社員が「うつ病」と診断されたとき、経営者はどう対応すべきか―配慮と経営判断を両立させるために-

「社員から、うつ病と診断されたと聞かされました。会社として、どう対応すればよいでしょうか」

労務管理の相談の中でも、このテーマは経営者の表情が一気に曇る話題です。
・強く言ってはいけない気がする。
・でも、何も言わないわけにもいかない。
・周囲の社員への影響も、正直、気になっている。

多くの経営者が、「配慮しなければ」という思いと、「経営として判断しなければ」という責任の間で、身動きが取りづらくなっています。
大切なのは、善意だけでも、法律だけでもなく、冷静に整理しながら対応することです。

「うつ病の社員対応」で、経営者が混乱しやすい理由

社員から「うつ病です」と言われた瞬間、経営者の頭の中では、さまざまな疑問が一気に浮かびます。

・今後、業務の話をしてよいのか
・注意や評価をしたら問題になるか
・出勤できないと言われたら、どう判断すべきか

この混乱の大きな原因は、医療の話と、会社の判断の話が混ざってしまうことです。
会社は、病気を治す立場でも、診断を下す立場でもありません。
会社が向き合うべきなのは、「この状態で、どのような働き方が可能なのか」という就労の問題です。
ここを切り分けて考えられるかどうかで、対応のしやすさは大きく変わります。

「うつ病=何も言えない」という誤解が、対応を難しくする

実務でよくあるのが、「うつ病と聞いた以上、もう何も言えない」という思い込みです。その結果、
・業務の指示を出せなくなる
・状況確認も避けてしまう
・本人の言うことをすべて受け入れてしまう
といった対応になりがちです。

しかし、配慮が必要であることと、会社としての判断を放棄することは別です。
業務上の必要な連絡や、働き方の整理まで避けてしまうと、かえって本人の不安を強めることもあります。
大切なのは、「何を言ってはいけないか」ではなく、「どのように整理するか」と「どう伝えるか」です。

うつ病の社員対応で押さえておきたい3つの視点

① 医療判断と会社判断は、役割が違う
うつ病かどうか、どの程度の治療が必要かは、医師の判断です。
一方で、どの業務を任せるか、勤務時間をどうするか、休職や復職をどう考えるかは、会社が判断する領域です。
医師の診断書や意見書は、あくまで重要な参考資料ですが、そのまま会社の結論に置き換える必要はありません。
「医師がこう言っているから、会社は従うしかない」と考えてしまうと、判断の軸を失いやすくなります。

② 「できないこと」だけでなく「できること」を丁寧に探る
うつ病の社員対応では、どうしても「無理をさせてはいけない」という視点が先に立ちます。
もちろん、それは重要ですが、同時に、今は何が難しいのか、条件付きなら可能な業務はあるか、勤務時間や場所を調整すればどうかといった、できる範囲の整理も欠かせません。
これは無理に働かせるためではありません。選択肢を増やし、先の見通しを持つための作業です。
整理されないまま時間だけが過ぎると、会社側も、本人も、不安だけが膨らみやすくなります。

③ 周囲の社員への影響を、意識的に見る
うつ病の社員対応は、当事者への配慮が中心になりがちですが、周囲の社員の存在を忘れてはいけません。
業務が特定の人に集中していないか、「あの人だけ特別」という空気が出ていないか、管理職が疲れ切っていないかなど、こうした事柄を放置すると、別の不満やトラブルが静かに広がっていきます。
経営者としては、個別配慮と、組織全体の納得感のバランスを常に意識する必要があります。

休職対応は「善意」だけで決めない

うつ病と聞くと、すぐに休職を考えるケースも多いです。
休職は、社員を守るための大切な制度ですが、自動的に認めるものでも、無期限に続くものでもありません。
就業規則にどう定められているか、休職期間はどれくらいか、復職の判断基準は何かといった事を整理せずに進めると、後々の判断が難しくなります。
「今は言いにくいから」「かわいそうだから」という理由だけで進めると、結果的に誰も楽にならないケースも少なくありません。

復職対応でつまずきやすいポイント

復職の場面は、うつ病の社員対応の中でも、特に慎重さが求められます。
多いのが、
・本人は復職したいと言っている
・会社側は不安を感じている
・何を基準に判断すればよいか分からない、という状態です。

ここで重要なのは、復職=元通りではないという認識です。
・段階的な業務復帰
・業務量や役割の調整
・定期的な状況確認
こうした前提を共有しないまま復職させると、再び不調になり、同じ問題を繰り返しやすくなります。

弁護士×コーチングという関わり方

うつ病の社員対応では、法律論だけで割り切るのも、気持ちだけに寄り添うのも、どちらも難しい。
そんななか、私が大切にしているのは、法的に守るべき枠組みを整理し、経営者の思考を整理し、本人に何を伝え、どこで線を引くかを一緒に考えるという関わり方です。
経営者自身が整理されると、対応がぶれにくくなり、結果として現場の混乱も小さくなります。

うつ病の社員対応に迷ったら、弁護士に相談を

うつ病の社員対応は、単なる労務のテクニックではありません。
何を大切にするのか、どこまで配慮するか、組織として、どうありたいか
こうした経営の姿勢が、自然と表に出るテーマです。
一人で抱え込まず、法と対話の両面から整理することで、経営者自身を守りながら進めることができます。

社員のうつ病対応に不安がある場合は、ぜひご相談ください。
「相談するほどではないかもしれない」
そう感じる段階こそ、実は適切なタイミングです。

・判断に迷っている
・対応がこれでよいのか確信が持てない
・将来のリスクを減らしたい

このような状況であれば、一度整理しておくことをおすすめします。
企業を守ることと、社員への適切な配慮は両立できます。
そのための現実的な道筋を、私は経営者の方と一緒に考えていきます。

また、Q&A集も作りましたので、ご参考になれば幸いです。

うつ病の社員対応 Q&A-経営者が知っておきたい15の視点

Q1 社員から「うつ病と診断された」と言われました。まず何をすべきでしょうか?

A 慌てて結論を出さず、状況整理から始めることが大切です。
現在の勤務状況、どの業務が負担になっているか、本人が困っている点を確認し、就労との関係を整理することが第一歩になります。

 

Q2.「うつ病」と聞いた以上、業務の話は一切してはいけませんか?

A その必要はありません。
うつ病であっても、業務上必要な連絡や確認まで避ける必要はありません。
重要なのは、言い方、内容、タイミングです。業務と人格を切り分けて伝えることが、トラブル防止につながります。

 

Q3.医師の診断書が出たら、会社は必ず従わなければいけませんか?

A.診断書は重要ですが、最終判断は会社が行います
診断書や意見書は、就労判断の大切な参考資料ですが、業務内容、組織体制、他の社員とのバランスを踏まえた判断は、会社の責任領域です。

 

Q4.うつ病の社員には、評価や指導をしてはいけませんか?

A.一切できなくなるわけではありません。
ただし、感情的な表現や人格評価は避ける必要があります。業務内容・事実・期待水準に限定した整理であれば、評価や指導が直ちにNGになるわけではありません。

 

Q5.本人が「働ける」と言っていますが、会社として不安があります。

A.本人の意思だけで判断しないことが重要です。
働きたいという意思は尊重すべきですが、会社としては、業務への影響、再発リスク、周囲への負担も考慮する必要があります。段階的な対応や条件付きの整理などは現実的な選択肢になります。

 

Q6.うつ病の社員には、どこまで配慮すればよいのでしょうか?

A.配慮は必要ですが、会社の運営が成り立たなくなるほどの対応は求められていません。合理的な範囲での配慮を、会社としてどう考えるかがポイントです。

 

Q7.休職は、本人が希望すれば必ず認める必要がありますか?

A.いえ、休職は、就業規則や社内制度に基づいて判断されます。休職要件、期間、復職の考え方を整理しながら進めましょう。

 

Q8.休職中の社員とは、どの程度連絡を取るべきでしょうか?

A.頻度や内容には配慮が必要ですが、会社制度の説明、今後の流れの共有など、事務的・必要最小限の連絡は問題ありません。むしろ、完全に連絡を断つ方が不安を高めることもあります。

 

Q9.復職の判断は、何を基準に考えればよいですか?

A.「元に戻れるか」ではなく、「どこから再開できるか」です。
復職=完全復帰と考えると、無理が生じやすくなりますので、業務内容、勤務時間、役割を段階的に整理することが重要です。

 

Q10.復職後、再び不調になった場合はどう考えるべきですか?

A.再発は珍しいことではなく、想定の範囲内として整理することが大切です。
そのためにも、記録、面談内容、対応経緯を残しておくことが、次の判断を助けます。

 

Q11.他の社員から「不公平だ」という声が出ています。

A.うつ病の社員への配慮が、周囲の不満につながっている場合、組織全体のバランスが崩れ始めているともいえます。個別配慮と全体の納得感を同時に考える視点が欠かせません。

 

Q12.管理職が対応に疲れ切っています。どう考えるべきでしょうか?

A.うつ病の社員対応は、管理職に大きな心理的負担をかける経営課題でもあります。経営として、判断の軸や相談先を用意しておくことが重要です。

 

Q13.対応内容は、どの程度記録に残すべきですか?

A.感情ではなく、事実を淡々と残すことが重要です。
日時、伝えた内容、本人の反応などを簡潔に記録しておくことで、後から対応を振り返りやすくなります。

 

Q14.弁護士に相談するのは、どのタイミングがよいでしょうか?

A.トラブルが深刻化する前が理想です。
「もう限界」という段階では、選択肢が狭まっていることもあります。早めの整理相談が、結果的に負担を軽くします。

 

Q15.うつ病の社員対応で、経営者が一番大切にすべきことは何ですか?

A.一人で判断を抱え込まないことです。
うつ病の社員対応は、労務対応であると同時に、経営判断の問題です。法と対話の両面から整理することで、経営者自身を守りながら、現実的な対応が見えてきます。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

経歴・実績 詳細はこちら
波戸岡への法律相談のご依頼はこちら

著書紹介

『論破されずに話をうまくまとめる技術』

『論破されずに話をうまくまとめる技術』

”論破”という言葉をよく聞く昨今。
相手を言い負かしたり、言い負かされたり、、、
でも本当に大切なことは、自分も相手も納得する結論にたどりつくこと。
そんな思いから、先人たちの知見や現場で培ったノウハウをふんだんに盛り込み、分かりやすい言葉で解説しました。

本の詳細はこちら

『ハラスメント防止と社内コミュニケーション』

『ハラスメント防止と社内コミュニケーション』

ハラスメントが起きてしまう背景には、多くの場合、「コミュニケーションの問題」があります。
本書は、企業の顧問弁護士として数多くのハラスメントの問題に向き合う著者が、ハラスメントを防ぐための考え方や具体的なコミュニケーション技術、実際の職場での対応方法について、紹介しています。

本の詳細はこちら

『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』

『弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル』

経営者が自分の判断に自信をもち、納得して前に進んでいくためには、経営者に伴走する弁護士が、本音で対話できるパートナーであってほしいです。
本書では、経営者に寄り添う弁護士が身につけるべきコミュニケーションのヒントを数多く解説しています。

本の詳細はこちら

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674