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話がまとまる「聴く」スキル -信頼も、共感も、すべてはここから始まる
会議でも1on1でも、ちょっとした打ち合わせの中でも、
「伝えたはずなのに、うまく伝わっていない」「相手が納得してくれない」と感じた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
そんなとき私たちは、つい「説明の仕方が悪かったのかな」「もっと論理的に話せばよかった」と、自分の“話す力”に目を向けてしまいます。
しかし、意外な盲点として見落とされがちなのが、「聴く」側の姿勢や技術です。
実は、相手の“聞いてもらえた”という実感が、信頼や納得の前提になるのです。
目次
「聴く」ことから、すべてが始まる
人には、「自分の話をきちんと聴いてほしい」という根源的な欲求があります。
これは心理学でいうところの「承認欲求」の一部であり、職場においても例外ではありません。
たとえば、部下が上司に何かを相談するとき、その目的が「解決策をもらうこと」だと思いがちですが、実際には「まず話をきちんと聴いてほしい」「わかってほしい」という感情がベースにあります。
この感情が満たされないと、いくら正しいアドバイスをしても、相手はそれを受け取ろうとしません。
だからこそ、「聴く」ことがすべての出発点になるのです。
「聞く」と「聴く」は、まったく違う
よく似た言葉に見える「聞く」と「聴く」ですが、その意味は大きく異なります。
「聞く」は、耳を開いて受け身で情報を受け取る行為です。
たとえば、相手が話している間に、頭の中では別のことを考えていたり、返す言葉を先回りして考えていたりする。
実際、人は話し手の話すスピードよりもずっと早く情報を処理できるため、空いた認知スペースに余計な思考が入りやすい構造になっています。
一方で「聴く」は、耳だけでなく、目や表情、そして心を使って、相手を“積極的に受け入れようとする”行為です。
・相手の話に興味や関心を持って聴く
・身振りや視線、語調など、非言語的な情報もくみ取る
・自分の判断や反論を一旦脇に置いて、ありのままを受け止める
こうした姿勢が伝わると、相手の話すペースや深さも自然と変わってきます。
「聴く」ことが信頼を築く3ステップ
「聴く力」は単なるマナーや優しさではありません。
対話のなかで信頼関係を築き、協力関係をつくるためのプロセスそのものです。
Step1:「この人は自分の話を聴いてくれる」
話をさえぎられず、きちんと最後まで聴いてもらえるだけで、人は「受け入れられた」と感じます。これにより、承認欲求が満たされ、心が開かれやすくなります。
Step2:「この人は自分のことを理解してくれる」
ただ言葉を拾うのではなく、背景や意図をくみ取ってもらえると、「この人は本気で分かろうとしてくれている」と感じます。この時点で、相手との心理的距離が一気に縮まります。
Step3:「この人が言うことなら受け入れてもいい」
理解してくれた人の言葉だからこそ、相手は警戒を解き、あなたの意見を受け取る準備ができます。ここで初めて、「伝える」「説得する」ことが意味を持つようになります。
多くのコミュニケーション不全は、このStep1と2を飛ばして、いきなり3に進もうとしてしまうことで起きています。
話を遮らず、うまく“割って入る”技術
とはいえ、話の中で「ちょっと待って」と言いたくなる場面、ありますよね。
でも、そこでいきなり遮ってしまうと、相手は「聞いてもらえなかった」「否定された」と感じ、話す意欲を失ってしまうことがあります。
重要なのは、“話を止める”のではなく、“リズムをつかんで割り込む”ことです。
たとえば…
- ・小さく低い声で「あのう……」と入る
⇒ 強引に割って入るよりも、相手の流れを乱さずに発言のきっかけが作れます。 - ・「ここは大事なところなので…」と一言添える
⇒ 相手の話を尊重していることを伝えつつ、自分の話にも注意を向けてもらえます。 - ・「見落としがあってはいけないので…」と理由づける
⇒ 論破や否定ではなく、話し合いの精度を高めたい意図であることを明示できます。
これらの言い回しは、相手との信頼を壊さずに、議論の質を保つ潤滑油のような役割を果たします。
論理を支える“思い”に触れる
誰かの主張を聞いたとき、それがたとえ自分と違っていても、その主張の奥にある「背景」や「価値観」まで見にいけると、対話は一段深くなります。
「なるほど、もしかしたらこういう考えを大事にされてるのかもしれないですね」
と問いかけてみると、相手はびっくりしつつも、「そこまで見てくれたんだ」と感じるものです。
これがまさに、「共感」の力です。
- ・同調:相手と同じ意見や態度になる「状態」。相手に合わせるもの。
- ・同情:相手を可哀そうだと思う「感情」。湧いてくるもの。
- ・共感:相手の感情や経験などを理解する「能力」。身につけるもの。
共感力とは、「相手の靴を履く」こととも言われます。その人の立場だったら自分はどうだろうと想像してみる知的作業です。
ただし、そのためにはまず自分の靴(=先入観や価値観)を脱ぐ必要があるというのが大切なポイントです。
共感力は、話し合いの合意形成を支える
会議でも1on1でも、「納得してもらう」には、まず「わかってもらえた」と思ってもらう必要があります。
相手の感情や立場を理解しようとする共感のプロセスが、話し合いの“土台”になります。
そのうえで話すからこそ、意見はすんなりと届き、衝突のない合意形成が可能になります。
最後に
「聴く」という行為は、日常の中ではあまり注目されることがありません。
けれど、信頼・共感・合意形成―すべての根底には“良い聴き手”であることが必要不可欠です。
伝えたいことがあるなら、まずは聴くこと。
話をまとめたいなら、まずは相手の話に耳を傾けること。
その丁寧な一歩が、チームの関係性を変え、話し合いの質を変えていきます。
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
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弁護士 波戸岡光太
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