフォーマンスの源泉ですが、注意しなければならないのは、根拠のない自信がもたらす落とし穴です。いわゆる「集団浅慮(groupthink)」がそれにあたります。自信過剰なチームは、外部の意見を軽視し、失敗の兆候に目をつぶる傾向があります。

ですから、過去の成功体験と、現状における現実的な計画や準備が両輪として必要になります。ただ気持ちを高めるだけではなく、きちんと成功するための仕組みづくりが求められるのです。

さいごに:集合的効力感を育む職場づくりを

ビジネスの成果は、個人の力だけでなく、集団の可能性をどう引き出すかにかかっています。「このメンバーとならできる」という信頼と自信は、短期的に作れるものではありません。小さな成功を積み重ね、明確な目標を掲げ、互いに役割を理解しながら行動する――この積み重ねが、集合的効力感を生み、組織の力を何倍にも押し上げてくれるのです。

今日の会議やプロジェクトでも、「私」ではなく「私たち」に目を向けてみてください。そこに、チームを強くするヒントがきっとあるはずです。

参考文献:『私たちはなぜ傷つけ合いながら助け合うのか: 心理学ビジュアル百科 社会心理学編

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