パワハラは幅のある概念-新聞連載vol.2-

数あるハラスメントの中でパワハラはわかりにくく、難しいハラスメントです。
なぜなら、パワハラは幅のある概念だからです。今回は、パワハラの難しさについてお伝えします。

パワハラの定義とグレーゾーン

2022年4月から中小企業も適用対象となったパワハラ防止法には、パワハラとは、①優越的な関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすものと記されています。

ここで重要なのは、パワハラはセクハラなどと異なり、相手がパワハラと思えばパワハラになるわけではなく、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」行為がパワハラになるということです。ここが、パワハラの難しいところです。

「業務上必要かつ相当な範囲」というのはどこまでを示すのでしょうか。
定義だけを見ても必ずしも明確ではありません。会社では、上司は自らの職位に応じて権限を発揮し、業務上の指示や指導を行うことが役割として求められます。たとえ受け手が不満に感じたとしても、指示や指導が業務上必要かつ相当な範囲で行われれば、パワハラには当たりません。その範囲は、その時の状況や関係性によっても変わってきます。

例えば、騒音のある工事現場で大声で指示を出すのと、静かなオフィスで大声で指示を出すのとでは、同じ大声でも意味が異なります。工事現場では大声を出さなければ指示が伝わらないこともありますから、これは業務上必要かつ相当な範囲に収まりやすいでしょう。
しかし、静かなオフィスで大声で指示されたら、威圧感を与えかねず、パワハラに当たる恐れがあります。

いつのまにかパワハラに

また、よくありがちなのが、指導のつもりがパワハラになっているケースです。上司は良かれと思って一生懸命指導しているつもりが、いつのまにか度を超えてしまうのです。

例えば、指導のつもりで熱が入りすぎ、語気が荒々しくなってしまったり、不適切な言葉をまぎれこませてしまったり。他のハラスメントと違って、パワハラは必ずしも知識不足からくるわけではないことも、その予防と解決を難しくさせています。

さらに、コトの問題のはずが、いつのまにかヒトの問題にすり替わり、指導ではなく個人批判、人格否定になってしまうこともよくあるケースです。
本来であれば仕事という「コト」に対して指導をするべきなのに、次第に、「こんなこともできないの」「君はほんとに使えないね」と、部下の「ヒト」、つまり人格を責めてしまい、気づいたらパワハラになっていることがあります。
このように、パワハラには、自分で気づかないという怖さがあります。

パワハラを引き起こすアンコンシャス・バイアス

もう一つ、パワハラを引き起こす要因として、「アンコンシャス・バイアス(自覚のない思い込み)」というものがあります。これは、自身のこれまでの知識や経験、価値観などがベースになって無意識レベルで起きる認知の歪みです。

例えば、「医者」と聞くと白衣を着た男性を思い浮かべたり、箸の使い方や日本語が流暢な外国人を見ると少し驚いたりしませんか?それが「アンコンシャス・バイアス」です。

職場においても「たるんだ部下は厳しく指導したほうがいい」「自分だって怒られながら育ってきたんだ」「定時で帰る社員をみるとやる気を疑う」など、かつて自分が経験したことが基準となって、当然のように振る舞った言動が、パワハラにつながることもあります。

アンコンシャス・バイアスは、日々の言動を裏側から支えるものであり、職場のリーダーや管理者が繰り返していると、ちりも積もれば山となり、パワハラを引き起こすリスクが大きくなると言えます。
また、無意識であるがゆえに、本人がそれに気づくのは容易ではないことが、パワハラの予防と解決を難しくしています。

パワハラは早期発見、早期解決が基本

パワハラに限らず、ハラスメントを放置すると大きな問題につながります。問題行為が違法だと認定された場合には、行為者は懲戒処分を受けたり、場合によっては会社にも賠償責任が発生し、訴訟にまで発展することもあります。そうなると、会社のイメージは著しく低下しますので、早期発見、早期解決が強く求められます。

ところが、私たちはパワハラの小さな兆候を見落としたり軽視しがちです。ここでもバイアスという認知の歪みが影響します。
「でも、あの人仕事はできるからね」と都合よく解釈してしまう確証バイアス、「誰も指摘していないから大丈夫」と周りに合わせる同調性バイアスなど、無意識のうちにパワハラの徴候を見ないようにしてしまうのです。
また、徴候に気づいても「今はまだ大ごとになってないから」と先延ばしをする現在バイアスも事態の深刻化を助長させます。

しかし、そうした小さな兆候を見逃していると、取り返しのつかない大きな事態に発展してしまう恐れがあります。ぜひ、声を上げることをためらわず、火種が小さいうちに対応し、解決しておきましょう。

「生産性新聞」(2023年3月25日号・連載第2回)

 

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
少しだけ自己紹介にお付き合いください。
私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

経営者は日々様々な課題に直面し、意思決定を迫られます。
そんな時、気軽に話せる相手はいらっしゃいますか。

私は法律トラブルに限らず、経営で直面するあらゆる悩みを「波戸岡さん、ちょっと聞いてよ」とご相談いただける顧問弁護士であれるよう日々精進しています。
また、社外監査役として企業の健全な運営を支援していきたく取り組んでいます。
管理職や社員向けの企業研修も数多く実施しています。

経営者に伴走し、「本音で話せる」存在でありたい。
そんな弁護士を必要と感じていらっしゃいましたら、是非一度お話ししましょう。

ご相談中の様子

波戸岡 光太 (はとおか こうた)
弁護士(アクト法律事務所)、ビジネスコーチ

経歴・実績 詳細はこちら
波戸岡への法律相談のご依頼はこちら

経営者に、前に進む力を。
弁護士 波戸岡光太
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
TEL 03-5570-5671 FAX 03-5570-5674