バイアスだらけの私たち―『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』から学ぶ実践知―

「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』。今回ご紹介するのは『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 』 (守屋智敬)です。

物事をフラットな視点で見て、客観的かつ合理的に判断したいと思っても、これまでの経験や育った環境、他者からの影響により培われた先入観や思い込みによって、歪んだ見方をしてしまうのが人間です。自分の中にある固定概念や先入観は、無意識のうちに培われたものであることが多く、それらはアンコンシャス・バイアスと呼ばれています。

「バイアスが働いている」というと、物事を偏った見方で捉えているなどマイナスな意味で使われることが多いですが、自分にとって都合よく物事を見るなどバイアスがあることで、行き過ぎた考えを防ぎ、平常心や自己肯定感を保つことができます。バイアス自体はよくも悪くもなく、誰しもが持っている世界を認知するときの習性なのです。

自分にはどんなアンコンシャス・バイアスがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。自分の中にあるアンコンシャス・バイアスを見つける方法、バイアスを見つけたときの対処法やプラスに活かす方法について、本書から探ってみましょう。

どのバイアスを持っている?15の認知バイアス

偏ったものの見方によって、正常な判断ができなくなることもありますが、実はアンコンシャス・バイアスとは、脳がストレスを回避するための大切な働きでもあります。物事をすべてフラットな視点から判断しようとすると、ひとつの事柄をさまざまな方向から考える必要性が生じ、脳は休まることがありません。そこで自分にとって楽な解釈をする、バイアスを発動させることで、終わらぬ思考に終止符を打つことができるのです。バイアスの存在が脳のストレスを軽減してくれるというわけです。

ポジティブな側面もあるアンコンシャス・バイアス。一体どのようなものがあるのでしょうか。代表的な15個のアンコンシャス・バイアスを紹介します。

1.確証バイアス
自分にとって都合のよい情報ばかりに目がいき「ほら、やっぱりそうだよ」と確証を持つ。

2.ステレオタイプ
人の属性や一部の特性をもとに先入観や固定概念で決めつけてしまう。

3.ハロー効果
相手の一部の長所ですべてがよく見える。

4.正常性バイアス
危機的な状況が迫っていても「私は大丈夫」と思ってしまう。

5.権威バイアス
権威がある人の言うことは間違いないと思う。

6.コミットメントのエスカレーション
過去の自分の意思決定を正当化してしまう。

7.アインシュテルング効果
慣れ親しんだ考え方やものの見方に固執してしまう。

8.集団同調バイアス
周りと同じように行動してしまう。

9.ステレオタイプ脅威
「新参者はおとなしくしていよう」など、自分の属性に対する否定的な固定観念が呪縛となる。

10.自己奉仕バイアス
成功は自分の手柄であり、失敗は他人の責任にあると思う。

11.専門傾向
自分の専門領域で物事を考えてしまう。

12.サンクコスト効果
費やした時間や労力を考えるとやめられなくなる。

13.バラ色の回顧
過去を美化してしまい、今を否定する。

14.ダニング・クルーガー効果
等身大の自分を隠して過大評価してしまう。

15.インポスター症候群
能力があるのに、自分を過小評価してしまう。

アンコンシャス・バイアスの見つけ方

無意識のうちに培われたバイアスと上手に扱うために大切なことは、バイアスが働いていることに気が付くこと、対処法を知っておくことです。たとえば「ふつうはこうでしょ」「それって当たり前のことでしょ」と短絡的な感情をもってしまうとき、原因は相手にあると思いがちですが、自分の中のアンコンシャス・バイアスが働いていることがその感情の原因です。ここでは、アンコンシャス・バイアスに気が付く5つのヒントをご紹介します。

①相手の非言語メッセージを意識しよう
相手の不快に目向けましょう。口では「大丈夫です」と言いつつ、相手から笑顔が消えたと気づいたら、自分のアンコンシャス・バイアスが発動してしまったのかと考えましょう。

②感じたことをメモしよう
「モヤモヤする」「うっ」と思ったら、その時の気持ちや状況をメモします。メモは鮮度が命。1日の終わりに振り返る日記形式では遅いのでいつでもノートとペンを持ち歩き、即対応で2週間継続してみましょう。メモを続けると、どんな時に自分のバイアスが働くのかが見えてきます。

③相手を意のままに操ろうとするのはやめよう
「なんで(私がしてほしいことを)してくれないの!」という気持ちになること、ありますよね。相手の予想外の言動に対する自分の反応はバイアスに気づくサインです。

④感情を言葉にしよう
「なんでそんなこと言うの⁈」と感情的になってしまうと自己認知力が下がってしまいます。感情的になりそうなときには「そんなふうに言われるのは嫌です」と気持ちを言葉にして伝えるようにしましょう。冷静さをとりもどせれば、気持ちが高ぶったときにはアンコンシャス・バイアスが働いていたことがわかります。

⑤目的に立ち戻ろう
ムカッとしたときには「そもそも何のためにしていたのか」と問いかけて、目的を思い出しましょう。目先のことにとらわれるとアンコンシャス・バイアスが働きやすくなるため、本質に立ち返るようにします。

アンコンシャスバイアスの対処法

「普通はそうでしょ」と自分の価値観を相手に押し付けたり、「できっこないよ」と能力を決めつけたり、「できて当然」と理想を押し付けたり。アンコンシャスバイアスは自分の視点からだけの押しつけと決めつけです。アンコンシャスバイアスが発動していると気が付いたら、対処することが大切です。秘訣は意識の置き場を変えること。

①言われた相手の「心の後味」に目を向けよう
「こうに決まってる」「できて当たり前」、そんなアンコンシャスバイアスを発してしまったときには、言われた相手はどんな気持ちになったか、相手の「心の後味」に意識を向けるようにします。

②今に目を向け、未来への問いをしよう
「なんでそんなことしなの?」と問い詰めたくなったときには、「これからどうしたい?」と問いを変換しましょう。過去でなく未来に目を向けていくことが大切です。

③自分の意識やイメージを上書きしよう
マラソンなんてつまらないよね、けどやってみたら意外と楽しめたというような経験ありますよね。固定したイメージにとらわれず「意外と〇〇だった!」の経験を増やして、セルフイメージを上書きしましょう。

④プラス面に目を向けよう
人は気づくとマイナス面に目が行ってしまうものです。マイナスを見ていることに気が付いたら、意識してプラスを探してみましょう。

⑤ほかにもないか?を探そう
ひとつの側面だけですべてを決めつけず、ほかの面も見るように意識します。「それで全部じゃないはず」を合言葉にしましょう。

ご紹介した15個のアンコンシャス・バイアスのうち、当てはまるものはあったでしょうか。バイアスは自分を知り、よりよく生きるためのきっかけを与えてくれる大切な存在です。相手を否定的にとらえてイラっとしたり、バイアスがマイナスに働いてしまったときほど変わっていけるチャンスです。まずは自分から変わる努力をして、よりよい人間関係を築いていきたいですね。そのためのヒントがたくさんつまった一冊です。

【良書からこの視点】
アンコンシャス・バイアスに気が付いたら、意識の置き所を変えて対処しよう

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