業務委託契約書のチェックポイント

日頃、中小企業の顧問弁護士としての取り組みの中で、
「業務委託契約書のリーガルチェックをしてほしい」
というご相談をよくいただきます。

“業務委託契約”は、業界を問わずよく耳にする契約の一つです。
サイト運営委託や販売委託、製造委託などが「業務委託契約」として結ばれることが多いです。
もっとも、よく耳にする契約の割には、あいまいな理解のままにハンコを押してしまう方が多いです。
それが原因で、期待した仕事をきちんとしてくれなかったり、よかれと思って仕事をしたのに対価をもらえなかったりというトラブルがしばしば起きています。
そこで今回は、押さえておきたい業務委託契約書の基本について、お話しいたします。

業務委託契約書の基本ポイント

業務委託契約とは、「委託」とあるように、一定の仕事を他の業者や専門家に任せる契約です。
発注者は、お金を払って一定の仕事や業務をお願いし、
受注者は、一定の仕事や業務を提供することで、対価としてのお金をもらいます。

“餅は餅屋”というとおり、一定の仕事を適切な業者や専門家に依頼することで、発注者は自社の業績を上げたり、リスクを回避できるメリットを受けられます。
他方、業者や専門家は、顧客にしっかりとしたサービスを提供することで、その対価を得ることができます。

この契約の基本ポイントは、
・「どんな仕事」をお願いするのかと
・「どんな報酬」を払うのか、の2つを明確にしておく
ということです。

依頼する「仕事」と、支払う「報酬」の2つが、それぞれ両当事者を結ぶ橋になるので、
この2つが両当事者にとって明確でなければ、行き違いが起きてしまいます。

もう少し丁寧に言いかえると、
・「業務の内容と範囲」と、
・「報酬の決め方」の2つを明確に定めておく必要があります。
この2点さえ明確になっていれば、業務委託契約書の基本はおさえたことになります。

問題が起こりやすい業務とは

問題が起こりやすいのは、
マーケティングリサーチ、コンサルティング、ライター、サイトの運営など、コア(中核)となる業務は明確でも、コア業務の周辺業務がぼんやりとしているような業務です。
どこまでがリサーチやコンサル、ライティングやサイト運営の業務に含まれるのかということです。
このような場合、発注者と受注者の間の認識に食い違いが生まれる可能性があります。

ここでライター業務の委託契約書を例に解説してみましょう。

第1条(委託業務)
甲(発注者)は、乙(ライター)に対して、以下の業務を委託し、乙はこれを受託する。
① 甲の発行する雑誌Sに掲載する原稿の作成
② ①に伴う取材写真撮影その他の業務

「原稿の作成」は分かります。
問題は「その他の業務」です。「その他」とか「など」という言葉は便利で使われやすいのですが、内容が明確でないためトラブルの原因になりかねません。

ライターからすれば「これは本来業務外だけど、特別にサービスでやってあげたこと」が、発注者からすれば「業務内で当然にやってもらう仕事」と思われるかもしれません。

例えばこのライターに、「写真撮影業務のためのスタジオを探してくれませんか?」という依頼が入ったとします。
これは「①に伴う取材写真撮影その他の業務」にあたるでしょうか。
ライターからすれば本来業務から外れると考えたいですし、発注者からすればそれも込みでしょうと思いたくなるところです。

我々にありがちなのが、「これは特別にサービスでやってるんだけど…」と “心の中で”思いながらも、相手に告げずにやってしまうことです。
“言わなくても分かるよね”、“フツーなら”そうでしょ、という遠慮と甘えが入り込んでしまうのです。
けれど“フツー”は通じないというのは、これまたよくあることです。

サービスだと思って実際にやったところで、相手にとっては、むしろそれが当然と認識されてしまう、むしろやってくれるのが“フツー”だと思われることが多いです。

ですから、契約書に曖昧な表現や解釈が必要な文言がある場合は、言いづらくても業務を「始める前」に確認することが重要です。お互いの認識を“見える化”して“共有”しておくのです。
そうでないと、「よかれと思って」が相手に伝わらず、「やって当然」の業務にされてしまいます。

民法には業務委託契約という契約は存在しない!?

実は民法のどこを見ても業務委託契約という言葉は存在しません。
業務委託と関連するものとしては、〈請負契約〉か〈委任契約〉があるだけです。

請負契約とは、仕事の“完成”を約束する契約
委任契約とは、仕事の“提供”を約束する契約です。

例えるなら、
大工さんが「家を建てる」ような、完成に意味がある契約が請負契約で、
コンサルタントが「毎月の相談に乗る」ような、サービスに意味がある契約が委任契約です。

業務委託契約の中でも、先ほどのライター契約は、記事という完成品を納品するので請負契約ですし、私のような顧問弁護士との契約は委任契約となります。

業務委託契約は、この請負契約か委任契約のどちらかであったり、混じり合っている契約といえます。
大切なのは、その業務委託契約が請負なのか、委任なのか、はたまた混じり合っているのか、という認識を先方と共有することです。
そうすることで、仕事の範囲と責任が明確になります。

「こう書いたから大丈夫」という魔法のフレーズはない!?

取引をスタートするときは、「お互い頑張りましょう!」というポジティブな勢いで業務委託契約書にサインをしがちですが、
発注者が「求めている仕事」と、
受注者が「求められている仕事」とが一致するように、
仕事の内容と範囲を明確にしておかなければなりません。

契約書に業務内容を細かく記載することで、ある程度仕事の線引きをはっきりさせることはできます。
もっとも、いきなり契約書に落とし込む前に、考えうるこの先の業務内容を洗い出して、お互いに確認するという過程を経ることで、思い違いや行き違いを防ぐことができ、ご自身を守り、先方との信頼関係を築くことにつながります。
そして、契約外の業務については、別料金が発生することを事前にはっきりとさせておくことも可能になります。

業務委託契約書に関しては、テンプレートも簡単にネット上で手に入りますし、作ろうと思えば簡単に作れます。
しかし、「何をお願いするのか」はご自身にしか分かりません。
テンプレートの業務委託契約書を利用して満足せず、ご自身が求められている業務を洗い出してみましょう。

もちろんご相談いただければ、速やかに契約書のチェックを行わせていただきます。
さらっと交わしがちな業務委託契約書ですが、一度立ち止まって見直す機会を作られるとよいかもしれません。

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
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