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株式会社の取締役になるということ-新たに取締役となるあなたへ-
株式会社の取締役になるというのは、単に「会社の役職に就く」以上の意味を持ちます。あなたは会社の将来を左右する意思決定を担う存在であり、同時にその行為に対する責任を背負う立場に立つのです。
会社には「機関」と呼ばれる人たちがいます。株主総会が会社の基本方針を決め、取締役会が経営の方向性を決定し、代表取締役が実際に執行し、監査役がチェックを行う、いわば会社を動かす「頭脳」と「心臓」と「目」のような存在です。その中で取締役は、会社の頭脳として重要な役割を担います。
取締役の役割と責任
取締役の役割は大きく二つあります。業務を決定することと、執行を監督することです。
たとえば、ある中堅メーカーで「新しい工場を海外に建設するかどうか」を議論するとします。これを決めるのは取締役会です。取締役は市場の状況や投資リスクを調査し、議論を尽くして最終的に会社の方向性を定めます。もし判断を誤れば、会社の経営が傾きかねません。その意味で、取締役は株主から「経営を委ねられた専門家」であるといえます。
ただし、これは従業員との関係とは異なります。従業員は会社と雇用契約を結び、会社の指揮命令に従う立場です。一方で取締役は会社と「委任契約」の関係にあります。つまり、株主から「任せる」と言われた立場。任せてもらった以上、専門家としての注意義務(善管注意義務)と、会社のためにベストを尽くす忠実義務が課されています。
具体例で考える取締役の責任
たとえば、取締役の一人が不正会計をしていたとします。あなたがそれを知りながら「関わりたくない」と黙認してしまったらどうなるでしょうか。たとえ自分が直接関わっていなくても、「監督を怠った」として責任を問われることになります。名目だけの取締役でも同じです。取締役である以上、監視義務から逃れることはできません。
一方で、「責任がある」ということは、常に萎縮しなければならない、という意味ではありません。経営にはリスクがつきものです。取締役は幅広い裁量を持っており、たとえ判断の結果うまくいかなかったとしても、合理的な調査と議論を経て決断したのであれば「経営判断の原則」により責任を問われないのです。
たとえば、新規事業に挑戦して失敗しても、十分なデータを集め、複数案を比較検討した上で判断したのであれば、それは経営者として当然の挑戦であり、むしろ評価されるべきものです。
社外取締役という立場
近年は、社外から人材を迎え入れる「社外取締役」の役割も重視されています。自社出身者にありがちな「なあなあの関係」を避け、客観的な視点で経営を監督できるのがメリットです。たとえば、同業界の経験を持つ外部人材が取締役に加わることで、「競合他社の失敗事例を知っているから、この投資は再考した方がいい」と助言することができます。
一方で、社外の人材が「どこまで本気で会社に関わってくれるのか」という懸念がつきまとうのも事実です。しかし、役割と責任は社内取締役とまったく同じ。会社法上の義務から逃れることはできません。
まとめ
取締役になるというのは、会社を動かす歯車の一つになることではなく、会社の未来を決める責任ある意思決定者になることです。あなたの判断が会社の行方を左右し、株主、従業員、取引先、そして社会全体に影響を与えるのです。
だからこそ、取締役に求められるのは「臆病さ」ではなく「誠実さ」と「合理性」。事実を的確に把握し、議論を尽くして合理的な判断を下し、その判断に責任を持つ。この基本姿勢こそが、良き取締役への第一歩です。
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