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共同経営契約で必ず決めておきたい条項-信頼しているからこそ、言語化しておこう-
《共同経営契約で必ず決めておきたい条項》
共同経営を始めるとき、多くの経営者がこう言います。
「自分たちには信頼関係があるので、細かい契約は必要ないと思っています。」
この感覚は、とても自然です。
むしろ、信頼がなければ共同経営は成り立ちません。
ただ、実務を見ていると強く感じるのは、
信頼関係がある会社ほど、ルールを整えているという事実です。
契約は、不信の証ではありません。むしろ、関係が揺らいだときに支えとなる共通の基準です。
共同経営のトラブルは、起きてからでは解決に大きなエネルギーを要します。
だからこそ、始める段階で「どこまで言語化しておくか」が重要になります。
ここでは、共同経営契約で特に整理しておきたい条項を紹介します。
1.最終意思決定のルール
共同経営でもっとも多いトラブルの一つが、
「意見が割れたときに、どう決めるのかが分からない」という問題です。
創業期はスピード感を優先し、「話し合えば決まる」状態でも回ります。
しかし、事業が成長するほど、意思決定は重くなります。
大型投資をするか、借入を行うか、新規事業に参入するか、会社を売却するか…
こうした局面で判断が止まると、経営そのものが停滞します。
例えば、
・出資比率に応じた議決権とするのか
・特定事項は全員一致にするのか
・最終決定者を決めておくのか など
「対立したときのルール」こそ、先に決めておく価値があります。
これは衝突を想定するためではなく、経営を止めないための備えです。
2.役割分担と責任範囲
共同経営が順調なうちは、役割の曖昧さは問題になりません。むしろ柔軟に動けるメリットすらあります。
しかし時間が経つと、「なぜ自分ばかり負担が大きいのか」「そこまでやるのは自分の仕事なのか」といった感情が生まれやすくなります。
典型的なのは、一方が営業を担当し、もう一方が管理を担うという構造です。
売上が伸びるほど営業側の発言力が強まり、一方で管理側は「評価されにくい」という不満を抱える。
これは珍しい話ではありません。
重要なのは、役割だけでなく、責任の範囲まで言語化することです。
曖昧さは美徳に見えて、後に摩擦の原因になります。
3.報酬・利益配分の考え方
共同経営において、最も感情が動きやすいテーマの一つが「お金」です。
特にズレが生じやすいのは、固定報酬をどうするか、業績連動にするのか、配当とのバランスをどう考えるかといった点です。
創業期は同じ報酬でも、会社の成長とともに貢献度の差が見え始めることがあります。
そのときに初めて議論すると、どうしても「評価されていない」という感情が先に立ちます。
だからこそ、完全な公平を目指すより、納得できる基準を作ることが重要です。
報酬は数字の問題であると同時に、経営者の尊重感にも直結するテーマです。
4.持株の扱い(譲渡制限)
共同経営のリスクとして、意外に見落とされがちなのが株式の扱いです。
例えば、次のようなケースがあります。
・パートナーが突然退任する
・株式を第三者に売却しようとする
・想定していなかった人物が株主になる
これが起きると、経営の前提が大きく崩れます。
そのため、株式譲渡の制限、他の経営者の承認要件、優先買取権などを定めておくことは、経営の安定性を守るうえで極めて重要です。
株式は「所有」の問題であると同時に、「経営権」の問題でもあります。
5.離脱時のルール(出口設計)
あまり考えたくないテーマですが、実は最も重要なのがここです。
共同経営がもめる典型的な場面は、方向性の違い、健康問題、家庭事情、モチベーションの変化などにより、誰かが離脱する局面です。
このときルールがないと、株式をいくらで買い取るのか、いつまで関与するのか、競業は許されるのかといった点で衝突が起きやすくなります。
出口を決めることは、別れを前提にすることではありません。
むしろ、安心して経営を続けるための土台です。
6.競業避止と情報管理
共同経営者は、会社の重要情報に深くアクセスします。
だからこそ、同業での独立、顧客の引き抜き、ノウハウの持ち出しといった事態への備えも必要です。
信頼している相手に制限を設けることに、抵抗を感じる方もいるでしょう。
しかしこれは相手を疑うためではなく、会社の価値を守るためのルールです。
結果として、全員を守ることにつながります。
契約は「縛るもの」ではなく「支えるもの」
共同経営契約を整えることに対して、「関係が冷たくなるのではないか」と心配される方もいます。
しかし実際には逆で、ルールがあることで、不要な疑念が生まれにくくなります。
契約の本質は、制約ではありません。安心して意思決定するための共通言語です。
共同経営契約は、経営の質を高める
共同経営のトラブルは、起きるかどうかではなく、いつか起こり得るものです。
だからこそ、判断基準を共有し、曖昧さを減らし、将来の選択肢を整えておくことが、持続的な経営につながります。
もし今、共同経営を始めたばかりであれば、あるいは「少しズレてきたかもしれない」と感じているのであれば、一度立ち止まって整理する価値があります。
法的な視点と対話の視点を組み合わせることで、共同経営はより安定した形へと整えていくことができます。
ぜひ心当たりがあれば、波戸岡までお気軽にお問い合わせください。
この後、《共同経営がうまくいく会社の共通点》を書きましたので、ぜひご参考にしていただければと思います。
《共同経営がうまくいく会社の共通点》
共同経営がうまくいかずにトラブルに発展する会社がある一方で、
共同経営によって大きく発展した会社も数多く存在します。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。
実務を通じて感じるのは、うまくいく共同経営には、偶然ではない共通点があるということです。
特別な才能や完璧な相性が必要なわけではありません。むしろ、いくつかの「経営姿勢」が整っているかどうかが、大きく影響していると思います。
共通点① 「価値観の違い」を前提にしている
共同経営がうまくいく会社は、不思議なほど「違い」に寛容です。
そもそも、まったく同じ考え方の人間が二人いることは稀です。
成長を重視する人、安定を重視する人、スピードを優先する人、慎重に検討する人…
こうした違いは、衝突の原因にもなりますが、同時に経営の幅を広げる要素でもあります。
うまくいく会社は、違いを問題として消そうとはしません。むしろ、「意見が割れるのは自然なことだ」という前提に立っています。
この認識があるだけで、対立は“関係の危機”ではなく、より良い判断のためのプロセスへと変わります。
共通点② 難しい話ほど、早い段階で言葉にする
共同経営では、避けたくなるテーマがあります。
お金の話、持株の話、権限の話、将来の出口の話など。
関係が良好なほど、こうした話題は切り出しにくいものです。
しかし、うまくいく会社ほど、あえて早い段階で扱います。
なぜなら、関係が安定しているときの方が、冷静に話し合えることを知っているからです。
多くのトラブルは、「話さなかったこと」から始まります。
難しいテーマを扱うことは、信頼を損なう行為ではありません。むしろ、信頼を長持ちさせる行動です。
共通点③ 役割だけでなく「最終責任」を明確にしている
共同経営では、役割分担を決めている会社は多いものです。
営業担当、技術担当、管理担当などです。
ただ、それだけでは十分とは言えません。
重要なのは、最終的に誰が責任を持つのかまで整理されていることです。
責任の所在が曖昧な組織では、判断が遅れる、誰も決めない、不満だけが残るといった状態になりやすいです。
一方、責任が明確な会社では、意見が割れても前に進めます。
責任を明確にすることは、上下関係を作ることではありません。経営を止めないための仕組みです。
共通点④ 定期的に「前提」を見直している
創業時に最適だったバランスが、数年後も最適とは限りません。
出資比率は妥当か、報酬は貢献度と合っているか、関与度に差が出ていないか…
こうした前提は、会社の成長とともに変化します。
共同経営が安定している会社は、この変化を自然なものとして受け止めています。
そして、節目で問い直します。
「今の形は、まだ合理的だろうか」
契約も役割も、一度決めたら終わりではありません。
見直すこと自体が、健全な経営判断です。
共通点⑤ 「対話できる関係」を経営資源だと理解している
実は、これが最も重要かもしれません。
共同経営が長く続く会社は、例外なく対話ができます。
ここでいう対話とは、単に仲が良いという意味ではありません。
違和感を伝えられる、意見の違いを扱える、必要なときは率直に言える
こうした関係は自然には生まれません。意識して育てているのです。
対話できる関係は、目に見えない資産です。そしてそれは、どんな契約条項よりも強いリスク管理になります。
共同経営は、「整え続ける経営」でもある
共同経営は、一度形を作れば安定するものではありません。
会社が成長し、環境が変わり、人の考え方も変化していきます。
だからこそ重要なのは、問題が起きてから修復することではなく、揺らぎに耐えられる土台を整えておくことです。
もし今、共同経営をされているのであれば、あるいはこれから始めるのであれば、一度問いかけてみる価値があります。
「私たちは、違いを扱える関係だろうか」
「前提を見直す余白を持てているだろうか」
法的な視点と対話の視点を行き来しながら整えていくことで、共同経営はより安定した形へと近づいていきます。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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