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契約リスクをどう減らすか-交渉で「納得感」ある合意を築け
契約交渉に臨む経営者の多くは、「どうすれば有利な条件を引き出せるか」に目を向けがちです。確かに、条件を有利に整えることは大切です。しかし、実際のビジネス現場でリスクを最小化するためには、「納得感を伴った合意」を築けるかどうかが重要になります。短期的に有利な条件を得ても、相手が不満を抱いたまま契約した場合、後々トラブルや関係破綻に発展する可能性が高まります。
「勝ち負け」ではなく「納得感」で合意する
交渉を「勝ち負けのゲーム」と捉えると、どうしても「こちらが勝つためには相手を負かさねばならない」という発想になってしまいます。けれども、契約は取引のスタートにすぎません。もし相手が「無理やり飲まされた」と感じていれば、その後の協力姿勢は弱まり、トラブルが起きた際に必要な歩み寄りも期待できません。
交渉学の世界では、交渉を「ゼロサムゲーム」ではなく「協働的な問題解決」と捉えることが推奨されています。心理学の研究でも、「相手も自分も損をしていない」と感じられる合意が長期的に信頼を育み、結果として双方にとって利益が大きくなるといわれています。経営者が目指すべきは、「有利な条件」ではなく「お互いに納得して合意できた契約」なのです。
ケーススタディ:ライセンス契約の失敗例
あるIT企業がベンダー企業とライセンス契約を結んだ事例があります。IT企業側は「価格をできるだけ下げる」ことを最優先に交渉を進め、短期的には安く契約を結ぶことができました。ところが、システム障害が発生した際、ベンダーは「安価で提供している以上、追加対応は有料」と主張。結局、当初のコスト削減効果は吹き飛び、かえって高額な費用負担を強いられる結果になりました。
この事例が示すのは、価格だけに固執した交渉は長期的にはリスクを高めるということです。仮に当初の交渉で「多少高額でも、障害発生時の包括対応を含める」条件を話し合っていれば、リスクを抑えつつ安心できる契約が成立していた可能性が高かったです。
経営者が押さえておきたい交渉の4つの技術
1.BATNA(合意に至らなかった場合の最善の代替案)を把握する
BATNAを明確にしておくと、「合意できなくても他の選択肢がある」と冷静に交渉できます。逆にBATNAを持たないまま交渉に臨むと、不利な条件でも飲まざるを得なくなります。
2.相手の立場や関心を理解する
相手が何を最も大切にしているのかを把握することが肝心です。価格なのか、納期の確実性なのか、長期的な安定なのか。こちらが相手の関心を理解し、それに配慮する姿勢を見せると、相手も譲歩しやすくなります。
3.条件ではなく“利益”を話し合う
「価格を下げてほしい」という表面的な要求ではなく、「長期的にコストを安定させたい」という背景にある利益を共有することで、互いに納得できる解決策を探せるようになります。これは交渉学でいう「立場(position)」ではなく「利益(interest)」に着目する方法です。
4.合意内容を“未来のリスク”で検証する
「もし納期が遅れたら?」「もし市場価格が急騰したら?」といった未来のリスクを想定し、その場合の対応を契約に盛り込むことが重要です。トラブルが起きた後に改めて交渉するより、事前に合意しておくほうが遥かに安定します。
さいごに
契約交渉の目的は、「条件で勝つ」ことではなく「お互いに納得できる合意をつくる」ことです。短期的に有利な条件を得ても、相手が納得していなければ、その契約は将来的に大きなリスクを生みかねません。
経営者にとっての理想的な交渉とは、
- ・BATNAを把握しつつ、
- ・相手の関心に耳を傾け、
- ・表面的な条件ではなく根本的な利益を話し合い、
- ・将来のリスクを見据えて合意を形成する、
そうしたプロセスを経て、安心して長期的に取引を続けられる関係性を築くことなのです。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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弁護士 波戸岡光太
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