言われた相手は忘れないもの-新聞連載vol.4-

第3回ではパワハラになる6つの類型とそうならないための判断基準についてお話ししました。今回はパワハラを起こさないための、より実践的なスキルや具体例をお伝えします。

ありがちなNG発言

パワハラになる6つの類型の中で多くみられるのが、「精神的な攻撃」です。
皆さんは、部下が思い通りの行動をしなかったときや期待した成果を挙げられなかったとき、どのような態度をとっていますか。つい人格をなじる言葉を使ったり、周囲に聞こえるような声で叱責したりしていませんか?

例えば、15時から始まる会議の資料を先週から部下に依頼していたのに、当日昼になっても出来ていないことが分かったとき、「なに考えてんだよ!」「ふつう、ありえない!」などという言葉で相手を追い込んでいませんか?ほかにも、「何回同じことを言わせるんだ」「こんなこともできないのか」「ほんと、使えないな」「君に任せた僕が間違っていたよ」などといった言葉を投げかけていませんか?思い通りに動かないことでストレスを感じ、このような言葉が出てしまうのかもしれません。

しかし、これらの言葉はどれも人格の否定につながり、パワハラに当たる可能性があります。つい口から出てしまった言葉の場合、言った方はすぐに忘れたり、その後で冷静さを取り戻すので問題意識が希薄になるかもしれません。ですが、言った言葉は取り消せないですし、言われた方はいつまでも覚えているものです。そして、このようなことが積み重なると、大きな問題に発展してしまいます。

必要なのはコミュニケーションスキル

発した言葉は、伝わる相手に大きなインパクトを与えます。思わず発した言葉でもパワハラに当たることがあります。そうならないために必要なのが、コミュニケーションスキルです。パワハラにならないためのヒントを5つお伝えします。

①相手の話を最後まで聞く

まずは相手の話を「最後まで聞く」ことです。簡単なことのようで、これがなかなかできないものです。人は話すよりも聞く方のスピードが速いので、話の途中で我慢できずに「でもね」「いや、あのね」「だからさあ」などと話をさえぎってしまいがちです。けれど話す人には「自分の話を最後まで聞いてほしい」という根源的な欲求があるので、これをシャットアウトされると強いストレスを感じてしまいます。

相手の話を最後まで聞いたうえで、まずは「なるほど」と受容し、それから「話していいかな」と提案をする、そこで初めて相手はあなたの話を聞く態勢をつくれます。「この人は自分の話を聞いてくれて、分かってくれる。だからこの人の言うことをききたい」という順序で信頼関係は築かれていきます。

②“I”メッセージで伝える

部下を指導する際は“I(アイ)”メッセージ、つまり「私は~」と自分を主語にして話してみましょう。例えば、不満げな表情をしている部下に対して「君は不満げな表情をしているね」と“You”を主語にすると、「いえそんなことありません」と反感を買われがちです。

そうでなく、「私には君が納得していないように見える」と“I”を主語にすると、相手を評価することなく、自分の考えをスマートに伝えることができます。部下にとっても、「自分はそう見えているんだ」という気づきが生まれやすくなります。

③「ヒト」ではなく「コト」

うまくいかないとき、人はつい誰かのせいにしたくなります。けれど、大切なのは「ヒト」ではなく「コト」。「コト」にフォーカスして指導し、「何が障害だったんだろう」と一緒に考える仲間になりましょう。人を憎らしく思うと、関係の質が低下します。そうすると思考の質が下がり、行動の質が下がり、結果の質が下がるという、連載初回でお話ししたバッドサイクルにはまってしまいます。

④いい質問をする

部下の仕事に対して何か意見したいときは、「いい質問」をすることも試みてください。人の脳は、質問されると答えたくなる性質を持っています。

いい質問を投げかけることは実はスキルのいることです。「何かいい案ない?」と聞くだけでは何の意見も出てきません。いい質問をすることで、相手の意見を引き出し、「やらされ感」ではなく主体的な行動につなげることができます。例えば、会議の資料がなかなか上がってこない場合、「早く資料を上げろ!」ではなく、「会議に間に合わせるために何ができる?」といった具体です。

⑤不満は提案に変えさせる

部下の不平や不満に対しては、頭ごなしに叱責するのではなく、「どうすればその不満が解消されるのか」「そのためには何ができそうか」、部下から提案を引き出しましょう。これは、④の「いい質問」にも似ていますね。

最後に、自分の言動に迷いが生じたら、理想の上司を思い浮かべてみるのもおすすめです。理想の上司だったら、こんなときどんなふるまいをするだろうか。もしあなたが部下だったら、どんな風に指導されたいだろうか。視点を変えてみると、多くの気づきが生まれ、複数の選択肢を見つかりますよ。

「生産性新聞」(2023年5月25日号・連載第4回)

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私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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