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セミナー講師契約書のリーガルチェックポイント
研修やセミナー講師のニーズは高く、講師(講師側企業)と開催側企業とが契約して社員向けのセミナーをしたり、一般市民向けのセミナーを開催することは頻繁に行われています。
開催方法は、会場内でライブで行われることもあれば、オンラインや動画でセミナー講義を配信することもあるでしょう。
セミナーや講義には多くの資料やノウハウが含まれており、こうしたセミナー講師契約書について注意するべきリーガルチェックポイントを整理してみました。
1 セミナーの「範囲」を明確にする。
セミナーの開催時間や開催回数については、明確に定めるのが通常でしょう。
それに加えて、セミナー後の質問対応や添削、その他個別のアフターフォローなどが想定される場合は、どこまでを契約内のサービスにするのか、具体的には、メールでのフォローは何回までとか、質問対応はいつまで行うとか、その範囲を明確に定めるようにしましょう。
そうすることで、依頼する側もされる側も対応範囲が明確となり、「当然にやるべきでしょ」という受入企業側の思いと「どこまでやればいいんだ」といった講師側の思いとのミスマッチを防ぐことができます。
2 「著作権の所在」を明確にする。
セミナーでは、多くの資料が配られたり投影されたりします。これら資料の著作権はじめ知的財産権が、講師側と開催企業側のどちらかに帰属するのか、明確に定めておきましょう。
当初より講師側が作成したものであれば講師側に帰属することが多いでしょうし、共同でセミナー開発した場合や分担して資料を作成した場合には、その取り決めをしておく必要があります。
そうすることで、セミナー開催後の資料の扱いなどについて、権利者側がコントロールを効かせることができます。
また、契約書で取り決めをするだけではなく、配布資料に「©」や「Copy Right」といった印字をしたり、パソコンからプリントアウトができない設定にしておくなどの物理的・技術的措置も検討する必要があります。
そうすることで、実際に資料を扱う人への意識づけをして、契約書の内容を現場レベルにも浸透させることができます。
3 「実費の扱い」を定める。
セミナーの対価が定められることは通常でしょうけれど、そこに各種実費が含まれるのかも定めておきましょう。
とくに交通費については、同じ都道府県内での移動もあれば、飛行機・新幹線や宿泊を伴う移動が必要な場合もあるでしょう。一定額まではセミナー代に含まれるけれど、一定額を超える場合は別途支給にするとか、別途協議により定める、などとしておくとよいでしょう。
そうすることで、「ほんとは請求したいんだけどな」という講師側の不満や、「実費は当然ご自身でもつでしょう」という受入企業側の思いのミスマッチを防ぐことができます。
セミナー講師のトラブル事例
【CASE1 セミナー資料の著作権についてのトラブル】
セミナー開催企業と講師Aさんが共同で作成したセミナー資料について、これまでの自分の知見が盛り込まれた資料だと考えたAさんが、別のセミナーでもこれを使用しました。
すると、それを知った開催企業から抗議を受けました。契約書では「著作権は共有とする」とされていたため、Aさん開催企業の許可なく資料を使うことができないとのことでした。
◎著作物の共有とは
複数の者が協力して資料を作った場合、対等で公平な関係でいたいという思いから、著作権を「共有」にすると契約書に定めることは少なくありません。
しかしこれが意外と“くせもの”でして、「共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない」という規定が著作権法65条に定められているのです。
同じ条文に、各共有者は「正当な理由がない限り」その合意を妨げることができないということも定められてはいますが、自由な使用に共有者の合意が必要となる点では“あしかせ”になりかねません。
◎アドバイス
契約書に「共有」と明記されていた場合には、開催企業の主張は正しいので、講師Aさんとしては、開催企業の合意を得る必要があります。もし開催企業の合意拒絶に「正当な理由がない」場合は、それを示していく必要があります。
そうならないように、複数人で著作に当たる場合は、事前の話し合いで、あらかじめどの範囲で利用許諾を与え合うのかについての取り決めをしておくことが望ましいです。
【CASE2 セミナーの範囲が不明確なことによるトラブル】
Bさんはセミナー会社と契約を結んで、定期的なセミナー講師の案件を受けました。
事前に聞いていた話としては、毎回のセミナー後、30分程度の質疑対応があるとのことでした。
ところが実際始めてみると、30分では収まらず、1時間から1時間半程度延長することが度々ありました。けれど受講生のためにと思い、Bさんは精一杯対応していました。
すると次第に熱心な参加者が増えてきて、Bさんは答えられる範囲では対応していたものの、やりとりの数が増えてきて手一杯になってきてしまいました。最近はメールでの対応にも追われています。
そこでセミナー会社に対応を求めたものの、「リピーターになる可能性があるから引き続き対応してくれ」と回答されてしまいました。
Bさんは、「これは契約範囲を超えているので追加報酬を払ってほしい」と申し入れたけれども、セミナー会社は取り合ってくれる様子がありませんでした。
◎アドバイス
セミナー後の質疑対応について、どのような時間や方法を想定してセミナー会社とやりとしをしていたのか、契約書やメールなどに履歴が残っていないかを確認しましょう。
また、実際の稼働時間や内容も証拠として示せるようにしておきたいところです。
その証拠をもとに、セミナーの契約条件や勤務条件を見直した契約書の結び直しを打診するようにするとよいでしょう。契約の更新時期が近ければ、そのタイミングで協議を行うのも選択肢のひとつです。
まとめ
集客力のあるセミナー会社ほど、その立場は強くなりがちで、講師にとっては不平等とも思える契約内容になっていることがままあります。
一方、セミナー講師は仕事がなくなるのは嫌ですから、何も言えていないケースも多いです(もちろん立場の強弱に関わらず、フェアな契約が結ばれている例も多いです)。
しかし、最初からあきらめるのではなく、少しでもフェアな契約条件を求めて、協議を申し入れたり、契約を見直すことは十分に検討に値します。
セミナー契約でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
2023.3.10更新
ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ
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弁護士 波戸岡光太
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