社員の不正が発覚したとき、経営者が判断を誤らないための視点

「まさか、あの社員が。」

社員の不正が発覚したとき、多くの経営者は強い衝撃を受けます。怒りや失望が入り混じり、「なぜ防げなかったのか」という自責の念に駆られることもあるでしょう。そして間を置かず、次の問いに直面します。

この社員をどう処分すべきか。

厳しく対処するべきなのか。事情を考慮すべきなのか。そもそも処分は可能なのか。
社員の不正対応において難しいのは、事実の問題と感情の問題、そして経営判断が同時に押し寄せることです。
しかし、この局面での判断は、単に一人の社員の処遇にとどまりません。会社として何を許し、何を許さないのか。その姿勢が組織全体に伝わります。
だからこそ重要なのは、感情に流されず、かといって過度に形式的にもならない、バランスの取れた判断です。

不正が起きたとき、最初に整えるべきは「事実」

不正が疑われる場面では、経営者の頭の中にさまざまな情報が飛び交います。現場からの報告、本人の説明、周囲の噂。断片的な情報ほど、人の感情を強く動かします。

ただ、この段階で結論を急ぐことには慎重である必要があります。
思い込みや推測が混ざったまま判断すると、後に会社側の対応が問われる可能性もあります。
重要なのは、まず立ち止まり、事実関係を丁寧に整理することです。いつ、どこで、何が行われたのか。会社にどのような影響が生じたのか。本人はどのように説明しているのか。
この「事実に戻る姿勢」こそが、経営判断の安定につながります。

処分は「感情の出口」ではない

不正が明らかになると、経営者の中に強い怒りが生まれるのは無理もありません。会社への裏切りと感じることもあるでしょう。
ただ、ここで一つ意識しておきたいのは、処分の目的です。
処分は怒りを表現するためのものではありません。会社の秩序を守り、再発を防ぎ、組織に一定の基準を示すためのものです。

感情が先行すると、必要以上に重い処分を選んでしまうことがあります。一方で、長年の貢献や人間関係が頭をよぎり、必要な処分をためらうケースもあります。
どちらに傾いても、組織にはメッセージが伝わります。

「あの程度なら許されるのか」
「会社は突然厳しくなるのか」
処分とは、社員に対する判断であると同時に、組織に対するメッセージでもあるのです。

不正の「重さ」は、行為だけでは決まらない

処分の妥当性を考えるうえで、不正の内容はもちろん重要です。しかし実務では、それだけで結論が出るわけではありません。

故意だったのか、それとも認識が甘かったのか。単発の行為なのか、繰り返されていたのか。金額や影響の大きさはどうか。本人が事実を認めているのかも重要な要素になります。

さらに見落とされがちなのが、会社側の管理体制です。ルールが曖昧だった、チェックが機能していなかったという事情がある場合、問題は個人だけに帰属しないこともあります。

不正は「個人の問題」と「組織の問題」の両面を持ち得る。
この視点を持つことで、処分判断はより現実的なものになります。

「前例」が組織の空気をつくる

処分を考える際に、ぜひ意識していただきたいのが前例の持つ意味です。
ある不正に対してどのような対応を取ったかは、その後の組織文化に影響します。厳しすぎれば萎縮が生まれ、甘すぎれば規律が揺らぎます。

重要なのは、誰もが納得する完璧な判断を目指すことではありません。会社として一貫した基準を持つことです。
判断の軸が見える組織では、社員は安心して行動できます。逆に、基準が見えない組織では、「どこまで許されるのか」を探る空気が生まれやすくなります。
処分とは、未来の組織を形づくる行為でもあるのです。

処分だけで終わらせないという視点

不正対応は、処分を決めた瞬間に終わるわけではありません。むしろそこからが重要です。
なぜこの不正が起きたのか。同じことが起きないために、どこを見直すべきか。業務フローなのか、承認体制なのか、それとも組織風土なのか。

再発防止の検討は、責任追及とは別の次元の話です。
ここに目を向けられる会社ほど、結果として強くなります。
不正を完全に防ぐことは難しいかもしれません。しかし、起きた後の向き合い方によって、組織の成熟度は大きく変わります。

社員の不正対応は、経営姿勢そのものが表れる

社員の不正と向き合う場面では、経営者の価値観が自然と表に出ます。
何を重く見るのか。どこまでを許容し、どこからを許さないのか。その判断は、言葉以上に組織へ伝わっていきます。
厳しさと冷静さを両立させることは簡単ではありません。それでも、感情だけに委ねず、形式だけにも寄らない判断を積み重ねることが、組織の信頼を育てていきます。

もし今、社員の不正への対応に迷われているのであれば、その迷い自体が健全な証でもあります。
安易に結論を出さず、事実を見つめ、会社としての基準に照らして考える。そのプロセスこそが、会社を守ります。
経営にとって本当に重要なのは、不正をゼロにすること以上に、揺らいだときにどう立て直すか。その姿勢なのかもしれません。

不正対応に迷ったときは、一人で抱え込まないという選択を

社員の不正が発覚したとき、経営者は短期間のうちに多くの判断を迫られます。
事実関係の整理、本人への対応、処分の検討、社内への影響、再発防止。どれも重要でありながら、同時に進めなければならないことも少なくありません。

そして何より、この問題は外部に気軽に相談しにくいという特徴があります。社内で共有できる範囲は限られ、経営者自身が抱え込んでしまうケースも多く見受けられます。

しかし、不正対応は判断の順序を誤ると、後から会社側の対応が問われる可能性もある領域です。慎重さが求められるからこそ、早い段階で視点を整理しておくことが、結果として会社を守ることにつながります。

私はこれまで、中小企業の経営者の方々から、不正対応に関するさまざまなご相談をお受けしてきました。そこでは単に法的な可否を示すだけでなく、何から着手すべきか、どこまで事実を確認するべきか、処分をどのように検討するか、組織への影響をどう抑えるかといった点を、経営判断の視点も踏まえながら一緒に整理していきます。

不正対応は、厳しさだけでも、配慮だけでも乗り切ることはできません。法的な視点と実務的な視点、その両方を行き来しながら整えていくことが重要になります。
もし今、対応に迷われているのであれば、あるいは「この進め方でよいのだろうか」と少しでも感じているのであれば、どうぞ一人で抱え込まずにご相談ください。状況を丁寧に整理することが、落ち着いた判断への第一歩になります。

経営者が冷静に判断できる状態を取り戻すこと。それ自体が、不正対応における大切なリスクマネジメントだと考えています。

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