コミュ力を磨けば交渉は上手くいく-交渉スキルをUPしよう-

「人と交渉するのって、なんだか苦手」
そう感じている方は多いのではないでしょうか。
「自分の意見が上手く伝わらない」「納得してもらえない」「話がまとまらない」といったことが理由で交渉決裂、といったことがあったのかもしれません。

「交渉」と聞くと、営業での値引き交渉、プロ野球の契約交渉など、仕事上での交渉を思う方が多いかもしれません。
実際、弁護士という職業上、私もさまざまな交渉の場面に遭遇します。それは、示談だったり、裁判だったり、契約だったりします。

でも、皆さまも、日常でも知らず知らずのうちに「交渉」している場面は意外と多いです。

例えば、外で食事をしようとなったとき、
あなた:中華が食べたいけど、君は何がいい?
相手:フレンチがいいな。
ここでどちらにするのか話し合いがなされますよね。その結果、中華に行くのか、フレンチに行くのか、もしくは別のジャンルを選択することもあるでしょう。これも交渉の一つです。

もうひとつ別の例で言えば、家電量販店で冷蔵庫と洗濯機を買うとしましょう。
「2つまとめて買うから、少し安くしてもらえない?」
と値引きをお願いすることってありませんか? これはまさしく値引き交渉です。

もしかしたら、お小遣いの値上げ交渉、などというのもあるかもしれません。

「交渉」とは何か?

◎「交渉」とは最も望ましい合意を得るためのコミュニケーション

交渉とは「最も望ましい合意を得るためのコミュニケーション」です。よく言う、「三方良し(売り手良し、買い手良し、世間良し」の精神でもあります。
「私はこうしたいけど、あなたはどうしたい?」というコミュニケーションを経ながら、最終的にどうするのか、互いに最も望ましい合意を目指します。

「あなたはどうしたい?なるほど、そう考えているのね」で終わってしまっては、タダの会話になってしまいます。
交渉では、必ず最後にお互いが「合意」する、ということが重要です。

◎勝つか負けるかでは交渉は上手くいかない

交渉に勝ち負けは必要ありません。お互いが納得するゴールに至ることが重要です。

例えば、先ほどの外食の話ですが、相手がフレンチに行きたいのに、強硬に中華にしたとしたら、あなたは満足かもしれませんが、相手はどうでしょうか。不満に感じ、食事中、不機嫌だったかもしれません。あなたもせっかくの食事を楽しめなかったかもしれません。そして、そんなことが続けば、相手から、もうあなたとは食事に行きたくない、と言われるかもしれません。

仕事上の値引き交渉でも同じです。一方的な値引き要請ばかり突き付けていたら、相手はもうあなたと会いたくないと思うかもしれません。
最終的には取引を止めたいとまで思われてしまうかもしれません。

交渉は相手を打ち負かすことではなく、お互いが納得の上で、最良の選択をするということです。
そこには、コミュニケーションがあり、お互いのニーズをきちんと理解し合うことが重要なのです。

上手に「交渉」を進めるコツとは?

スムーズに交渉を進めるには、相手といかにうまくコミュニケーションを図るか、ということが重要です。
相手とコミュニケーションを取る中でお互いのニーズを知り、目指す合意の形を創っていきます
それらをどうやって行えばよいのか、そのポイントをお伝えします。

◎自分のニーズを知る

まずは、自分の本当のニーズは何か、を把握しましょう。

自分はこの交渉や取引で、いったい何を得たいのだろうか? 自分が一番必要とするものは何だろうか? どんなメリットを得たいのだろうか?をしっかりイメージすることが大事です。

「合意すればいい」「とにかく終わらせたい」ではなく、その先のイメージを持ちます。それは、気持ちが解放されるでもいいですし、これを頑張れば次の仕事につながるでもいいでしょう。社内の評価が上がる、会社が成長する、もっといいお客さんにつながる、でもいいです。
まずは、自分の本当のニーズを知ることが大切です。

そして、そのニーズを実現するための合意の形を、ゾーンで考えておきます
最大値はどこか、最小値はどこか、解決すべき内容に幅を持たせ、安易な落としどころを探さないということ。
これを、ゾーパ=ZOPA(Zone of Possible Agreement)と言います。

値引き交渉であれば、ギリギリここまでは値引きできるけど、それ以下では無理。理想をいえばこの価格で合意したい、といった具合です。もちろん、相手にも、ここまで値引きして欲しいが、最低でもこのくらいは、というゾーンがあるでしょう。自分のゾーンと相手のゾーンの重なるところが、双方にとって合意可能なゾーンとなります。

先ほどの外食の話ですが、私の本当のニーズは「中華が食べたい」ということだったのでしょうか。そういう場合もありますが、肩ひじ張らずに相手と楽しく食事をしたかったのかもしれません。そうであれば、必ずしも中華である必要はないですね。
相手も、たまたま前日に食べたのが中華だったので、洋食にしたいと思っていたのかもしれません。だとすれば、フレンチには必ずしもこだわりはなく、イタリアンで合意できたかもしれませんね。

◎相手のニーズを知る

次に、相手のニーズを知ることが必要です。自分に「こうしたい」というニーズがあるように、相手にもニーズがあります。
そのニーズが何なのかを正しく理解することが、合意形成においては重要です。相手が本当は何を実現したがっているのか、逆に、何を怖がっているのか。それを聞き出すには、「質問力」を高めることが重要です。

質問力とは、相手を理解したり、相手に気づきを与えたりするために、質問を投げかける力のこと。
質問といっても、「どうして分かってくれないんですか?」「なぜYesと言ってくれないんですか?」と自分を正当化するような、自分のための質問ではだめです。
そうではなく、相手が話したいことを引き出す質問を投げかけることが必要です。
例えば、「どうなると良いのでしょうか?」とか、「他にいい方法はありませんか?」という感じです。面白いもので、人は聞かれると答えたくなります。そうした質問を通じて本当のニーズが確認できることがあります。

こんなことがありました。服のデザインをしている経営者が、「デザインを考えたので知的財産の特許もしくは実用新案でもよいので、何か権利を取れませんか」と弁理士さんに相談されたそうです。すると弁理士さんには「特許は無理だし、実用新案は取得しても権利として弱いので、意味がない」と言われたそうです。確かに、弁理士さんの言っていることは間違っていません。
でも、その方は権利の強弱よりも、「実用新案を取りました」ということが一つのブランディングにつながると考えており、申請することで、そういうところまでしっかり考えている会社だということをアピールしたいという狙いがありました。
クライアントの真のニーズを知った弁理士さんは、「それならある程度費用をかけても、権利を取得する価値はありますね」ということで話がまとまったといいます。このように、表面的なニーズではなく、根本にあるニーズを聞き出すことが重要です。

また、忘れてはいけないのが、目の前にいる交渉相手はその人一人だったとしても、その背後に上司がいたり、親会社があったり、他の顧客を抱えていたり、ときには家族がいたりするということです。
相手が首を縦に振ってくれない理由には、そのような人たちがいるからかもしれません。ですから相手の後ろや横、奥など、立体的に見たうえで、相手のニーズをつかむ必要があります。

◎状況を確認しながら合意形成を図ろう

お互いのニーズがわかれば、「合意」というゴールに向かって進んでいくことになるわけですが、ゴールが何なのかを明確にしておきましょう。
このときに大事なのが「クリエイティブ・オプション(Creative Option)」と「バトナ=BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)」です。

いったいなんのこと?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。一つずつ、解説します。

「クリエイティブ・オプション」とは創造的選択肢、いわば3つ目の選択肢を創り出すことです。
安易に落としどころを決めてしまったり、Yes or Noなどの二者択一にするのではなく、3つ目の案がないか、選択肢を増やしていくということです。交渉の中で、当初の自分の考えにとらわれることなく、新たな選択肢を創造していく醍醐味が、そこにはあります。

次に、「バトナ」とは、合意が成立しなかった場合の最善の代替案を用意しておくということです。

どう頑張っても交渉が成立しなさそうなときもあります。そんなときに、「もうだめだ…」と思うのではなく、「だったら、こっちの別案でいってみよう」というのがバトナです。A社がダメならB社でとか、これがダメでもあれがある、という代替案を持って交渉に臨むことは心理的にも良いと言われています。なぜなら、心にゆとりを持って交渉に臨めるので、結果的に良い交渉ができるのです。
逆に、「これしかない!」と思って交渉に臨むと、視野が狭くなって落ち着きがなくなり、体が硬くなり、ミスを誘発することにつながります。あまりの必死さに、「この人、怖くて契約したくないかも…」と思われなくもありません。
それでも、どうしてもバトナがないときは、「コレも縁だろう」ととらえることも必要です。

◎コミュニケーションで信頼関係を作ろう

交渉において、もう一つ大事なことがあります。それは、相手との信頼関係です。
同じことを言われても、誰が言うかでその受け止め方は変わってきます。同じ商品でも、買うならあのお店でとか、あの人から、と思うことありませんか? なぜそう思うのか? それは、そのお店なら、その人なら、信頼が置けるからではないでしょうか。

交渉においても相手から信頼されることで、「この人ならOKしてもいい」と思ってもらうことが、スムーズな交渉のカギの一つです。

信頼を形作る要素にはいろいろあると思いますが、私が重要と感じるのは、誠実であること、能力があること、一貫性があること、そして、しっかり話を聞くことだと思っています。
特に話を聞く「傾聴」に関しては、「聞いて欲しい」という欲求を満たすことで、「私の話を最後まで聞いてくれるあなたは私のことをわかってくれる。そんなあなたの言うことなら合意しましょう」と合意に到達しやすくなります。
ついつい、人の話を遮って発言したくなりますが、しっかり相手の話を聞くことは、自分が話すことより重要ともいえます。

人間は感情の生物である

交渉において、勝ち負けは関係ないとお伝えしましたが、そうは言ってもやはり自分の意見は通したいですし、自分が有利になるように話を進めたいと思うものです。そんなとき、ついやりがちなのか、理詰めで相手を説き伏せようとする行為です。

でも、それはあまり意味のないことだと私は思っています。

人は感情の生物ともいえます。

人の脳は「三層のアイスクリーム」をイメージすると理解しやすいです。一層目は「生存本能」。これは生きるか死ぬかみたいなところで、大きな音がすると危機感を感じてビクッとするなどがそれです。
二層目が「感情」。嫌だとか嬉しいとか気持ちいいとか、そういった感情や情動の部分です。
そして三層目、一番外側にあるのが「論理」「理屈」の部分です。人間は三層目の大脳皮質が非常に発達しているので、物事を理屈で考えることが得意です。

でも、実際には感情(二層目)が先にあって、それを理屈(三層目)で正当化している関係にあるともいえます。
なんだかんだ言っても、根っこには「快・不快」「好き・嫌い」「やりたい・やりたくない」といった感情があって、それを、「時期尚早です」とか「時間がありません」とか「前例がありません」などと理由を付けて断っているのです。
それなのに交渉が上手くいかないときに、「今がベストタイミングです」とか「こうやれば効率的にできます」とか「他社さんもやっています」などと言ってその論点をつぶしても、答えは変わらず「NO」なのです。
むしろ理屈で論破しようとすると、相手に不快な気持ちを与えてしまい、余計に合意から遠ざかってしまう恐れがあります。
交渉の場においては、相手の感情に思いを至らせて話を進めていくことが、理屈を並べていくよりも効果的です。

そしてもう一つ、感情に加えて自尊心(プライド)を傷つけないことも大切です。
誰もが「自分は大事にされている」と思いたい。大事だと思われることで人は心地よさを覚えるものです。
ですから、どんなにわかってもらえなくても、絶対に自尊心を傷つけてはなりません。
きちんと人と問題を分けて、相手をリスペクトしながら交渉を進めることが大切です。

相手を敵とみなして論破するのではなく、相手の感情を動かして、「合意にたどり着くための協力者」にしたいものです。

まとめ

仕事においても日常の生活においても、内容の違いさえあれ、あらゆるところで交渉は行われています。
できるだけ、自分に有利な条件で合意したいと誰もが思っていることでしょう。
でも交渉は勝負ではありません。相手を論破することが目的ではなく、お互いのニーズを知り、最もお互いが納得できる合意を導き出すのが交渉です。そのためには、質の高いコミュニケーションが欠かせません。

相手を説得したいのにできない、わかってくれない、わかって欲しい、そんなふうに感じている方、もしかしたらコミュニケーションが不足しているかもしれません。今一度、相手とのコミュニケーションを見直してみてはいかがでしょうか。

私、波戸岡は企業に向けた交渉力養成セミナーや、コミュニケーションスキルUP講座を実施しています。
取引先や顧客、従業員との日々のコミュニケーションにお悩みの方、コミュニケーションスキルをアップして交渉をスムーズに進めたいとお考えの方、いつでもお気軽にご相談ください。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

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