チームを前進させるモチベーションの力

あなたのチームでは、なぜか一部のメンバーが力を発揮しないことはありませんか?それは、個人の能力や性格だけで説明できる問題ではないかもしれません。実は「チームであること」自体が、メンバーのモチベーションに大きな影響を及ぼしているのです。

本稿では、心理学の研究成果をもとに、「チームにおけるモチベーション」を深掘りし、ビジネス現場でどうすればチームのやる気を引き出せるのかを探っていきます。

モチベーションは“集まる”と下がる?

私たちは、チームで協力して成果を出すことが当たり前の時代に生きています。企業のプロジェクトチーム、医療や教育現場のチーム体制、スポーツチームなど、多くの組織で“個人プレー”よりも“チームプレー”が求められます。

しかし、心理学の研究では、人数が増えるほど個人のやる気(モチベーション)は下がるという、驚くべき現象が確認されています。代表的なのが、心理学者ラタネの「社会的手抜き(social loafing)」という現象です。

彼の実験では、大声を出す、拍手をするという単純な課題を、1人で行う場合と複数人で行う場合で比較しました。結果は明白で、人数が増えるほど1人あたりのパフォーマンスは確実に下がったのです。

これは、「自分ひとりが頑張らなくても、誰かがやってくれるだろう」という心理、つまり「責任の拡散」が引き起こすものです。10人でやると責任は10分の1。だからモチベーションも10分の1になる──そんな現象が現実のチームにも起こり得るのです。

手抜きの連鎖「腐ったリンゴ現象」

さらに問題を深刻にするのが、「腐ったリンゴ現象(bad apple effect)」です。これは、チーム内に1人でもあからさまに手抜きをするメンバーがいると、周囲にも悪影響が広がってしまうというものです。

たとえば、1人の社員が「どうせ頑張っても報われない」と言ってサボっていると、他のメンバーも「それなら自分も…」とやる気を失っていく。まるで一つの腐ったリンゴが、箱全体のリンゴをダメにしてしまうように、やる気の低下は連鎖し、チーム全体の士気を落とす危険性を持っているのです。

「補い合い」が起きる条件

では、チームであっても、やる気が上がる場面はあるのでしょうか?心理学はその可能性も示しています。

たとえば、「社会的補償効果」という現象があります。これは、能力の高いメンバーが、能力の低い仲間と組んだときに「自分が頑張らねば」と責任感から努力を強める現象です。

ただしこの効果は、どんなチームでも起きるわけではありません。次のような条件がそろったときに起きやすいとされています。

  1. 課題の重要性が高いとき
  2. 能力が低いメンバーと“逃げられない関係”にあるとき
  3. プロジェクトの初期段階
  4. チームの人数が少ないとき

つまり、少人数で責任感のある関係性の中で、意義ある仕事に取り組んでいるときに、自然と「自分がカバーしよう」という力が働くのです。

能力の低い人ほど頑張る?―ケーラー効果

興味深いことに、能力が劣る側のメンバーが、逆に人一倍モチベーションを発揮することもあります。これを「ケーラー効果」と呼びます。

たとえば、全員でリレーするスポーツや、営業ノルマを“全員達成”しなければならないチーム。こうした「最も弱い者の力が成果を左右する」場面では、メンバーは「自分が足を引っ張るわけにはいかない」と、必死に努力する傾向があるのです。

これは、「がんばっても無駄」と思われがちな人にとっても、主体的に動くきっかけになる重要な要素といえるでしょう。

カギは「チーム目標」の設計にある

そして最後に、チーム全体のモチベーションを高める最大のカギとして紹介したいのが、「チーム目標の明確化」です。

心理学者ロックとレイサムによる目標設定理論によれば、個人の目標だけでなく、チーム全体で「共通の目標」を持つことが、メンバーのやる気を引き出す強力な原動力になることがわかっています。

この目標が、チームにとって魅力的で意義あるものであればあるほど、メンバーは「この目標を達成したい」と心から思い、自然と連携や協力が生まれるのです。

さいごに―チームを動かすのは「心理の理解」から

チームのモチベーションを高めるには、「ただ励ます」だけでは足りません。人はなぜサボるのか、なぜ頑張れるのか、どんなときに他人のために動こうとするのか―こうした人間の心理を理解することが、実はもっとも効果的なマネジメント戦略なのです。

社会的手抜き、腐ったリンゴ、補償効果、ケーラー効果、チーム目標──これらの心理学的知見は、単なる知識ではなく、現場のマネージャーが実際に使える「ツール」として役立つものです。

チームを動かす鍵は、チームの中にある。そう気づいたときから、チームの未来は変わりはじめます。

参考文献:『私たちはなぜ傷つけ合いながら助け合うのか: 心理学ビジュアル百科 社会心理学編

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