顧問弁護士物語 -債務者の責任感をうまく引き出す債権回収-

お金にまつわる企業間トラブルは、当事者同士のみでは対処が難しい問題の一つです。
今回の記事は、そんな金銭トラブルの中でも「債権回収」について、弁護士がどのように問題を解決していくのかを小説仕立てでお伝えします。

「支払いますから」と言われ続け1年。滞納にどう立ち向かう?

先日、私がプライベートでも仲良くしている経営コンサルタントのAさんから依頼の電話がかかってきました。
相談内容は「毎月のコンサル料を1年間滞納されており、なんとかして滞納分を回収したい。」というものでした。

彼はOA機器営業会社(O社)と月10万円でコンサルティング契約を結んでいました。
しかし、次第にコンサルティングフィーが振り込まれなくなってしまい、気づけば1年間の滞納になってしまいました。

1年間も滞納状態が続いているにも関わらず、私へ相談するのが遅くなってしまったのには理由があります。
それは、これまでに何度もAさん自身がO社に対して「お約束していた金額をこの日までに払ってくださいね」と催促しており、そのたびにO社からは「すみません、払います。ちゃんとお支払いしますので少し待っていてくれませんか」という返事をもらっていたからです。
支払約定書の取り交わしを要求したこともあり、その時もO社は「ご迷惑をおかけしてすみません」と素直に謝罪し、すんなり約定書の方にもサインをしたそうです。

ですが、いずれの催促も意味はなく、期日を過ぎても振込はありませんでした。
AさんがO社に「お支払いの件はどうなったでしょうか」とメールを送ると「すみません、すぐ対応します」という返事は来るものの、そのまま流されてしまうのです。
挙げ句の果てには「まだお支払いが済んでいないところ申し訳ないのですが、相談したいことがございまして……」と、今まで通りAさんにコンサルティングを頼み続ける始末でした。

「金額がどうとかいう問題というより、あまりにも相手の対応は誠意に欠けると思うんです。苦しい事情が向こうにある、とかであれば私も請求しませんが……今回は波戸岡先生にお願いしたいです。滞納になってからもO社は営業しているようなので、一括は無理でも分割であれば払えるんじゃないかと思っています。このままずるずると、それこそなあなあで終わらせたくないんですよね」

Aさんは温厚な人柄でクライアント思いなので、頼まれると滞納されても対応してしまう優しさがありました。しかし、それではずっと問題は解決できないしキリがないと思い、私に相談されたのです。

「そういうことでしたら、まずは内容証明から取り掛かりましょう。Aさんが弁護士をつけてしっかり滞納分の請求をしますよ、という本気度を真っ先に伝えられるのが内容証明ですからね。それで相手の反応を探ってみましょう」

「わかりました、お願いします」

一般的に、内容証明を送った相手からの反応は大きく3つあります。
・びっくりしてすぐ連絡してくる
・無視をきめこむ
・相手も弁護士に依頼し、対応してくる
まずは相手がどのタイプなのかを知ることでその後の対応が変わってきます。

今回のケースでは、内容証明をO社に送ったところ、こちらが設定した一週間という期限内に電話がかかってきました。
ふだんから返事はいいけど、なかなか払ってこない今回のようなタイプは、こちら側のアクションに対してはレスポンスする傾向にあるため、この反応は想定通りでした。
相手の返事は、
「内容証明を受け取りました。お支払いさせていただく所存ではありますが、少し待っていただけないでしょうか。申し訳ありません」
というものでした。

このようなことを言ってくる相手の場合、
・先延ばしにすることに慣れているのか
・弁護士から連絡が来て、本当に申し訳ないと思っているのか
どちらのタイプなのか、見極めが必要になります。
今回のケースはちょうど両者の中間に位置しているのではないかと感じました。
「申し訳ないという気持ちもしっかり持っているものの、泣き言を言えば許してくれるかもしれない」と思っている節が、相手の声のトーン、口調の速さなどから見え隠れしていたのです。

内容証明を送った後、波戸岡ならどうする?

私は一度、O社の社長に会っておきたいと思いました。
それもAさん抜きで、私とO社社長の2人で会う場が必要だと考えていました。
それは、私自身も相手の人間性を知ることで「どういう条件であればお金を返すタイプなのか」を見極めたかったからです。そのため、O社社長とコンタクトを取り、後日会うことになりました。

当日会ってみると、メールや電話での対応から想像できたとおり、一見普通の方でした。だからこそ私はじっくり観察を行いました。

普段の仕事はそれなりに真面目な雰囲気で取り組んでいるようですが、私の前に座っている社長はどこか上の空というか、この目前に迫る場をなんとかして切り抜けたいという雰囲気を、些細な所作と言葉の端々から感じ取りました。

この日得た相手への印象は、率直にいうと「相手の言葉を真に受けても滞納分を払ってこない可能性がある」というものでした。

かといって弁護士が問題解決のために介入したからには、Aさんがこれまでしてきたような支払催促とO社の不誠実な対応を繰り返させるわけにはいきません。
そこで、社長の言うことをうのみにはしないものの、彼のプライドも立てるような紳士的態度で接しました。相手に「自分は滞納している身なのに、波戸岡はこちら側の言い分も尊重してくれ、話をしっかり聞いてくれた。そうであればちゃんと払っておきたいな」と思わせ、支払いのモチベーションを持たせるように働きかけたのです。

一般的に債権回収の交渉の場では、「早く払ってくれ!」などとつい高圧的な態度を取りたくなってしまいますが、責められっぱなしとなる相手の立場に立つと、かえって支払いの気持ちが削がれてしまうリスクがあります。
私が社長のことを観察したのと同様、相手もこちらを観察し、様子を伺っています。そのため、相手との接し方には細心の注意が必要です。

そのことを踏まえ、私は社長にこう伝えました。
「こちらとしては一括でお支払いして頂きたいと考えていますが、そちらにも事情があるようですので、無理のない金額を教えていただけますか?」

相手の事情も考慮する姿勢を見せることで、相手も現実的な問題解決のための返答をしてくれるようになります。
もしこちらが勝手に「月々10万円払ってくださいね」と設定してしまうと、かえってその約束は破られやすくなる傾向があります。これは金額の問題ではなく、他人に一方的に決められた事柄というものを、人は守りたくないと感じる傾向にあるためです。
逆に、相手が自分で決めて提案した額の場合は、自分で言った以上は約束を守ろうじゃないかと考える傾向にあります。そのため、私はこのような問いかけをしたのです。

「本当に申し訳ありません…。月々5万円のお支払いでお願いしたいです」
社長はそう答えました。
この減額はこちらが事前に想定していた金額でしたので、その場で承諾しました。

債権回収の交渉に臨むに先立っては、
・いくらまでなら減額できるか
・月々いくら以上の支払いであれば受け入れられるか
を弁護士とクライアントでしっかり話し合っておく必要があります。
今回のケースについても、交渉を承諾する額についてAさんと予め決めていたため、スムーズに話を進めることができました。

そして、もう一つこちらから切り出したことがあります。
「社長の個人名で連帯保証人になっていただけませんか?」
と私はお願いしました。

「えっ、どうして私が連帯保証人にならないといけないんですか。契約したのは会社ですけど」
社長はそう聞き返しました。

「本来であれば一括でお支払い頂くところを、月々の分割ということで当方は承諾しました。分割でお願いしますということは、つまり私を信用してくださいというメッセージですから、その責任感を形に表すならば、それは連帯保証を受け入れるということでもあるはずです」

私がこのように説明すると、納得した様子の社長はすんなり連帯保証を受け入れました。
自分の口で「5万円を月々支払っていきます」と約束していながら、連帯保証を嫌がるとすれば、それは実際のところは責任を取りたくないんだという矛盾した気持ちの表れにつながります。
ですので、場当たり的な回答をさせないためにも、連帯保証の話を持ち出すのは有効な手段といえます。

加えて、私は支払口座として私の預かり金口座を指定し、入金が確認できなければすぐ私の方から連絡することも伝え、これも効果的でした。
弁護士から頻繁に連絡がきて嬉しい人なんていませんからね。

交渉を終えた後、Aさんに「O社の社長が支払いに合意しましたよ」と報告したところ、とても喜んでいただけました。
とくに満額支払いの約束を取り付けられたことと、連帯保証をつけられたことが心強く、満足のいく結果だったとおっしゃっていただけました。

その後、現在まで支払いは滞りなく行われています。

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ビジネスコーチング弁護士 波戸岡光太
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