これが債権回収の全体像だ

債権回収

取引先が代金を払わない!
通常ならば、期限がくれば取引先が自ら送金してくれるので、債権回収のために自社がする作業など何もありません。
ところが、その取引先が送金しない事態が発生すると、こちらから債権回収のためにアクションを起こさねばならなくなります。
自社が起こすアクションといえば、催促の電話、内容証明郵便、裁判、強制執行、、、、なんとなくはイメージできますが、とくに内容証明郵便から先のイメージはぼんやりしたものではないでしょうか。
今回は、その全体像を、ステップに応じて解説してみます。

1 交渉(催促・内容証明郵便)

まずはこちらから相手に直接働きかけることが必要です。「交渉」の始まりです。
交渉では、①自分の感情をコントロールし、②相手の感情に配慮することが大事なポイントです。払って当然のものをどうして払わないんだ、おかしいじゃないかと、腹が立つのはそのとおりですが、それをそのまま相手にぶつけても逆効果なことが多いです。相手から見えるあなたは、「怒っている人」にすぎず、人は、怒っている人とはつきあいたいくないからです。ですので心では怒っても、頭はクールに、自分の感情をコントロールすることが必要です(①)。
その次に、どうやったら相手が払おうという気持ちになるのか、そこに考えをめぐらします。人は理屈より先に「払いたい・払いたくない」「したい・したくない」という感情の方が先に立ちます。その感情を正当化するために、「お宅の説明が不十分だ」とか「契約書には書いてない」などと理屈をつけます。なので、その理屈に付き合うよりも、相手の感情が「払いたい」とか「早く払って終わりにしたい」という方向に動くように働きかけたいところです(②)。もし相手の資金繰りが苦しいようであれば、分割払いの相談に応じるのは一つの選択肢ですし、単に逃げようとしているのであれば、今後裁判に発展した場合の負担を伝えるのも一つの選択肢でしょう。また、こちらのことを大した奴じゃない、いずれあきらめるだろうと思っているようだったら、内容証明郵便を活用して正式なかたちで請求を行い、こちらが債権回収に本気であることを伝えることも有効です。この段階で弁護士に代理人なってもらい、弁護士名で請求をかけることも有効です。
それでも功を奏さない場合、次のステップに進みます。法的手段による債権回収です。

2 訴訟などの法的手段

次のステップでは、裁判所を利用した債権回収手段に進みます。最もオーソドックスなのが「訴訟」です。債権回収では、自分の住所地を管轄する裁判所に訴えることができます。東京が本社ならば、東京地方裁判所(金額が140万円以下なら東京簡易裁判所)です。訴状に自分の言い分を書き、契約書のコピーなどを証拠として裁判所に提出します。シンプルな事案であれば訴状をご自身で作成することもできます。もっとも、自分の言い分を漏れなく誤解なく「書面」で表現したり、裁判所とスムーズなコミュニケーションを実現するのは、予想以上に手間暇がかかります。正直なところ、ここは「自分でできることは自分でやる」主義より、「餅は餅屋」主義を選んで、弁護士に依頼することをお勧めします。
訴状が受理されると、第1回の裁判日(期日といいます)を決めます。自分が出席できる日時を裁判所と連絡しあって決め、大体1か月後に期日が決まります。すると、その日に裁判やるので来てくださいという通知文と一緒に、訴状が相手に送られます。相手からすると、裁判所から郵便が届き、中を開けたら訴状と第1回期日の連絡が入っているから、ふつうはびっくりします。交渉段階ではいい加減な対応をしていた人も、裁判になると法廷に出てくる、ということが多いです。
訴訟が始まると、徹底的に「書面主義」です。言いたいことは書面に書かないと、裁判官は聞いてくれません。TVドラマのように、法廷で真実を話してやると意気込んでも、裁判官は冷たいです。「今ここでいろいろ言われても分からないから、書面に書いてきてくださいね」とあしらわれてしまいます。鼻息荒く法廷に現れたのに、肩透かしをくらってきょとんとしている当事者の姿を法廷でよく見かけます。
裁判は、ふつう1か月に1回のペースで進められます。書面で互いの主張をぶつけ合う一方で、話し合いによる解決(和解)ができないかも、同時に検討されます。和解というと、あいまいな妥協で終わらすというイメージがあるかもしれませが、「自分たちの紛争を自分たちで解決する」というあるべき解決策の一つでもあります。相手も納得して合意するのだから、実際に支払ってくる可能性も高いです。筋を通すことを目指して判決を選ぶか、現実の回収をめざして和解を選ぶか、思案のしどころです。
和解や判決で裁判が終了し、無事にお金が支払われれば解決となります。けれど、和解が成立したのに、あるいは判決が確定したのに、なお相手が払ってこない場合、さらに次のステップに進みます。強制執行による債権回収です。

3 強制執行(差押え)

判決文をもらっても、裁判所が強制的に回収してくれるわけではありません。判決は命令文書にすぎず、強制執行してもいいよという国家のお墨付きにすぎません。なので、この文書をもって相手のどの財産を差し押さえるかは、債権者の手腕にかかっています。
「手腕にかかってる?」
そう、相手がどこにどんな財産をもっているかは、債権者が、つまり自分が探さねばならないということです。
「え、じゃあ、相手の財産が分からなかったら?」
終了です。
「そんな~(悲鳴)」「なんか手がかりないの?(必死)」
一番効率が良いのは、相手の預金口座を差し押さえることです。銀行名と支店名まで分かれば、差し押さえることが可能です。また、相手の勤務先が分かっていれば、その給料を差し押さえることも可能です。
「それも分からなければ?」
会社は本社近くの銀行で口座を開いていることが多いですから、そこを狙い撃ちにして差し押さえをかけると可能性ありです。私も何度か「ヒット」して債権回収に成功した経験があります。
それでも、相手に本当に資産がなくてお財布が空っぽの場合は、まさに「ない袖は振れない」状態で、無から有は生まれず、回収の断念を考える必要も出てきます。破産はその典型であり、どんなに立派な判決を持っていても、相手に破産されると一瞬で紙切れになります。「絵に描いた餅」とはよく言ったものです。
そもそも判決がでてもなお払わないという相手方は、本当に資産がないか、徹底的に資産隠しをしているか、単なる無知かのいずれかであることが多いので、現実的な回収は楽ではありません。
それでも、いったん判決を取得すれば、そのあとは、相手と交渉する必要なく、粛々と淡々と自分のペースで手続きを進められるメリットがあります。しかも判決の消滅時効は10年なので、いますぐ回収できなくても、相手が息を吹き返したところでガツンと強制執行する機会を狙うこともできます。今に見てろ~ってね。。。

以上、かけ足で債権回収の全体像をお伝えしました。
書き始めるとまだまだお伝えしたいことが山ほどあります。
仮差押え、支払督促、民事調停、弁護士会照会、、、などなど。
なのですが、まずはざっくり全体像ということで、①交渉、②訴訟、③強制執行の3ステップをご説明しました。
すこしでも債権回収のリアルなイメージづくりに役立てば幸いです(^^)

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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