これが内容証明の決定版だ

取引先が代金を払わない!

通常ならば請求書1枚で入金されるはずなのに、2回送っても3回送っても相手は払ってこない。債権回収の手段として請求書だけではどうにも効き目がないようだ。
このように債権回収問題に出くわしたとき、次の手段として「内容証明郵便」なら効果があるのでは、と思い浮かぶ方は多いと思います。
これまでもこのブログでは内容証明郵便を時々話題にしてきましたが、今回はその決定版!をロングバージョンでお届けします。

1. 内容証明郵便にはどんな効果があるか

内容証明とは聞いたことのある言葉ですが、そもそも「内容証明郵便」とは何でしょう。これを出すとどんな効果があるのでしょうか。
法律上は、「郵便局がこの内容の文書を送ったことを証明してくれる郵便」です。内容証明郵便(配達証明付き)が相手に届くと、相手は今後「そんな郵便受け取ってない」という言い逃れができなくなり、間違いなくその文書を送ったことが証明されます。
普通郵便や書留郵便などと異なり、「文書の内容」を証拠として残しておきたいときに、内容証明郵便は有効です。例えば、債権の時効消滅を止めたいときや、クーリングオフ通知を公に証明するときなどに、不可欠な手段といえるでしょう。

もっとも、債権回収の現場では、そうした法律的効果よりも、 「相手に強いプレッシャーを与える」という事実上の効果の方を期待できます。
内容証明郵便だと、普通郵便などとは違う正式なかたちで文書が相手に届くので、こちらの本気度が伝わり、相手に「これはちゃんと向き合わないとまずい」と思わせる効果を期待できます。

そのため内容証明郵便は、相手が、支払わないことに多少ともやましい気持ちや申し訳ない気持ちなどがある場合に、強い効果を発揮します。こういうときの内容証明郵便のプレッシャー効果は絶大です。とくに弁護士が代理人になって弁護士名で送ったりすると、即座に支払ってくる、あるいは返事をしてくる場合が多いです。
私が実際に扱った案件でも、弁護士名で内容証明郵便を送ると、一定程度の割合で相手が返事をしてきて、今後の支払合意に至り、債権回収の成功に至っています。

他方で、相手に支払う意思が全くない場合や、無視や逃げ切りを決め込んでいる場合は、相手はこちらからのプレッシャーなど鼻から気にかけていないので、内容証明郵便にあまり効果は期待できません。
また、相手が受け取りを拒否している場合や、行方が分からない(=送り先が分からない)場合にも、届けようがないという側面もあります。

ですので、債権回収トラブルで内容証明郵便を利用する場合は、その特徴や効果を理解し、相手のスタンスや感触をふまえて効果的に活用したいところです。

参考記事:債権回収-弁護士が伝える成功のポイント(内容証明)-

2. 内容証明郵便には何を書くか

債権回収で内容証明郵便を出すと決めたら、さて、何をどんなふうに書くべきか。
まず、最低限の情報として、どの契約の何の商品・サービスの代金を請求するのかが分かるように記載することが必要です。
とくに代金債権には消滅時効という、一定期間が経過すると権利が消滅する制度があり、債権者は自分の債権を放置しておくと時効で失ってしまうリスクがあります。この場合、内容証明郵便にて時効の進行を中断させておく必要があります。(その後6か月以内に裁判を起こす必要があります。)そのため、内容証明郵便では、いつのどの契約の何の商品・サービスの代金を請求しているのかが一目瞭然で分からなければなりません。

参考記事:払うって言ってたのに、時効だから払わないってあり!?(債権回収)

それを書いたら、次は、代金の支払方法です。
これについては、「1週間以内の支払を要求する。さもないと正式な法的手続に訴える」と厳しめ口調で書くのか、それとも「代金の支払方法について話し合いの機会を持ちたいです。ご連絡お待ちしています」と柔らかめ口調で書くのか、事案ごとに思案工夫をする必要があります。
一般的な書式集だと、厳しめ口調の前者の表現が多く使われているようです。
けれど、ここは実際に文書を読む相手が、その内容を実際にどう受け止めて、どう行動するか(きちんと債権回収問題に向き合ってくるか)に影響してくるので、紋切り型にせず、相手の考えや感情を推測しながら表現を決めたいところです。
例えば、明らかに不当な支払拒絶であり、しかも相手に支払う資金が十分ある場合は、厳しめ口調で攻め、他方、相手に支払意欲は見受けられるが、資金繰りが厳しそうであれば、柔かめ口調でもちかけて、分割でもいいから支払わせる方向にもっていく、などのような使い分けです。
そのため、私も、内容証明郵便作成のご依頼をいただく場合は、定型的な内容で済ますことはせず、これを相手が受け取ったらどのような行動を起こすかという感触や推測を、依頼者の方から必ずヒアリングして一緒に文言を決めるようにしています。

参考記事:内容証明郵便が届いた!回答期限が書いてあるけど、過ぎたらどうなる?

3. 内容証明郵便を出したら、次はどう進むか

さあ、実際に内容証明郵便を出しました。今後の動きはどう予想すればよいでしょうか。
相手から返事や反応があれば、交渉の始まりです。こちらとしては、どうして払わないんだという自分の気持ちがつい前面に出てしまいがちですが、そこはワンクッション置きたいところです。怒ったところで、相手からすれば「怒っている人」としか認識されません。交渉の目的は債権回収ですが、相手からすれば「債務の弁済」。どうやったら「払おう」という気持ちになってもらうか。しっかり相手の言い分を聞きだしたいところです。自分の気持ちや言いたいことはいったん抑えて、相手の言いたいこと、困っていること、不満に思っていることを話してもらいましょう。 「何言ってるんだ」という言葉が出そうになっても、いったんは自分の心をペンディングにして、相手の話を聞きましょう。そうすることで、相手も「自分の話を聞いてもらえた」という欲求がひとまずは満たされ、次の支払いへの話題に移りやすくなります。

参考記事:債権回収では何をするべきか(相手に支払意欲を起こさせる方法)

次に、反応がない場合はどうしたものか。
内容証明郵便が届いているのであれば、相手もこちらの文書を見たうえで、どうすればよいのか、次の行動に悩んでいるかもしれません。迷っている状態は、ある意味チャンスともいえます。債権者は「無視された」と怒りを増幅させずに、「もういちど揺さぶってみよう」と考えて、改めて手紙を送るのも有効です。1回目の内容証明郵便は届いているのだから、2回目は簡易書留程度でもよいかもしれません。
私の経験でも、2回目の郵便でようやく返事がきて交渉が開始できたケースが幾度かありました。相手としては、1回目の手紙はなんとか無視してみたけれど、2回目の手紙はさすがに返事をしなければまずい、という心理が働いたのだろうと思います。

それでも返事がない、あるいは返事はきたが意見が真っ向から対立していてらちが明かない場合はどうでしょう。
内容証明の与えるプレッシャー効果もなく、交渉のゴールとなる「合意」が見えないのであれば、次のステップに進むことを検討しなければなりません。話し合いの場を裁判所に移すのならば「調停」、判決を求めて裁判所に持ち込むのならば「訴訟」、裁判所以外の機関を用いたければ「ADR」…と複数のメニューから自分のケースにふさわしい制度を利用することになります。
自分の状態に適した手段が何であるのか、弁護士はじめ法律家のアドバイスも必要になってくるでしょう。

参考記事:これが債権回収の全体像だ

このように、内容証明郵便は、債権回収のはじめの一歩であると同時に、その後の行方を見極める大切な材料ともなります。
こんなふうに、内容証明郵便を債権回収の有力なアイテムとしてご活用いただければ幸いです(^^)

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