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働きたい改革って本当!? いま必要な働き方とは―『「働き方改革」の人類史』から学ぶ実践知―
「話題の本を読んでみたい」「インプットの時間を取りたい」と思いつつも、忙しくて時間が取れない経営者の方に向けて、経営に役立つエッセンスと視点をお伝えする『良書から学ぶ、経営のヒント』。今回ご紹介するのは『「働き方改革」の人類史』 (尾登雄平)です。
高市首相が総裁選に勝利した際の挨拶で「ワークライフバランスを捨てます」と言った言葉は、労働時間の圧縮を焦点とした「働き方改革」から、残業規制を緩和しもっと働くことができる「働きたい改革」へと、これまで目指してきた労働政策の方向性を大きく転換させかねないものとして議論の的になっています。
このように「働き方」が話題となっている昨今ですが、そもそも1日8時間労働という規制は誰が決めたのでしょう。残業という概念はいつから生まれたのでしょうか。
私たちが当たり前のものとしてとらえている労働時間の概念、実は明治維新後に生まれたばかり。100年ほどの歴史しかありません。
だとすると、それ以前の労働時間の規制がない中で人々はどんな働き方をしていたのか、素朴な疑問が湧き起こります。そこで、古代ギリシャから存在する「労働」を歴史的に振り返り、労働と人類の変遷の中で改めて働き方について考えていきましょう。
労働は人間に与えられた罰だった⁈ -労働観の変遷-
- 〈古代ギリシャ時代〉
「ポリス」と呼ばれる都市国家が成立し、民主主義や哲学、歴史学、演劇など、後世の西洋文明の基礎となった紀元前8世紀頃の古代ギリシャ時代では、労働は生活のためにするものであって、卑しいもの、奴隷の仕事という評価でした。
哲学者のアリストテレス、ソクラテス、プラトンらが学問を広めたように、公的に影響を及ぼすこと、社会のためになることが“よいこと”であり、自分の生活のために働くという行為は“卑しい”と考えられていたのです。
「働かなくていい我々上流階級は、神から赦された特別な存在である」という考えが、古代ローマ、ユダヤ、キリスト教に受け継がれていきました。
- 〈中世(11C)〉
中世になると国際的商業活動、貿易が盛んになり、貨幣と商人が発達します。「商業ルネサンス」とも呼ばれる当時の経済の盛り上がりに伴い、デスクワークが始まります。座って契約を交わすことが仕事になるという労働の形が生まれたのです。
カトリック教会はこうしたデスクワークについて、汗水垂らして働かずにモノとモノを動かすだけで富を得るのは“蓄財の罪”であると批判しました。
- 〈宗教革命後(16C)〉
宗教革命以降、労働は人間が生まれながらにして持っている罪を償うための罰であるという価値観から、「神の召命(天職)」へと転換していきます。「よい商品やサービスを提供する労働は隣人愛のある活動であり、隣人愛のある営利活動の結果、富が蓄えられるのであれば、それは神の意志に適っている」という考えが、ネガティブな労働観からポジティブな労働観へと大きく変容させたのです。
- 〈産業革命(18C)〉
宗教革命の労働観によって、働くことがポジティブに受け止められるようになると、都市の裕福な商人、ブルジョワジーが台頭します。しかし、産業革命以降の工業化によって経済成長を遂げる一方で、過酷な労働環境が常態化していきます。低賃金、長時間、非衛生(苦汗制度)の問題が広がり、女性や児童も働き手になっていきました。
- 〈労働条件の改善(19C)〉
過酷な労働環境への不満は限界を迎え、労働組合によってストライキなどが増大します。1833年にはイギリスで工場法が制定。児童労働や深夜労働を制限するなど工場労働者保護の先駆けとなりました。1838年には都市の労働者階級によるチャーチスト運動が起こり、労働者の権利は守られるべきという流れが広がっていきました。
このように労働観の変遷を見ていくと、「働くことは罪であり、奴隷の役割」という古代の考えから、「市民の健全な活動」へと転換し、労働者もひとりの人間として権利が保障されるようになったのはごく最近のことであることがわかりますね。
労働を考える3つのキーワード
次に「労働時間」「生産性」「やりがい」という、労働を考えるのに不可欠な3つの視点から労働観の変遷を眺めてみましょう。
- 〈労働時間〉
そもそも「時間」という概念が人々に根付いたのはいつからかご存知でしょうか。
古代ローマ時代には大都市では公共広場に日時計があり、大まかな1日の時間が把握できました。しかし、多くの市民は日時計をわざわざ見にくることもなく、時間を意識して過ごすことはありませんでした。
中世ヨーロッパ(12C~)時代になると、教会の鐘が普及し、聖職者のお勤めに合わせて約3時間ごとに鐘がなり、市民も時間を認識するようになりました。
日本で人々に時間を知らせるようになったのは江戸時代からです。江戸や京都、大阪、長崎など大きな都市でのみ、お寺が鐘をついて知らせました。
もっとも、人々は鐘の音によってなんとなく時間を把握はしたものの、正確に「時間」という概念が全国的に普及するようになったのは明治時代(1868-1912)に入ってからのことでした。人類の長い歴史の流れの中で見ると、わずか150年ほど前の出来事です。日々時間を気にして生きている私たちですが、時間の概念を知ったのは最近のことだったのです。
農業がメインの時代では、春には種をまいて、秋に刈り採るように、季節によって日中時間や作業内容が異なるため、決まった労働時間の概念はありませんでした。しかし19世紀に明治維新になって初めて工場制度が普及し、毎日決まった時間に働くという意味での労働時間が社会に定着したのです。
その後、イギリスではロバート・オーウェンが「1日10時間労働」を提唱。さらに1日8時間を目標にすることが叫ばれ、現代の労働時間の軸となりました。
- 〈生産性〉
産業革命以前の農業社会では、生産性は非常に低いものでした。約1万2千年前(新石器時代)に狩猟生活から農業を中心とした社会体制への変容は「農業革命」と呼ばれています。しかし、初期農業は収穫量も不安定で労働対価は低く、劇的な革命とは程遠いものでした。
農耕には自然の対峙する苦労、品種改良や技術改良の苦悩があります。狩猟生活からの変革と技術の定着に時間がかかったため、農業革命は生産性を得られるようになるまで、数千年の時間をかけてゆっくりと普及していったのです。
- 〈やりがい〉
20世紀以降の大量生産、大量消費時代の幕開けと同時期に、マネジメントという手法が企業で導入されていきます。労働者のモチベーションや人間関係が生産性に影響を与えることが発見され、マネジメントにより従業員のやりがいや幸福が重視されるようになりました。
フレデリック・テイラーの「科学的管理法」、マズローの「欲求5段階説」、ドラッカーの『マネジメント』など、著名な理論や実証には枚挙にいとまがありません。
今や、マネジメントによって、効率化を図るとともに、経営者は従業員に仕事へのやりがいをどう持ってもらうかということも考慮する時代になりました。働く人たちの中からも、どう働くのか、働くとはなにかというやりがいを追求する議論が起こるようになったのです。
働き方が問われる今、「私はどう働きたい?」「私にとって働くって何だろう?」と改めて自身に問いかけたら、どんな答えが出るでしょうか。自分の働き方改革をするためのヒントが詰まった一冊、ぜひ参考にしてみてください。
【良書からこの視点】
そこに「やりがい」があるか。問いかけて、私に必要な働き方を考えてみよう。
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