クライアントと一緒に答えを探しに行く(弁護士×ビジネスコーチの実践)

「どんなことのために起業したのですか?」

目の前で苦しそうな表情をしているクライアントのHさんに、私は尋ねました。
起業して半年、Hさんはビジネスパートナーと見込んだO氏と組んで、ともにビジネスを立ち上げてきました。

ところが、思った以上にO氏の要求は強い。
ああしろこうしろ、売上のいくらを自分に入れろ、自分の許可なく勝手に取引するなと要求は強まるばかりです。
そして、先日つきつけられたパートナーシップ契約書。
中を読むと、Hさんの自由はほとんどない。
これじゃ起業して社長だと名乗ったところで形ばかりだ。。。
上司に首根っこを押さえられていたサラリーマン時代と変わらないじゃないか。。。

かといって、起業後まもないHさんとしては、業界のノウハウに長けたO氏の協力は当分は必要です。
今のビジネスを自分一人で盛り上げていく自信は、今のところ、正直ありません。

つきつけられたパートナーシップ契約書にサインをするべきかどうか。。。
Hさんは私の前で苦しそうな表情をしていました。

どちらも法律的にはOKだけど。。。

法律的には、この契約書にサインをしてもサインをしなくても、どちらもHさんの自由です。
民法の大原則である「契約自由の原則」の下では、誰とどんな契約をしようと当事者の自由であって、そこに多少不利な内容が盛り込まれていたとしても、サインするかしないかは本人の自由です。

では、弁護士たる私はどうアドバイスすればよいのでしょうか。
私の経験と価値観に基づき、よかれと思ったやり方を選択し、「Hさん、ここはサインしておきましょう」とか、逆に「ここはやめておきましょう」という考えを示すべきでしょうか。
それとも「これは私が決めることではない。Hさんの方でよく考えておいてください」と本人に委ねるべきでしょうか。

これに関し、法律上のメリットデメリットの説明を弁護士から受けた後、最終的にどう決断するのかは、クライアント自身が決める事柄です。
本当の正解はクライアント自身が持っているのであり、他人が決めるものではないと言えます。

けれど、自分の中に正解があるからと言って、それがすぐに見つかるとは限りません。
自分はいったいどうしたいのか。何が自分の本当に納得のいく解決なのか、迷いは常にあるものです。
そのプロセスに、弁護士が、私が、どうかかわるべきか。

クライアントのための質問

そこで生きてくるのが「質問」です。
私が聞きたい質問ではありません。
クライアントが自分の中から答えを探し出すための質問です。

「そもそも何のために起業したのですか?」
「どんなことのために起業したのですか?」

たとえばこういう質問をすることで、
クラインアントは、自分のミッション、起業の目的、大切にしたいことをじっくり考え始めます。
自分のなかに正解を探しに行きます。

人は質問されると、答えを探そうと考え始めます。
それが自分に対する質問であれば、自分の中に答えを探し始めます。
どんな答えが出てくるのか、私にもわかりません。
むしろその答えを、クライアントと一緒に探しにいきます。

「仮に今、サインしたとしましょう。来年の今頃、後悔していますか?」
「仮に今、サインしなかったとしましょう。どんな困りごとがありますか?それは耐えられない困りごとですか?」

クライアントの表情を感じ取りながら、私は質問を続け、クライアントは自分の中の正解を探しに行きます。
やがて本当に大切なことを見つけ出し、そのために今どうするべきか、サインするべきかどうかを見極め、決断に至ります。

Hさんは決断しました。サインしないとのことです。
自分で出した答えです。本人が一番納得しています。

Hさんは、とても得難い時間だったと満足してご相談を終えられました。
私は質問し、傾聴し、伴走していただけです。
それでも、Hさんにとっては貴重な存在だったのでしょう。今後も引き続き相談をお受けすることになりました。

ビジネスコーチングというスキル

こうしたコミュニケーションは、「ビジネスコーチング」というスキルを身に着けることで可能になります。
弁護士が単に法律知識を与えるだけでは、クライアントにとっての本当の解決には至りません。
正確な法律知識をふまえて、クライアント自身が何を正解と考えるのか、どうしていきたいのか、どのような一歩を歩み始めるのか、そこが要です。それでいてその歩みは必ずしも一人でできるとは限りません。
スポーツ選手にコーチがいるように、クライアントにもコーチが必要です。
弁護士はそのようなコーチにならなければならないと思います。

私は弁護士のみならずビジネスコーチのスキルをもつことで、クライアントの問題解決の支援をしています。
ビジネスを前に進め、人生を前に進めるために、ぜひ自分自身に質問をしてみてください。
そして、私からもたくさん質問させてください(^^)

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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弁護士 波戸岡光太
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