「イノベーション」とは何か?──“新しさ”の本質を問い直す

ビジネスの世界で「イノベーション」という言葉を聞かない日はありません。けれど、ふと立ち止まって考えてみると、「そもそもイノベーションって何だろう?」という疑問が湧いてきます。これについて、『イノベーションの基本』(手塚貞治)がイノベーションを大変分かりやすく説明してくれています。

経済学者シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と表現しました。つまり、まったくの無から何かを生み出すのではなく、既存のモノや仕組みの組み合わせによって、新たな価値を創造するという考え方です。

たとえば、飛行機の発明は「ガソリンエンジン」や「プロペラ」という技術の組み合わせから生まれました。近年のAIやクラウドサービスも、すでにある技術や知識の再構成によって実現されたものです。製品だけではありません。フォードの大量生産方式や、トヨタのかんばん方式のように、生産手法の革新もまたイノベーション。新興国市場の開拓やリサイクル資源を原料とした製品も、市場や供給の新たな結合という観点から、イノベーションといえます。

一方、経営学者ドラッカーはこう言います。「企業の目的は顧客を創造することであり、そのための手段がマーケティングとイノベーションだ」と。彼にとってイノベーションとは、単なる技術的な進歩ではなく、社会や経済に変化と価値をもたらす営みなのです。

要するに、イノベーションとは「目新しさ」ではなく、「経済社会に価値をもたらす革新」。そしてその価値は、技術にも、仕組みにも、組織にも、マーケットにも宿るのです。

イノベーションの役割──社会と企業の未来をひらく力

では、なぜ今、私たちはこれほどまでにイノベーションを求めるのでしょうか?

理由の一つは、経済成長の原動力としての役割です。国全体の生産性が伸び悩むなか、新たな需要を生み出すには、既存のやり方を変えるしかありません。これはマクロ経済にとって死活問題です。

もう一つは、企業の生存戦略としての必然性。市場環境の変化は容赦なく訪れます。イノベーションの波を「外から」受けるのではなく、「内から」起こす力がなければ、企業は取り残されていきます。自ら変わる力がなければ、変化に淘汰されるだけなのです。

さらに重要なのは、ユーザーにとっての価値。イノベーションとは、ただ便利になること、効率化することではありません。一人ひとりの生活の質――ウェルビーイングを高めることにこそ、真の意義があります。

とくに日本においては、長引く経済停滞からの脱却や、世界最速の高齢化社会への対応といった、構造的な課題を抱えています。だからこそ、需要の創出生産性の向上という2つの観点から、イノベーションは不可欠なのです。

イノベーションの源泉──それは“変化”の中にある

では、どこにイノベーションの種は眠っているのでしょうか?

ドラッカーは、イノベーションには「機会」があると説きました。その機会とは、次のようなものです。

  • 予期せぬ成功や失敗に目を凝らすこと。
  • 現状と理想の間にあるギャップを見つけること。
  • ユーザーや顧客の新しいニーズに耳を傾けること。
  • 産業構造の変化を読み解くこと。
  • 人口動態の変化に着目すること。
  • 社会の中での価値観や認識の変化をとらえること。
  • 新しい技術や知識を活かすこと。

つまり、「変化」こそがイノベーションの源泉です。日々の業務の中で感じる違和感、顧客からの声、社会のニュースや統計データ。そこにヒントは潜んでいます。変化に気づき、意味を読み解き、行動に移す力こそが、イノベーションを生むのです。

起業家のイノベーション、大企業のイノベーション

すべてのイノベーションが同じではありません。起こす人や組織によって、その特徴は異なります。

たとえば、起業家は、まったく新しい価値を打ち出すような「急進的」「能力破壊型」「破壊的」イノベーションを得意とします。これらは、既存の業界構造を一変させる力を持つものです。iPhoneが登場したとき、ガラケー市場が瞬く間に駆逐されたのは記憶に新しいでしょう。

一方で、大企業は、「漸進的」「能力増強型」「持続的」イノベーションを得意とします。これは、現状を土台にした改善・進化型。既存顧客のニーズに応えながら、製品やサービスの精度や品質を高めていくアプローチです。

どちらが良い・悪いではありません。むしろ、両者のアプローチが市場全体のダイナミズムを支えているのです。

イノベーションは「普及」して初めて意味を持つ

つぎに大切なのは、イノベーションは「普及」して初めて社会的な価値を持つということです。

どんなに素晴らしいアイデアでも、世の中に使われなければ意味がありません。社会に受け入れられるためには、いくつかの条件があります。ロジャーズの「普及理論」によれば、以下のような要素が鍵を握ります。

  • 相対的優位性:従来のものより「良い」と実感できるか?
  • 両立可能性:ユーザーの価値観や習慣に合っているか?
  • 複雑性:わかりにくくないか?とっつきやすいか?
  • 試行可能性:試してみるハードルは低いか?

また、ジェフリー・ムーアは、革新的な商品やサービスが、初期の熱狂的ユーザー(イノベーター・アーリーアダプター)を超えて一般市場に浸透するまでの“溝”(キャズム)の存在を指摘しました。このキャズムを乗り越えるには、技術よりも「信頼」や「語り口」が求められるのです。

さらに現代では、SNSを通じた口コミや爆発的な話題性によって一気に市場を席巻する「ビッグバン型イノベーション」も見られます。こうした広がり方も、新しい時代のイノベーションの姿といえるでしょう。

“変化を起こす人”は誰か

イノベーションは、技術者や研究者だけのものではありません。ビジネスパーソン一人ひとりが、日々の仕事の中で「これは変えられないか?」「もっとよいやり方はないか?」と問い続けること――そこから始まります。

イノベーションとは、“発明”ではなく“姿勢”のことなのかもしれません。

変化を受け身で受けるのではなく、自ら起こす人になる。その最初の一歩は、ほんの小さな「問い」から始まるのです。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

経歴・実績 詳細はこちら
波戸岡への法律相談のご依頼はこちら

著書紹介

『論破されずに話をうまくまとめる技術』

『論破されずに話をうまくまとめる技術』

”論破”という言葉をよく聞く昨今。
相手を言い負かしたり、言い負かされたり、、、
でも本当に大切なことは、自分も相手も納得する結論にたどりつくこと。
そんな思いから、先人たちの知見や現場で培ったノウハウをふんだんに盛り込み、分かりやすい言葉で解説しました。

本の詳細はこちら

『ハラスメント防止と社内コミュニケーション』

『ハラスメント防止と社内コミュニケーション』

ハラスメントが起きてしまう背景には、多くの場合、「コミュニケーションの問題」があります。
本書は、企業の顧問弁護士として数多くのハラスメントの問題に向き合う著者が、ハラスメントを防ぐための考え方や具体的なコミュニケーション技術、実際の職場での対応方法について、紹介しています。

本の詳細はこちら

『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』

『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』

経営者が自分の判断に自信をもち、納得して前に進んでいくためには、経営者に伴走する弁護士が、本音で対話できるパートナーであってほしいです。
本書では、経営者に寄り添う弁護士が身につけるべきコミュニケーションのヒントを数多く解説しています。

本の詳細はこちら

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674